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【西日本編(近畿・中国・四国・九州)】ホームリバー源流の山に登ろう|暮らしの恵みを感じる山歩
私たちの生活圏は何らかの川の流域に属しています。しかし現代の暮らしは都市化によって自然と切り離され、その存在を意識するのは、豪雨や土砂災害の危険が迫るときぐらいになっていないでしょうか。
そんな時代に提唱したいのが、私たちの暮らす流域の源流を登ること。自分たちの生活が源流から始まり、自然とつながっているという理解がきっと深まるはずです。
YAMAPがリリースした「流域地図」をもとに、近畿・中国・四国・九州地方の大河川の源流となる山を紹介します。
目次
ホームリバー源流の山の選定基準
私たちが生活している流域の中心となる川(ホームリバー)の源流はどこかを決める方法は、ひとつではありません。例えば“水の都”大阪を代表する淀川も、上流へ遡れば桂川・木津川などに分かれ、さらにそれぞれの川に流れ込む小さな支流が存在しています。
これらすべての支流の最初の一滴が源流とはなりますが、今回は国土交通省など治水に関わる公的機関が源流としている山や、各河川の源流碑が存在する山を中心に選定しました。
商業都市・大阪を支える淀川の源流|音波山【滋賀・福井】
古くから水運が盛んだった商業都市・大阪。その繁栄は、淀川の存在なくしては語ることができません。近畿地方でもダントツの流域人口(約1,107万人)を持つ大河川の源流碑は、琵琶湖に注ぐ高時川と日本海に注ぐ九頭竜川の分水嶺にある栃ノ木峠に設置されています。
栃ノ木峠は近江国(現在の滋賀県)と越前国(現在の福井県の一部)・加賀国(現在の石川県)を結ぶ北国(ほっこく)街道が通っていました。大阪湾と日本海をつなぐ交易路の要衝もまた、淀川源流に位置していたのです。
栃ノ木峠の東にそびえているのが、淀川と九頭竜川の分水嶺・音波山(おとなみやま、872m)です。美しいブナ林が広がる山ですが、その景観を興醒めさせる送電線や電波塔も。
さらに近年は風力発電所建設計画とその反対運動で揺れており、自然と人間の生活の関わりを考えさせられる山でもあります。
コース情報【音波山 往復コース】
コースタイム:約3時間30分
歩行距離:7.5km
累計標高差(上り):496m
累計標高差(下り):496m
中国地方最大都市の発展に貢献した太田川の源流|吉和冠山【広島】
中国地方最大の都市・広島市は、太田川河口のデルタ地帯に発展した街です。この太田川の最初の一滴が流れ出す場所は、広島県第2の高峰・吉和冠山(よしわかんむりやま、1,339m)。中国百名山の一座で安芸冠山ともよばれており、豊かな森に包まれた花の名山です。
吉和冠山は広島県廿日市市に位置していますが、南に連なる土滝山(1,280m)は広島・山口の県境にそびえており、錦川・葉の内川など山口県側の河川と太田川の分水嶺にもなっています。
太田川源流の碑は、土滝山から下って吉和冠山へ登り返すポイントから少し外れた場所にあります。手前の登山道沿いに「太田川源流の碑 この奥」の看板があるので、見逃さないようにしましょう。
コース情報【松の木峠-土滝山-吉和冠山 往復コース】
コースタイム:約5時間10分
歩行距離:9.1km
累計標高差(上り):752m
累計標高差(下り):752m
日本最後の清流と呼ばれる四万十川の源流|不入山【高知】
柿田川(静岡県)・長良川(岐阜県)と並んで日本三大清流のひとつとされ、日本最後の清流ともよばれる四万十川(渡川)。その源流にあたるのが、不入山(いらずやま、1,336m)です。登山口から30分足らずで源流点に到達できることから、この場所だけを訪れる人も多くいます。
四国最長(196km)の大河でありながら、本流に大規模なダムがないことも四万十川が清流であり続ける理由です。
流域の景観を代表する沈下橋は、地元住民の生活道。ダム建設計画への反対運動や、中流に設置された取水堰の撤去運動など、地元の人々に愛されながら清らかな流れが守られてきたのです。
一等三角点が設置された不入山の山頂周辺はあまり展望がよくありませんが、稜線には眺望が開けるポイントもあります。
何よりも四万十川源流点付近の苔むした岩肌は、屋久島や北八ヶ岳の原生林にも劣らない、水の潤いを感じる光景です。
コース情報【不入山 往復コース】
コースタイム:約2時間50分
歩行距離:3.3km
累計標高差(上り):486m
累計標高差(下り):486m
四国最大の流域面積を誇る吉野川の源流|瓶ヶ森【愛媛】
四国最大の流域人口(約61万人)を持つ吉野川の源流は、石鎚山系の瓶ヶ森(かめがもり、1,897m)、日本三百名山にも数えられています。源流点は東に連なる西黒森(にしくろもり、1,861m)と瓶ヶ森それぞれから流れ出た沢の合流地点です。
源流点にはモニュメントが設置されていますが、林道から延びる沢沿いの滑りやすい登山道。壊れかけた橋・桟道や渡渉が必要な箇所もあり、一般登山者には敷居が高いルートです。
今回は稜線から源流を見下ろすコースを紹介します。
瓶ヶ森は「UFOライン(瓶ヶ森林道)」で標高1,654mの駐車場までクルマでアプローチ可能。源流点とは対照的に、ハイキング感覚で登頂できます。
春のツツジや秋の紅葉も美しい笹原の稜線を歩けば、四国最高峰の日本百名山・石鎚山(1,972m)が堂々とそびえています。
コース情報【瓶ヶ森登山口発着|四国最高峰を眺望する瓶ヶ森 周回コース】
コースタイム:約1時間30分
歩行距離:2.4km
累計標高差(上り):228m
累計標高差(下り):228m
サケ遡上する遠賀川の源流|馬見山【福岡】
九州北部を代表する河川で、筑豊地方にさまざまな恵みを与えてきた遠賀川(おんががわ)は、九州で唯一、サケが遡上する河川としても知られています。その源流となるのが、馬見山(うまみやま、977m)です。
遠賀川源流の地の碑は、西側の登山口である嘉麻峠(かまとうげ)付近にありますが、ここから馬見山までは登りだけでも約3時間の長丁場です。今回は比較的コースタイムが短い北側の遥拝所登山口からのコースを紹介します。
遥拝所登山口からしばらくは沢沿いの道です。滑らの滝をはじめとする滝や沢が点在して、遠賀川源流の山であることを実感するでしょう。
眺望案内板が設置された山頂からの眺望も見事で、阿蘇・九重・雲仙など九州の名峰を一望できます。
コース情報【逢拝所登山口-馬見山 往復コース】
コースタイム:約3時間40分
歩行距離:4.3km
累計標高差(上り):642m
累計標高差(下り):642m
九州筑後川源流|九重連山【大分・熊本】
熊本・大分・福岡・佐賀の4県を流れる九州最大の流域面積を誇る河川が筑後川。その源流は、熊本県・瀬の本高原とされています。
そして、この付近にある源流の碑を探すと大分県九重町の長者原近くの白水川(しろみずがわ)上流部と、熊本県南小国町の田の原川上流部の2箇所が見つかります。
この2つの源流碑を遡ると、白水川は大曲登山口、田の原川は九重森林公園スキー場登山口といずれも九重連山の入口にたどり着きます。
また白水川と並行して流れる奥郷川、田の原川と合流する小田川はいずれも牧ノ戸峠を分水嶺として北と南へ流れており、筑後川源流の山は九重連山であると言って良いでしょう。
九重連山をもっとも手軽に楽しめる山が沓掛山(くつかけやま、1,503m)です。前述の牧ノ戸峠から往復約1時間で、星生山(ほっしょうざん、1,762m)をはじめとする日本百名山・九重連山の名峰を一望できます。帰路に長者原の源流碑に立ち寄って、隣接するタデ原湿原を散策するのもおすすめです。
コース情報【牧ノ戸峠発着|四季の変化を山肌で感じる沓掛山 往復コース】
コースタイム:約1時間
歩行距離:1.6km
累計標高差(上り):187m
累計標高差(下り):187m
流域地図でホームリバーの源流を知ろう
今回は近畿・中国・四国・九州地方の大河川の源流の山を紹介しました。あなたの暮らしている地域や故郷のホームリバーはどこですか。YAMAP 流域地図ををチェックして、その流域の源となる山に登ってみてはいかがでしょうか。
また2024年6月からは標準モードからハザードマップモードへの切り替え機能が追加となり、豪雨時のさまざまな災害危険度も可視化できるようになりました。ぜひお住まいの地域をチェックして、防災にも役立てて下さい。
執筆=鷲尾 太輔(登山ガイド)
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。山岳ライターとして、様々なメディアでルートガイドやギアレビューから山登り初心者向けのノウハウ記事まで様々なトピックを発信中。登山ガイドとしては、読図・応急手当・ロープワークなどの「安全登山」から、写真撮影・山岳信仰・アウトドアクッキングなど「登山+αの楽しみ」まで、幅広いテーマの講習会を開催しています。とはいえ登山以外では根っからのインドア派…普段は音楽・アニメ・映画鑑賞や、読書・料理・ギター演奏などに没頭しています。
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