投稿日 2022.03.02 更新日 2023.05.23

楽しむ

ウケばかり狙うと、自分の写真じゃなくなってしまうから|YAMAPフォトコンテスト2021受賞者:安彦嘉浩さん

YAMAPフォトコンテスト2021で「YAMAP賞」を受賞した安彦嘉浩さん。十勝岳山頂からの光景を写した受賞作「Breathing of kamuy」は、山肌にさらりと光のベールがかかったような幻想的な作品です。山や野生動物など、北海道の雄大な自然を撮る安彦さんにお話を伺いました。

目次

北海道移住がきっかけで本格的に写真を始めた

―安彦さんは北海道の千歳市にお住まいなんですね。

6年前に移住しました。出身は山形で、就職のため茨城に移り、転職がきっかけで千歳に来たんです。今は電機メーカーで生産設備の設計開発の仕事をしています。

―会社員をしながら撮影の時間を作るのは大変では?

山に行くのは休日だけですが、平日は日の出まで撮影したり、仕事が終わってから野生動物の撮影をしたりしています。支笏湖(しこつこ)は車で30分くらいなので、今朝も行ってきました。

―Instagramでフクロウがウインクしている写真を見ました! あれは、フクロウがいい表情するのを待って撮るんですか?

1秒間に30枚くらい撮れるカメラを使っていて、いい表情をしそうなときに連写するんです。帰ってきて撮った写真を見返しているとき、ウインクに気づきました。「こんな表情してたんだ!」とあとから気づかされることが多いですね。

―写真を始めたきっかけを教えてください。

2011年に留学する機会があり、思い出を綺麗に残したいと思ってカメラを始めました。でも、そのときはあまり本格的に撮っていなくて。北海道に移住して、景色の雄大さに心を打たれて、「もっとしっかり撮りたい!」と思いはじめました。

―どんな景色に心を打たれたのでしょう?

車を10分くらい走らせると、もう絵に描いたような「北海道らしい景色」なんですよ。町と町の間隔も長くてドラクエみたい。フィールドがあって、町が出てきて……みたいな。

あと、野生動物との距離が近いことにも驚きました。キタキツネはそこら中にいるし、神社や公園はエゾリスがウロチョロしているし、夜に車を走らせると鹿だらけ。

―よく山で撮影されていますが、登山はもともとやっていたんですか?

茨城にいた頃は、学生時代の友達とよく山に行っていました。友達が山岳部出身だったんです。当時は写真が目的ではなくて、「みんなでワイワイ登るの楽しいね」って感じで。

―初めて行った山はどちらですか?

赤岳です。星空がものすごく綺麗で鳥肌が立ちました。こんなに星がたくさんあるんだ……!って。そのときは今ほど本格的に写真をやっていなかったので、星空を撮ってみたものの、なんだかわからない写真になりました(笑)。ただただ楽しかった思い出が鮮明に残っています。

それと、山ってご飯を美味しく感じるんですよね。山小屋のご飯も、持っていったカップ麺でさえ特別に美味しく感じる。ほかの登山者が調理しているのを見るだけでも、新鮮で楽しかったです。「山で焼肉してる人がいる~!」みたいな。

北海道の山は、自分でやらなきゃいけないことが多い

YAMAP賞受賞作「Breathing of kamuy」

―YAMAPフォトコンテストの受賞作は十勝岳を写した作品でしたが、十勝岳はどんな山なのでしょう。

見晴らしがいい山です。登山口から景色がひらけていて、山頂まで気持ちよく登れます。急な坂が1時間ぐらい続き、山頂直下は特に急な登りですね。
この写真は初めてテント泊したときに撮ったのですが、テン場まで20kgくらい背負って登った翌朝だったのでけっこう疲れました。

―お一人で登ったんですか?

彼女と一緒に行きました。ゆっくりゆっくり。よく一緒に登っています。

―すてきですね。ほかに北海道でおすすめの山は?

大雪山系はどこも雄大で綺麗ですね。四季折々で違った美しさを見せてくれるんです。春夏はいろんな花が咲くし、秋は紅葉が綺麗だし、冬は雪の風紋とか、山じゃないと見られないような景色が広がっています。

―北海道の山には山小屋がないと聞きます。

そうですね。本州と比べたら山小屋のサービスが行き届いていないので、自分でやらなきゃいけないことは多いです。食事を提供してくれるところはないし、トイレがない山も多いから携帯トイレを持っていきます。水場も限られているので、下から必要なぶんを持っていきますし。
ほかに信州と北海道の山の違いといえば、ヒグマの恐怖ですね。僕は朝焼けや夕焼けを撮りたいので、やや暗い時間に行動する場面もありまして。そういうときは、ヒグマと遭遇する恐怖がつきまとっています。「絶対に安全な場所」は山にはないので。

―ヒグマに遭遇したことはありますか?

山での遭遇はありませんが、車に乗っているときに見たことはあります。車越しだし、命の危険を感じる距離ではなかったんですけど。

野生動物を撮るときは「ひたすら待つ」

―安彦さんが撮る野生動物はとても愛らしいですよね。動物はじっとしていないから撮るのが難しいと思いますが……。

動物が現れる場所は決まっているので、追いかけ回さずにじっとしていると向こうから来てくれます。待つ姿勢が大切。登山道の途中の、ナキウサギが現れるスポットまで行ったらそこでずっと待ちます。シャッターを切る瞬間以外はカメラを構えず、目視で被写体を探しながら何時間でも待ちますね。丸一日待ったけど動物に出会えなくて、なにも撮れないまま下山することもあります。

―そういうときは何を考えながら下山するのでしょう?

「下山したら何食べよう」って考えてます。結果的に撮れなかったとしても楽しいし、また次来ればいいだけです。あんまりガツガツしてもいい写真は撮れないと思うんです。気を緩めてるときに限っていい写真が撮れたり、動物が出てきてくれたりする。逆に「出てこい!」と念じていると出てこない。殺気が伝わるんですかね(笑)。

―重い撮影機材を背負って登山したり、寒い中で何時間も待機したりと、山岳写真の撮影って過酷ですよね。よっぽどストイックじゃないと続けられないのでは?

僕の場合はそうでもないんです。「寒いのを我慢して撮りました」というのは一見すると美談のようですが、まずは命ありきなので。僕は、無事に安全に撮ることをなにより大切にしています。「撮影は極力快適に、我慢はしない」がモットー。天気が悪い日は山に行かないですし。

―なるほど。ほかに、写真を撮る上で大切にしていることはありますか?

ワンオブゼムにならないことを心がけています。写真を見た人に「この写真は安彦さんのだよね」とわかってもらえる写真を撮りたい。他のたくさんの作品に埋もれないよう、自分の個性を大切にしたいです。

―安彦さんの写真の個性とは、どういうところにあると思いますか?

「光」ですかね。十勝岳の写真も、真ん中にだけパッと光が当たっています。そこが強調されるように現像の処理をしたんですけど、撮っている段階から「この光をみんなに伝えたい」という思いがありました。

―「伝える」ことも重視されているんですね。

自分でも気づいていなかったけど、僕の今日の言動からするとそうみたいです。できる限り、被写体の魅力が伝わるように撮りたいかな。全員に伝えるというよりは、その被写体が好きな人、たとえば十勝岳だったら十勝岳の近くに住んでいる人が、十勝岳の魅力を再発見してくれたら嬉しいです。

「たくさんいる中の一人」にならないように

―今現在、写真はどちらで発表していますか?

Instagramがメインです。2016年にアカウントを開設したんですが、古い写真は消したので、今残っている写真で一番古いのは2018年のもの。ここにあるのが自分の「作品」です。

安彦さんのInstagramのギャラリー

―Instagramに写真を載せるとき、人の反応は気になりますか?

気になりますけど、気にしちゃいけないと思っています。「一般受けする写真」と「自分が思ういい写真」は違うので。ウケばかり狙うと、本当の自分じゃなくなるというか、表現したいものじゃなくなってしまうと思うから、そこは気をつけています。

たとえば、動物のアップの写真って「いいね」が爆発する傾向があるんですよ。だけど、そういう写真ばかり撮っていると、それこそ「たくさんいる中の一人」になってしまう。だからたまには撮るけど、そればかりにならないよう注意しています。そういう写真も見ているぶんには楽しいけど、それは、そういう写真が上手な方に任せればいいかなって。

―安彦さんは「自分の写真」というものが明確にあるんですね。

なかなか撮れるわけじゃないけど、たまに狙った通りの写真が撮れると本当に嬉しいですね。撮っている最中から「これだ!」って思います。そういうときは、脳の快感物質がバーッと出ている感じです。

―Instagramで写真を発表するようになって、変わったことはありますか?

友達が増えました。もともと「いいね」やコメントしあっていた人と撮影現場で偶然出会って、「もしかしてインスタで繋がってる〇〇さんですか?」と話しかけて、それから友達になることも。そうして出会った友人と、一緒にご飯を食べたり、LINEしたりする仲になりました。

人見知りではあるんですけど、山の友達を増やしたいので、山で見かけたら気軽に声をかけてもらえると嬉しいです!

安彦嘉浩さんのInstagram

文章:吉玉サキ
写真提供:安彦嘉浩さん

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