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伯耆大山に迫る海神|山の怪獣プロジェクト
怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。八体目の怪獣は中国地方を代表する名山・伯耆大山。THE・山の怪獣とガイガン山崎さんは称しますが、一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #09/連載一覧はこちら
目次
レジェンドへの挑戦
前回、しみじみと実感した。どの怪獣にも産みの苦しみはあったけれど、○○風新怪獣の難しさは群を抜いている! やっぱり自分自身がマニアなだけに、なかなかOKが出せないのである。これっぽっちも再現できてないじゃんと。
まあ、前々回もライダー怪人風というテーマだったので、これはこれで大変は大変だったんだが、このときに立ちはだかったのは質よりも量だった。つまりいくら描いても終わらない辛さであって、一体一体のデザインに悩む時間は少なかったように記憶している。結局、グローブとブーツ、それにゴツいバックル付きのベルトさえ身に着けていれば、なんとなく昭和の仮面ライダーシリーズに登場する怪人っぽく見えてくるものなのだ。もちろん、ほかにも細かくエッセンスを拾い上げたりはしてるんだけど、あくまでも味付けレベルの話であり、基本的には好きなようにつくることができた。ちゃんと自分たちらしさも出しつつ、ライダー怪人っぽいものになったんじゃないかと思う。
しかし、前回のバローズ(初代)は、1960年代のウルトラ怪獣風という極めて限定的なテーマにしたため、その難易度が桁違いに跳ね上がってしまったのだ。
カネゴン、ガラモン、バルタン星人、レッドキング、ジャミラ、ダダ、ゼットン、エレキング、メトロン星人、キングジョー。日本人であれば、誰もが一度は目にしたことがあるはずだ。ここで名前を挙げたウルトラ怪獣は、いずれも成田亨という一人の彫刻家によってデザインされている。すなわち1960年代のウルトラ怪獣っぽい怪獣をつくるためには、その作風をトレースしなくてはならない。
しかし、余人をもって替えがたい才能と個性の持ち主だったからこそ、彼の生み出した怪獣は今もなお輝き続けているわけだ。そう簡単に真似できるものではない。もっともゼットンっぽい怪獣、バルタン星人っぽい怪獣みたいなものであれば、別に描けなくもないだろう。これらの特徴的なパーツやシルエットを掛け合わせて、いかにもな新怪獣をつくることもできるだろう。でもそれは質の低いパロディでしかなく――ここで冒頭の言葉に立ち返ることになるのだが――他でもない自分たちが受け入れがたいものになってしまう。きちんと成田亨の方法論に則って、まったく新しい蜘蛛の怪獣、鬼の怪獣をデザインしなければ!
かつて成田亨は、自らの怪獣デザインに以下のルールを設けていたという。
1.怪獣は怪獣であって妖怪(お化け)ではない。だから首が2つとか、手足が何本にもなるお化けは作らない。
2.地球上のある動物が、ただ巨大化したという発想はやめる。
3.身体がこわれたようなデザインをしない。脳がはみ出たり、内蔵むき出しだったり、ダラダラ血を流すことをしない。
彼自身も語っていることだが、この3つの規範を守って怪獣をデザインすることは、ほとんど不可能に近い。古今東西のモンスターに、多かれ少なかれ含まれている要素だ。まあ、あくまでも一デザイナーのポリシーに過ぎないし、あまり絶対視するのも考えものだとは思うけれど、このときばかりは大いなるヒントになった。ポイントは、奇形化することなく形の面白さを創出すること。そして形の面白さとは“意外性”であり、その多くはモチーフの抽象化によってなされていた。
このことを念頭を置いて、我々もモチーフである蜘蛛を変形させながら、鬼のようにも虫のようにも見える不思議なフォルムを模索してみたんだが、なかなかどうして決定打といえるデザインが出てこない。そこでフェネックや象といった、蜘蛛から縁遠いモチーフを掛け合わせてみた。これもまた成田が好んで使っていた手法で、なんとなく全体の方向性が見えてきた瞬間だったように思う。しかし、それで成田怪獣っぽくなったのかと問われると自信が持てず、彼の後任デザイナーを務めた池谷仙克のテイストも足したことにして、なんとか自分たちが納得できる着地点を見出した感じだ。富士登山でいえば、8合目くらいで引き返すような……妥協といえば妥協である。パロディ的なアプローチを避けていたわりに、『ウルトラマン』のメフィラス星人とキーラの間の子っぽくなってしまったのも、我々の力不足といえよう。
でも初代と二代目の差異に関しては、そこそこうまくいったんじゃないかしら。見る人が見れば、前者は高山良策が、後者は開米プロダクションが着ぐるみをつくった想定で描かれたものであることまで分かるはず。しかし、さすがにマニアック過ぎた。や、ボクも気付いてはいるんですよ! ここ数回、ちょっと凝り性が悪い方向に働いているなと。ここは初心に帰って、もっと分かりやすいヤツのほうがいいんじゃないか。そんな反省も込めて考えたのが、今回の新怪獣だ。その名も……。
歩く活火山、ラゴラモス!
鳥取近海で猛威を振るった超巨大怪獣。“大山の背比べ”や“出雲の国引き神話”の元になったとされる。各国の人工衛星から24時間体制で監視されてきたが、その恐ろしい外見に反して穏やかな気質で、対馬海流とリマン海流に身を任せて移動し続けていること以外は何も分かっていない。しかし、一種の共生関係にある4匹の大うつぼは気性が荒く、日本海を航行する船舶を何隻も沈めてきた。
両肩の大きな隆起をはじめ、身体の各所が火山のように燃え盛っており、溶岩や火山弾、火山ガスなどを噴出しているが、これらは初めて目撃される現象であり、突然暴れ出したことも含めて、何らかの暴走状態にあったという見方が強い。目下のところ、その原因と考えられているのが、相模大山よりラゴラモスの頭頂部(頂上とでも呼ぶべきか?)に飛来したガルラ星人に施されたマインドコントロールである。
ガルラ星人とラゴラモスの襲撃から鳥取を救ったのは、奇しくも同じガルラ星人の集団であった。それぞれ鞍馬山、愛宕山、比良山、高尾山から飛び立った彼らは、米子港付近で陣形を組み、軍隊さながらの連携を以て大うつぼを各個撃破。九州方面へと敗走する同族を追って去っていった。一方、主の支配から解き放たれたと思しきラゴラモスは、徐々に動きが緩慢なものになり、伯耆大山の麓近くで活動を停止してしまう。近々、日米の共同作戦によって、安全に爆破解体される予定だ。
クリエイターズ・コメント
「ザ・山の怪獣です。デザイン担当の入山くんには、どこか伯耆大山を思わせるシルエットにして欲しいとお願いしました。当初は岩石状の腕が生えていたものの、どうにも地味な印象が拭えなかったので、腕の場所に大うつぼを住まわせることに。怪獣ブーム華やかなりし時代に売られていた、“パチ怪獣ブロマイド”を意識したアイデアです。この手のブロマイドって、各メーカーによるオリジナル怪獣が描かれているんですが、既存の怪獣にツノ、トゲ、翼の類を生やしただけだったり、動物図鑑や恐竜図鑑の図版をトレス&コラージュしたものだったり、現代の怪獣にはない如何わしさがまた非常に魅力的なんですね。こいつの場合、山の風景画に適当な顔と足を描き足して、さらに魚図鑑のうつぼをコラージュした感じでしょうか」(山崎)
「火山や岩石をモチーフにした怪獣は珍しくないため、複数の人間が入るタイプの着ぐるみを想定したデザインにすることで、既存のものとの差別化を試みています。縦に2人、横に3人など、いろんなパターンを考えてみましたが、最終的に横2人というオーソドックスなパターンに落ち着きました。真ん中の山は、主催の山崎からの指示で、西側から見た伯耆大山に少し似せています。いわゆる伯耆富士ですね。当初、伯耆大山は見る方向によって形が全然違うということを知らず、なんとなく北や南から見たときの写真を参考に描いて送ったんですが、こうじゃないとボツにされて少し混乱しました。2枚目のイラストは、昭和の少年雑誌に載っていた絵物語のイメージです。ちなみに『モンスターハンターライズ』の発売日が間近に控えていたので、ガルラ星人には4人1組で戦ってもらいました。基本的には第5回で描いたものの色違いですが、ラゴラモスの頂上に立つ“悪いガルラ星人”に関しては、今後も出てくる重要キャラクターとのことで、改めてデザインを起こしています」(入山)
次回予告
いかがだったろうか。隔週連載のつもりが、随分と間が空いてしまった。怪獣のデザインコンセプトが複雑になってくると、その解説テキストもまた長く複雑になり……まあ、難産だった。もっと気楽な感じで怪獣のことを知れる連載にしたいんだけど、その道は険しそうだ。次回こそ軽く書けて楽しく読める記事にしたい。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はMerryさんの活動日記より
怪獣博士
ガイガン山崎
1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。
最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。
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