食をめぐる冒険 〜 誰とつながり何を選ぶかで世界は広がる 〜

2015年6月から、あるコラボ企画がスタートします。
今話題になっている食べもの付きの情報誌『食べる通信』と、山登り・アウトドアの新定番アプリ「YAMAP(ヤマップ)」とのコラボです。 「食とアウトドアがコラボ……?」と不思議に思う人は多いはず。
その理由は、それぞれの代表が抱くビジョンにありました。
一般社団法人「日本食べる通信リーグ」代表の高橋博之さんと、「YAMAP」を運営する株式会社セフリ代表の春山慶彦さんが語ります。
(撮影:玉利康延 取材・文:小久保よしの 記事公開日:2015年6月5日)

小久保

今回のコラボ企画にあたって、はじめにそれぞれの活動を紹介してもらえますか。

高橋

2013年に創刊した、食べもの付きの情報誌『東北食べる通信』の編集長をしています。毎号、東北の生産者を特集して、その生産者の食べものが実際に付録としてついてくる、定期購読の雑誌です。
東北から始まった後、『四国食べる通信』や『東松島食べる通信』など、全国各地で続々と創刊され、今は11の『食べる通信』が誕生しました(2015年6月現在)。僕は、それらの『食べる通信』をまとめた「日本食べる通信リーグ」の代表もしています。

春山

「YAMAP」はケイタイの電波が届かない山の中でも、スマホで現在位置がわかる地図アプリになります。具体的に活躍するケースとして、登山・スキー・スノーボード・釣りといったアウトドア全般を想定しています。近年社会問題になっている「山での遭難・道迷い」の事故を解決したくて開発をしました。

小久保

そんな二人の出会いは、2014年の「グッドデザイン大賞」のプレゼンテーションだったそうですね。

春山

プレゼンをするブロックが偶然同じだったんです。私が先に話し終えて他の人のプレゼンを見ていたら、会場に新聞を持って立っている人がいて…。はじめ、この人は誰だろうと思っていたら(笑)、それが高橋さんでした。
高橋さんのプレゼン を聞きながら、全身に鳥肌が立ちました。「食べる通信の取り組みは革新的… この人は本気(マジ)だ!」と。

「相手との関係性が見えて、初めて共感力というのは生まれます。
いつもですね、みなさん食べている食べものの中で、その食べものを作っている人を何人知っていますか? ほとんど知らない、という方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
私たち消費者に決定的に欠けているのは、この我々の命に直結する一次産業の問題を、じぶん事化する“共感力”だと私は思います。
消費者と生産者が大きな流通システムに分断されてしまった、この国の一次産業を立て直すには、私は、食べものの裏側にいる人間のですね、生身の人間の存在を知り、つながることで、共感力を磨いていくことだと思いました。
そうして思い付いたのが、この『東北食べる通信』という雑誌です」

「グッドデザイン賞」高橋博之さんのプレゼンより)

小久保

『東北食べる通信』はグッドデザイン賞の金賞を、「YAMAP」は特別賞・ものづくりデザイン賞を受賞されましたね。

春山

はい。その後、気になって『東北食べる通信』や高橋さんのことをネットで調べたら、2014年10月の「TEDxTohoku」でお話しされている映像を見つけました。
その講演を観て、涙が止まらなくて……。同志がいた!と心から感じました。食とアウトドア。ジャンルは違うけれど、同じ世界を目指している人がここにいた!と。それで、ぜひお逢いしたくて、想いを綴った手紙を書き、高橋さんへお送りしました。

高橋

メールで済ませることがほとんどでしょう、今の時代。直筆の手紙が届いて、それも心のこもった手紙で、共感してくれているのだと伝わってきました。「一度会いたい」と書いてあって、会ったんですよね。

「食」を通してリアリティや身体性を取り戻す

小久保

お互いに、どんなところに惹かれ合ったのでしょうか。

春山

『食べる通信』は、読者と生産者をつなげる色々な活動をされていますよね。 理念はもちろんですが、「楽しい」とか「おいしい」、「つながってうれしい」といった、人の気持ちに寄り添うサービスだと思ったんです。そこに共感しました。

高橋

会った時、彼の口から出てくる言葉が、僕が共感するものばかりだったんです。哲学やビジョンを共にできる人って、一瞬で分かるんです。信頼して、一緒にできる人だと分かった。僕も大風呂敷を広げるタイプなんですけど、僕より大きな風呂敷を広げている人に初めて会ったなと(笑)。

春山

いえいえ(笑)。

高橋

基本的に消費社会ってバーチャルなんですよね。人がつくったものを貨幣で購入して使う。そこにどこまでリアリティがあるかというと、消費社会が肥大化するほど手ざわり感がなくなっていくんです。
だからこそ、リアリティを取り戻していく。まずは、身体性ですよね。汗をかいて体を動かす。疲れたとか痛いとか、そういう感覚です。
あとは、人間にとって得体の知れない自然の力を感じる精神性も大切です。『食べる通信』では、それらを取り戻すことを大事にしています。
「YAMAP」も自然とのつながりの中で、身体性を取り戻していくというところに軸をおいているので、共感しました。

イヌイットや一次産業の人たちの自然観

高橋

春山くんは、大学を出たあと、どこに行っていたんだっけ?

春山

アラスカに2年半滞在していました。現地の大学に通い生物学を専攻しながら、イヌイットの人たちとクジラ漁やアザラシ漁に出かけていました。

高橋

なるほど、じゃぁ「YAMAP」が生まれた背景には、アラスカでの経験があったんだ。

春山

はい、特にアザラシ漁、クジラ漁の体験が大きいですね。今でも一年に一回は、叔父と一緒に阿蘇でシカ猟やイノシシ猟をしています。自分の手で動物を獲り、捌くという経験をすると、大きな循環の世界のなかで生きていることがより深く実感できます。身のまわりのすべて、自分が生きて今ここに在ることに対し、言いようのない畏れと感謝が湧いてきます。
尊敬する写真家・星野道夫さんが、狩猟についてこんな文章を残しているので紹介します。

「ぼくは狩猟民の心とは一体何なのであろうかと、ずっと考え続けていた。自然保護とか、動物愛護という言葉には何も魅かれたことはなかったが、狩猟民のもつ自然との関わりの中には、ひとつの大切な答があるような気がしていた。(中略)
 私たちが生きてゆくということは、誰を犠牲にして自分自身が生きのびるのかという、終わりのない日々の選択である。生命体の本質とは、他者を殺して食べることにあるからだ。近代社会の中では見えにくいその約束を、最もストレートに受けとめなければならないのが狩猟民である。約束とは、言いかえれば血の匂いであり、悲しみという言葉に置きかえてもよい。そして、その悲しみの中から生まれたものが古代からの神話なのだろう。
 動物たちに対する償いと儀式を通し、その霊をなぐさめ、いつかまた戻ってきて、ふたたび犠牲になってくれることを祈るのだ。つまり、この世の掟であるその無言の悲しみに、もし私たちが耳をすますことができなければ、たとえ一生野山を歩きまわろうとも、机の上で考え続けても、人間と自然との関わりを本当に理解することはできないのではないだろうか。人はその土地に生きる他者の生命を奪い、その血を自分の中にとり入れることで、より深く大地と連なることができる。そしてその行為をやめたとき、人の心はその自然から本質的には離れてゆくのかもしれない。」

(星野道夫『旅をする木』カリブーのスープより)

春山

都市で暮らしていると、この”約束”を実感しにくいですが、一次産業を生業にしている人たちは、日々感じていらっしゃいますよね。

高橋

うん、一次産業の彼らに、僕も学ばせてもらっています。

春山

日本社会の最大の課題は、自然の中で身体を動かす機会がないことにあると常々思っています。一次産業を生業にしているのが、日本の総人口の約3%で、その半数以上は60歳以上の高齢者という現状です。つまり、日本に暮らすほとんどの人が、自然の中で身体を動かすことを、日常的にやっていない。そんな社会において、登山・アウトドアは「自然と人間の関わり」を理解する最良のアクティビティになり得ると感じています。

高橋

そうですね。僕の場合は、子どもの頃、山好きの親父にとにかく山に連れていかれて、休みのたびにキノコとり、山菜とり、冬はスキー… 幼少期に自然に触れる時間が多かったんです。今振り返ってみると、雪崩にまきこまれる経験や、自然の美しさが体に刻まれているんだろうな。

春山

日本の自然は繊細で、季節に富んでいるから、行くたびに発見があります。ゲームばかりしている子どもたちにも、土日くらいは自然のなかで遊んでもらえたらなー、と。自然に触れるきっかけづくりを、「YAMAP」が担っていければと思っています。

「(『食べる通信』が)届いてですね、まず特集を読みます。その生産者がどういう世界観を持っていて、そしてどんな人柄で、人生を歩んできたのか。読者はそれを知り、その上で調理をするんですが、できるだけとれたてのままの食材をお届けすることにしています。
みなさん日頃ですね、わかめのめかぶとか葉っぱとか、切り分けられてパックされたものしかスーパーで見ていないと思うんですが、それだともう、工業製品と変わらない、「モノ」なんですよ。
我々は、「モノ」として左から右に流すんじゃなくて、「いのち」として生産者から消費者にリレーしたいと思いました」

「グッドデザイン賞」高橋博之さんのプレゼンより)

消費する生活から関係性のある生活へ

小久保

「YAMAP」と『食べる通信』がコラボをした先に、どのような未来を思い描いているのですか。

春山

スマホの最大の可能性は、通信機器にGPSがついていることだと思っています。スマホが世に出たことで、「自然」「身体」「情報」の3つが上手く循環する時代が来た。「YAMAP」はスマホを最大限に活用し、都市と自然、都市と地方を行き来する人のネットワークを築きたいと思っています。

高橋

『食べる通信』でも、都市と地方をかき混ぜるような仕組みとして、生産現場を訪ねるツアーや、都内に生産者を呼んでイベントを開催するなど、消費者と生産者のネットワークを築いているところです。

春山

食でもアウトドアでも、インターネットやスマホは手段に過ぎなくて、あくまで舞台はリアルです。インターネットやスマホをきっかけにリアルにつなげていくことが大事ですよね。
『食べる通信』や「YAMAP」など同じビジョンを持つ各分野の人がゆるやかにつながって、協働していきたいと思っています。私たち自身で新しい共同体、ネットワークをつくっていきたい。

高橋

例えば現代では、家を建てるというときに、そうした同じ世界観や哲学を共有できるネットワークさえあれば、木材を育てている人とつながる形で材料を、その場所の自然環境に合わせた建物の設計図を、森羅万象に調和するペレットストーブを手に入れられるのに、今は分断されていて情報がないので、仕方なく既存のプラモデルみたいな家を選んでいる……という例がたくさんあると思うんです。まずは「YAMAP」と組んで、地図上にない「町」のようなネットワークをつくっていきたいです。

「私は、この1年間『食べる通信』をやってみてですね、教わりましたよ、この人たちに。つまり、この人たちがやっているのは、これまでの、食べものとお金の交換という貧しい関係から、交換不可能なですね、食べる人と作る人という豊かな関係を、この人たちは作り始めていました。
私たちがやっているのは、月刊誌のデザインではありません。読者がですね、生産者との関係性、豊かな関係性をデザインしているんです。そして、自分の命の心地の良いところをですね、読者が取り戻そうとしているその環境を、私たちは整備しています。
僕はですね、この仲間たちと一緒に、誰にとっても身近な、この「食べる」という入口から、世界を変えられるという可能性を、誰もが持っているということを伝えていきたいと、そういう風に思っています」

■高橋博之さんの著書発売!
高橋博之さんの初の著書が、2015年6月18日に発売されます。『東北食べる通信』の創刊までのストーリーや、高橋さんの描くビジョンが明かされた一冊。ぜひご一読を!

だから、僕は農家をスターにする
著者:高橋博之
発行:CCCメディアハウス