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安達太良で蘇る鬼神|山の怪獣プロジェクト
怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。七体目の怪獣は東北を代表する活火山、安達太良山の怪獣です。この山にゆかりがあるあの「鬼」が深く関わっているそうですが、一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #08/連載一覧はこちら
目次
デザインの縛り
1980年代、子供向けのブ厚い怪獣図鑑を手に取ると、そこには特撮モノに登場する怪獣怪人はもちろん、アニメ、洋画、小説、マンガなどに登場するモンスター、果てはUMAまで載っていた。だから少年時代のボクにとって、「怪獣」というカテゴリーは文字通り怪しいケモノ程度の意味合いしかなく、怪獣であることの必要条件なんて、空想上の生き物だというくらいだった。いや、現代まで生き延びていれば、実在していた恐竜だって怪獣にカウントされる。さらにロボットやお化けみたいな怪獣も存在するので、厳密には生き物である必要すらない。怪獣とは本来、何でもアリの存在なのだ。
そんな感覚は、大人というかマニアになった今も残っていて、ゾンビだの幽霊だのが出てくるホラー映画も、剣と魔法の世界を描くファンタジー映画も、怪獣映画の一種として欠かさず観ているし、ポケットモンスターシリーズやモンスターハンターシリーズも、怪獣を集めたり倒したりするゲームとして楽しんでいる。うちのデザイン担当である入山くんにしても同様だ。我々は広く“異形”が好きなんだろう。
ただ、すべての怪獣ファンがそうかといえば、決してそんなことはない。「これは怪獣じゃない、クリーチャーだ」なんて文句は、今も昔もそこかしこで見られる。その違いは身体のサイズ? 生物感の度合い? 愛嬌の有無? 結局のところ、当人が気に入れば怪獣、気に食わなければクリーチャーというだけなんじゃないかと思わなくもないが、少なくとも英語のcreatureには、“毒があって触ると危険な生物”というニュアンスがあるらしい。確かにエイリアンシリーズのゼノモーフ(という名前があるのです、あいつらには)とゴジラ、どちらが触りたくないかといえば、前者と答える人間のほうが多い気がする。もっとも本当に危険なのは、全身から放射線を出してる水爆大怪獣ゴジラのほうなんだけど……。
閑話休題。では、どうしていつも“怪獣らしい怪獣”なんてものにこだわるのかといえば、“山の怪獣プロジェクト”も映画『パシフィック・リム』に端を発する怪獣再評価の流れを汲む企画であろうというのがひとつ。第4回でも述べたが、この映画に登場する「KAIJU」は、人間が中に入って動かせるようなデザインになっている。身体の大きさも、60mから100mという常識はずれの巨躯を誇る設定だった。つまり日本の怪獣って、我々の創るモンスターとはこういうところが違うよねと、海外のクリエイターから具体的に突きつけられたわけだ。まあ、当の日本人からすると、それちょっと違くない? と感じる部分もないことはないが、概ね理解できる。怪獣はデカい。ビルよりも大きくて、目玉や身体の一部がびかびか光っていて、そのシルエットからは“中の人”が見え隠れしている。「怪獣」の必要条件は、本作を以て、改めて定義づけられたと言っても過言ではないだろう。
もうひとつの理由は、単純に面白くないから。いくら怪獣が何でもアリとはいえ、一切の制限なく好き勝手に描いて、これがボクらの考えた新怪獣でございってのは、創作としても仕事としても安易に過ぎる。そもそも怪獣の着ぐるみを作ってる連中の連載なんだから、実際に着ぐるみにできそうなデザインにするという縛りくらいあって然るべきだろう。また、ある程度のルールはあったほうが、発想の取っ掛かりを得やすいし、デザインの落とし所も決めやすい。
ただ、それにしたって前回の怪人軍団はやり過ぎた。やれ都市伝説だ、『サイボーグ009』の怪人版だ、歴代ライダー怪人オマージュだと縛りに縛りを重ねた結果、最低でも10体の新怪人と組織のマークぐらいは作らないと格好がつかなくなり、二人掛かりでひいひい言いながら描きまくる羽目に! しかも今になって見返してみると、自分たちの好みや手癖が出ちゃってるというか、必ずしもコンセプトを徹底できなかったヤツも混ざってたりするんだけど、どうにかこうにか完成させることはできた。これに懲りて、今度はもっと楽にしよう。怪獣らしい怪獣にするだけでも大変なんだから。そんな風に考えていた時期もあったけれど、またまた妙な縛りを設けてしまい、前回を上回る難物になってしまった。その名も……。
酒呑童子の遺児、二代目バローズ!
安達太良山で仮死状態にあった怪獣。地熱の活発化に伴い、千年ぶりに息を吹き返した。かつて源頼光に討たれた酒呑童子、あるいは土蜘蛛と呼ばれる妖怪の同種と見られるが、伝説に謳われるそれらよりも大きく強く禍々しく変化している。
当初は全長1メートルほどの蜘蛛のような形態で活動しており、たまたま遭遇したハイキング客の顔面に張り付いて意識を乗っ取ると、沼ノ平の火口に身を投げさせた。その直後、マグマ噴火とともに巨大になった姿を見せているため、安達太良山の熱エネルギーを吸収することで成体へと変態を遂げたと考えられている。
酒呑童子として知られる初代バローズは、配下の鬼たちを引き連れていたと伝えられているが、彼らはバローズの幼生体に取り憑かれた人間だったのではないかという説がある。事実、第一脚を除く6本の足で頭を抱え込まれたハイキング客の姿は、まるで二本角を生やした鬼を思わせる様相に見えたと記録されている。
また、北米の火山地帯に出現した亜種は、尻尾の先に巨大な卵嚢を備えており、それを温泉に浸すことで孵化を促していた。何百という幼生体の駆除には、陸軍州兵の総出で半年を要したとされるが、二代目バローズは雄の個体だっため、日本では大事には至らなかった。しかし、本当にあれが最後の1匹なのだろうか……?
クリエイターズ・コメント
「酒呑童子というと、真っ先に大江山が思い浮かぶのですが、各地に出生地についての伝説が残っており、そのひとつが安達太良山だそうです。源頼光に追いつめられた酒呑童子は、安達太良に逃げ延びようとするも道中で討ち取られ、その頭だけが故郷を目指して飛んでいったのだとか。また、平安時代のモンスターハンターである頼光は、土蜘蛛という妖怪も退治しているんですが、土蜘蛛と酒呑童子を同一視する研究者もいるそうです。そこで今回は、蜘蛛をモチーフにした鬼怪獣をつくることに。結局、いまいち鬼には見えない形に着地したんですが、あとから描いてもらった幼生体が鬼の顔っぽくなったので、エイリアンシリーズのフェイスハガーよろしく、人間の顔面に張り付く設定を考えました。酒呑童子の誕生譚には、祭礼のときに被った鬼の面が外れなくなり、本物の鬼と化したなんてものもありますからね。頭が飛んでいった伝説も、頼光が幼生体を1匹だけ討ち漏らした話に尾ひれがついたんでしょう。ちなみにバローズという名前は、作家のエドガー・ライス・バローズとウィリアム・S・バロウズから採っています。なんか、怪獣っぽい名前だよなと」(山崎)
「妙な慣例なんですが、かつて再登場を果たした怪獣は○代目と呼ばれていました。たとえば、人気怪獣のバルタン星人なんて六代目までいます。これ、前の登場から間が空いてなければ、普通に同じ着ぐるみを使えばいいんですけど、そうでない場合は新たにつくらなければなりません。ただ、仮に同じ人間がつくったとしても、決して同じ形にはならないんですよね。特に70年代は、尋常じゃなく作品数が多かったり、撮影終了後もアトラクションショーで使い回せるよう頑丈にしなければならなかったりで、60年代につくられた“初代”とはかけ離れた姿で再登場することが常でした。要はずんぐりむっくりしていて、シャープさに欠けるというか、大雑把な造形なんですよ。我々からすると、そこがいいんじゃない! って感じなんですが、悪し様に言うマニアも少なくないと。で、今回はそんなテイストの違いを再現してみようということになったんです。まあ、メインの二代目に関しては、いつもとそう変わりません。しかし、60年代風味……具体的には、初期ウルトラ怪獣を手掛けた成田亨と池谷仙克を意識したデザインというのは、これまでベタ過ぎて避けていたこともあり、いつになく難しい課題でした。彼らの描く怪獣は、非常にシンプルにまとまっていて、ついついゴテゴテさせてしまう我々の作風とは正反対なんです。正直、今でもこれが正解だったのか自信がありません。なお、巨大な卵嚢に繋がる尻尾は、シリキレトタテグモという蜘蛛をモデルにしました。耳はフェネックです」(入山)
次回予告
いかがだったろうか。本来はオマケのはずの初代バローズに、えらく時間が掛かってしまった。成田亨、難しいなぁ。北米に出現したクリーチャー風味の“パワードバローズ”なんかも描けたら楽しかったかもしれないが、今回はギブアップ。次は、もっと軽やかに進めたいものだ。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はhirarinさんの活動日記より
怪獣博士
ガイガン山崎
1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。
最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。
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