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石鎚山に封印されていた鬼怪獣|山の怪獣プロジェクト
怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。北海道の旭岳の怪獣アイスホーンに続き、第二弾は四国の石鎚山。この山を開いた修験道の開祖である役小角が絡むとか...果たしてどんな怪獣が出現するのでしょうか...!?
山の怪獣を本気でつくりたい #03/連載一覧はこちら
目次
君の名は
オリジナル怪獣をつくっていて、最も時間が掛かることといえば、やっぱりデザイン。前回のアイスホーンのように、最初にパパッと描いたものが“正解”に限りなく近かったラッキーパターンもあれば、何枚描いても納得できないことだってある。深夜、デザイン担当の入山くんから矢継早に送られてくるラフスケッチを見ては、ここはこうじゃないかああじゃないかと意見を述べたり、ときには自分でもポンチ絵を描いてみたりしつつ、お互いにしっくりくる形を探し続ける作業。まさに苦しくも楽しい時間だ。アイスホーンに関しては、やや過剰かと思われたディテールを削ぎ落とし、顔つきをよりヒグマに近づけてフィニッシュと相成った。
そして、この次に喧々諤々となるパートが、怪獣のネーミングである。ラフ段階では、それこそ「山好き怪獣ヤマップゴン」のように適当な呼び名で済ませつつ、頭の中でずーっと考える。ひたすら考える。これもなかなかスッと出てこないんだなぁ。アイスホーンの場合、仮称は「冷凍神獣ゴッドガンダー」だった。ラフを描く際、入山くんのほうで便宜的につけたものだ。音の響きとしては、全然悪くない。
ただ、いくつか引っかかるところがあり、まずは肩書き(種別)の部分。冷凍はいいとして、神獣はどうなのか? 奇獣、甲獣、雷獣、暴獣……怪獣の“怪”の部分を、別の漢字に置き換えるパターンは多々あるけれど、どちらかというと90年代以降のネーミングセンスだったりする。自分たちが目指す70年代テレビ特撮に登場する怪獣たちのそれと比較すると、ちょっとスカした感じがするのだ。ここはシンプルに○○怪獣といきたい。結局、冷凍から少しズラして凍結怪獣に落ち着いた。
この、年代やメディアごとのテイストの違いについては、また別の機会に詳しく語るとして、ゴッドガンダーのほうは70年代っぽいと言えなくもない。ただ、ガンダーの部分がマズい。マズすぎる。『ウルトラセブン』に、肩書きも被ってる「凍結怪獣ガンダー」という怪獣が出てくるのである。仮名だからこそ許されるネーミングというか、仮でも畏れ多い。しかもゴッドって、こっちのほうが偉そうじゃんか。先人に対するリスペクトを忘れてはなりませんぞ!
で、ゴッドカムイ、キングナダラス、コールドキング、シバレルキング、デスフリーザー、スノーモンス、ブリザラス、フローズンキング、フロストキング、フライングイエティ、キングバランガなどなどの提案を経て、最終的にアイスホーンに決めた。ポイントは小学生でも知ってそうな単語を組み合わせることだろうか。さあ、そろそろ山の怪獣第2号に話題を移そう。こいつもまた、ネーミングに時間が掛かってしまった。その名も……。
石鎚山の巨鬼、双面怪獣バズラコング!
石鎚山の天狗岳に閉じ込められていた怪獣。修験道の開祖である役小角が従えていた、前鬼・後鬼の名で知られる式神と同一の存在と推測される。高度な外科手術によって、2体の怪獣が背中合わせに結合されており、それぞれ独立した意思を持っているようだが、伝説で謳われるとおり彼らがつがいであるかどうかは確認できていない。
口から吐き出す2万度の高熱火炎と左腕に移植されたトゲ付き鉄球を武器とする赤い身体(前鬼)に対して、青い身体(後鬼)は両腕の巨大なハサミを振り回し、口から泡状の溶解液を噴射する。この溶解液は可燃性も高く、火炎放射と同時にまき散らしながら身体を回転させることで、周囲を焼け野原に変えてしまう。しかし最も恐ろしいのは、その比類なき怪力で、特に腕の力はダンプカー20万台分とされる。
前額部には鬼、あるいは般若を思わせる人工物がひとつずつ接続されているが、これらの働きによって、かつて人間の制御下に置かれていたと考えられている。もっとも1300年もの年月の経過により機能が停止しているため、今を以て詳細は不明。
役小角ゆかりの地では、こういったオーバーテクノロジーの産物の発見が相次いでおり、飛鳥時代の修験道と異星文明の関連性を指摘する専門家も少なくない。登山中、この種の怪しげな遺物を見つけたときは、うっかり手を触れたりしないほうがいい。それは大昔の怪獣が封じ込められた、魔のタイムカプセルかもしれないのだから。
クリエイターズ・コメント
「あの役小角や空海が修行したと伝えられている山とのことで、ヤマップさんのほうから前鬼と後鬼の怪獣バージョンを提案されました。オニデビル、オニバンバ、オニオン、宿那鬼と、ウルトラマンシリーズにも鬼の怪獣はたくさん出てきます。これは悪くないモチーフだなと。ただ、従来の鬼怪獣は、ルックスも鬼そのものだったので、ちょっとパターンを変えたくて、直接のデザインモチーフには甲殻類をチョイス。そこから先はデザイン担当の入山に任せましたが、前鬼はモンハナシャコとウチワエビ、後鬼はガザミ(ワタリガニ)だそうです。一応、なんとなく赤鬼と青鬼にも見えるようまとめたつもりで、金棒をイメージしたトゲ付き鉄球を付けてもらったりもしました。まぁ、前鬼の武器は斧らしいんですが……。なお、バズラコングという名前は、子供の頃にやっていた『鬼神童子ZENKI』というマンガに登場する呪文『ヴァジュラオン(アーク)』を怪獣っぽくもじったものです」(山崎)
「イラスト連載とはいえ、やはり着ぐるみ……人が中に入ることを前提にしたデザインにしなければ、皆さんが思い浮かべる怪獣らしい怪獣にはなりません。当初は2人の人間が横並びで着込むペスタータイプを考えていたのですが、主宰の山崎から左右よりも前後ろに並んでいるアシュランタイプのほうが、シャレが効いてていいのではないかと言われ、そちらに改めました。この場合、ひとりの演者が、シーンによって向きを変えて着ぐるみに入ることになると思います。そのため、あまりブ厚くならないよう気をつけました。ちなみにペスター、アシュランというのは、ウルトラマンシリーズに登場する怪獣の名前です。ただ、最終的に仕上がったデザインは、ウルトラ怪獣というよりも東映の怪獣っぽくなりましたね。何がどうなると東映っぽくなるのか、ウルトラ怪獣っぽくなるのかという話は、いずれ主宰が書いてくれると思うので割愛します。まぁ、いかにも性格悪そうなのが東映です」(入山)
次回予告
いかがだったろうか。早々に山っぽくないデザインモチーフになってしまったが、意外と陸地でも見かけるのがカニという生き物。皆さんも登山中に見かけたことがあるのでは? さらに鬼面に関しては、本シリーズの縦糸というか、今後の展開の前フリにもなっている。次回以降もよろしくね。ではまた!
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※表紙の画像背景はchisatoさんの活動日記より
怪獣博士
ガイガン山崎
1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。
最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。
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