投稿日 2022.10.29 更新日 2023.05.23

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自分が登れる山はどこ?|登山の体力度と難易度【山登り初心者の基礎知識】

誰かに登山に誘われたり、書籍やSNSで気になる山を見つけたりしたとき、まず頭に浮かぶのは「私でも登れるの……?」ということ。自分の体力や技術に合わない山に登ってしんどい思いや怖い思いをすることなく、快適に山登りを楽しむにはどんな点に注意すれば良いのでしょう。そこで今回は、山の“難易度”を見える化する考え方を紹介します。

目次

まずは自分の体力を把握しよう!

自分の体力で登れる山って……?(撮影:鷲尾 太輔)

ひとくちに「体力」と言っても、勾配のある斜面を登り下りする脚力、長時間の歩行を持続する持久力、そしてそれらを支える心肺能力など、その要素は様々です。まずは体力の把握と、それに応じた山とコース選びをするための基準をチェックしていきましょう。

キーワードは「1時間あたりの獲得標高差」

山やコースによって若干異なりますが、平均的な体力の登山者は、1時間あたり300mの標高差を上り、400mの標高差を下るのが一般的。

これをクリアできれば登山GPS地図アプリ「YAMAP」や各種ガイドブックに掲載されているコースタイムで歩けます。次に挙げたような都市部やその近郊の低山で、まずはこの1時間あたりの獲得標高差をクリアできるか、トライしてみましょう。

三角山(北海道札幌市、311m)・三角山 周回コース:上り370m/下り370m
泉ヶ岳(宮城県仙台市、1,172m)・泉ヶ岳 往復コース:上り624m/下り624m
高尾山(東京都八王子市、599m)・稲荷山・1号路周回コース:上り532m/下り532m
猿投山(愛知県豊田市、628m)・猿投山 往復コース:上り565m/下り565m
金剛山(奈良県御所市/大阪府南河内郡千早赤阪村、1,125m)・金剛山 寺谷↗︎ 文殊尾根↘︎ コース:上り499m/下り495m
極楽寺山(広島県広島市・廿日市市、692m)・極楽寺-極楽寺山 往復コース:上り626m/下り626m
大城山(福岡県太宰府市・大野城市・宇美町、409m)・大原山-野外音楽堂-大城山 周回コース:上り357m/下り357m

標高差だけでなく、活動時間・距離もチェック

次にチェックしたいのが活動時間と距離。標高差が大きく急登だけれど短時間・短距離で登頂できる一方、標高差が少なく、なだらかでも活動時間や距離が長い山やコースもあります。

例えば、長野県・常念山脈の前衛峰である有明山(2,268m)・有明山神社-有明山-有明山神社奥宮 往復コースは、上り954m/下り954mと標高差はありながら、活動距離は6.2kmです。対照的に、北海道・礼文島にあるゴロタ山(177m)・スコトン岬-ゴロタ山-西上泊神社-浜中バス停 縦走コースは、上り445m/下り453mと有明山の半分以下の標高差ですが、活動距離は13.3kmと倍以上。

これは極端な比較ですが、都市部に近い低山であっても、活動時間や距離が長い山・コースは存在します。そのようなコースでは時間の管理を入念にしたいところ。特に秋から冬は日没が早いので、注意しましょう。

YAMAPの「体力度」を活用しよう!

コースによって体力度が変わる高尾山(撮影:鷲尾 太輔)

自分の体力に合った山・コース選びでぜひ活用してほしいのが、YAMAPのモデルコースに表示されている体力度。これは活動距離・活動時間・上り累積標高・下り累積標高の要素から計算されたコース定数をもとに、そのコースの体力度を5段階で表したものです。

例えば、体力度2までのコースしか登山経験がなければ、飛び級して体力度4のコースにチャレンジすると無理が生じる可能性も。体力度2をゆとりを持って歩けるようであれば次は体力度3にチャレンジ、体力度2でもスタミナ的に厳しいようであれば体力度1〜2でトレーニングを続けるのがおすすめです。

▼体力度についてより詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。
体力度とは?(YAMAP)

例えば、年間300万人前後と世界一の登山者数を誇る高尾山(東京都、599m)も、メジャーな稲荷山コースから1号路をまわる周回コース、陣馬山(東京都/神奈川県、845m)までの奥高尾縦走路を往復するコースまで、体力度には4段階の違いがあります。

体力度1
高尾山口駅発着|稲荷山・1号路周回コース
上り544m/下り544m/活動距離7.4km

体力度2
小仏バス停〜清滝駅|景信山・城山・高尾山(稲荷山)縦走コース
上り764m/下り849m/活動距離9.4km

体力度3
奥高尾縦走コース(陣馬山-堂所山-景信山-小仏峠-城山-高尾山)
上り1,193m/下り1,053m/活動距離14.9km

体力度4
清滝駅-稲荷山-もみじ台-城山-小仏峠-景信山-赤岩山-底 往復コース
上り1,875m/下り1,875m/活動距離26.6km

体力だけでなく技術的難易度もチェック!

登山に必要なのは体力だけではありません。岩場や鎖場、ハシゴなどの難所を通過する際に必要な三点確保(三点支持)と呼ばれる身体の使い方や、登山道が不明瞭なコースを地図・コンパスを使いながら歩くルートファインディング能力など、難易度が高く技術力が要求される山もあります。

2022年現在、長野、山梨、静岡、新潟、岐阜、栃木、群馬、山形、秋田の9県と四国の石鎚山系で導入されている「山のグレーディング」は、体力度を1〜10の10段階、難易度をA〜Eの5段階に分類。1A(体力度も難易度も低い)から10E(体力度も難易度も高い)のようにルートごとに表示されています。

参考:長野県公式サイトの「信州 山のグレーディング」(他県のグレーディングへのリンクあり)

体力度も難易度も低いコース

北横岳からの蓼科山と北アルプスの山並み(かめのトトさんの活動日記より

北八ヶ岳に位置する北横岳(長野県、2,480m)の山頂駅発着|北横岳往復コースは、信州 山のグレーディングでは1A。標高2,230mまで北横岳ロープウェイでアプローチでき、坪庭の散策路を経て、樹林帯の歩きやすい登山道が整備されています。山頂からは南八ヶ岳はもちろん、日本百名山・蓼科山(長野県、2,531m)を間近に望め、大パノラマを楽しむことが可能です。

体力度は低いが難易度が高いコース

荒沢岳の険しい稜線(ヤマとハナさんの活動日記より

日本二百名山・荒沢岳(新潟県、1,968m)の荒沢岳 往復コースは、新潟 山のグレーディングでは3D。体力度は低いものの、切り立った岩峰に鎖・ハシゴ・ロープが連続し、晩秋にはこれらも撤去されることから、険しい岩場を通過する技術が必要です。

その危険度が日本二百名山選定の際にも問題視され、日本三百名山からは除外されたというエピソードもうなずける、難所だらけの手強いコースです。

体力度は高いが難易度は低いコース

御殿場ルートからの富士山(にしさんの活動日記より

日本最高峰・富士山(静岡県/山梨県、3,776m)の御殿場ルートは、静岡県 山のグレーディングでは7B。富士山の4ルートの登山口の中でもっとも標高が低く、山頂までの標高差は2,300m以上とダントツです。活動時間と距離も長くなり、大砂走りという滑りやすい砂利の斜面もありもっとも体力度の高いルートです。難しい技術は要しませんが、他のルートより山小屋の数や登山者自体が少ないため、特に悪天候時には注意が必要です。

体力度も難易度も高いコース

鋸岳の険しい稜線(なかたけさんの活動日記より

南アルプス北部・鋸岳(山梨県、2,685m)から日本百名山・甲斐駒ヶ岳(山梨県、2,967m)をめざすルートは、山梨 山のグレーディングでは8E。鋸岳周辺は山名通りギザギザの岩峰が連続し、滑落事故防止のためにロープなどの登攀用品が必携です。加えて明瞭な登山道もないため、ルートファインディング能力も必要。急なアップダウンが連続するルート上には避難小屋がひとつあるのみで、テント泊装備など荷物も増え体力面でもタフさが要求されます。

夏に登れたから冬も登れる……は絶対にNG!

夏〜秋は爽やかなハイキングコースの八方尾根も冬は別世界(撮影:鷲尾 太輔)

各県の山のグレーディングは、基本的に「無雪期・天候良好」の条件を前提として設定されたものです。夏でもひとたび悪天候に見舞われれば、山の様相は一変し難易度も上がります。もちろん雪が降った冬ともなれば、気温が低下し風も強くなり、同じ山でもまったくの別世界に変わるのです。では、どのような点で体力度・難易度が上がるのでしょうか。

体力度が上がる要因

体力を消耗するラッセル(撮影:鷲尾 太輔)

雪山では他のシーズンよりも必要な装備の数が増えます。防寒対策を考慮したウェア・手袋・帽子・サングラスはもちろん、天候悪化など万一の事態で体温低下を防ぐツエルト(簡易テント)やバーナー、雪崩に埋没した登山者を救出するビーコン・プローブ(ゾンデ棒)・スノーシャベルなど様々なアイテム。当然のことながら、背負って歩く荷物の重量が増加します。

コースが新雪で埋もれていたら、ラッセル(雪をかき分けながらの前進)をする必要があり、かなりの体力を消耗します。次にご紹介するアイゼン(滑り止め)を履いての歩行も、脚力が要求されます。

難易度が上がる要因

アイゼンを履いての歩行技術やピッケルワークの習得も必要(撮影:鷲尾 太輔)

凍結して滑りやすい斜面を登り降りする雪山では、アイゼンという滑り止めを登山靴に装着して歩く必要があります。もちろんただ装着するだけでなく、雪の状態や斜度に合わせた様々な歩行技術をマスターしていないと、転倒する危険性もあります。通常は杖がわりに使用するピッケルも、使用法を間違えると自分を傷付ける凶器になりかねません。

さらに、登山道や先行者の踏み跡が雪で消滅している時や、吹雪など視界の悪い時にも正しいルートを進む地図読みのスキルも必要です。

冬こそおすすめの低山歩き!

冬枯れの低山も魅力的(撮影:鷲尾 太輔)

このように、登山初心者には雪山はかなり敷居が高いもの。こうした高山が雪に閉ざされている冬におすすめなのが、夏場は暑さややぶ、虫などの多さから敬遠しがちな低山歩き。落葉した木々から木漏れ日が差し込む冬枯れの道は明るくのどかで、空気が澄んだ時期ならではの眺望が楽しめる山も。このように季節に合わせた山・コース選びも重要です。

ゆとりを持って楽しく歩く!が安全登山の第一歩

体力度・難易度ともにゆとりを持った登山を楽しもう(撮影:鷲尾 太輔)

ここまで体力度・難易度についてご紹介してきましたが、現段階の自分より上のレベルはもちろん、ギリギリのレベルのコースであっても、できればチャレンジは避けたいもの。気温が下がり、日没も早まる秋から冬はなおさらです。

歩くことだけで精一杯になり余裕がなくなることは思わぬケガの原因になるばかりか、天候悪化などの際に対処ができず遭難につながる恐れもあります。

自分にとってゆとりのある体力度・難易度のコースを選ぶ。これが登山の醍醐味を満喫しながら楽しく・安全に歩くためのポイントです!

執筆・素材協力=鷲尾 太輔
トップ画像撮影=鷲尾 太輔

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