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富士を揺るがす大巨獣|山の怪獣プロジェクト
怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。十一体目の怪獣は、日本一の山・富士山に現れた大巨獣。これまですべての怪獣のお話がここに繋がるとのことです。そしてこの怪獣でこの連載は一旦の区切りとなります。さぁ、最後の最後に一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #12/連載一覧はこちら
目次
ダイダラボッチは合体怪獣?
「合体怪獣」をご存知か? 合体怪獣とは、文字通り複数の怪獣が合体して生まれた怪獣のことである。すなわち頭はゴジラと大魔神とキングギドラ、翼はラドン、腕はレッドキング、手はバルタン星人……といった具合に、様々な怪獣の強い部分を併せ持つ夢の最強怪獣! しかしまあ、そもそも怪獣自体が、いろんな生き物の特徴を掛け合わせたものだったりするので、大抵は情報過多というか、チンドン屋さながらの様相を呈してしまいがちだったりもする。実際、あんな下品な発想はイヤだという年配の怪獣ファンも少なくないのだが、自分たちは大好きだ。子供の頃より夢想してきた合体怪獣は数知れず。だから、この山の怪獣プロジェクトでも、最後は合体怪獣でいこうと決めていた。これまでつくってきた怪獣すべてを合体させるのだ。
とはいえ、合体怪獣が棲んでそうな山なんてあるだろうか? たとえば恐山であれば、これまで倒された山の怪獣の怨念が集まってきたみたいな理屈がこねられそうだが、YAMAP編集部から提示されたリストに心霊スポットの類は見当たらなかった。困った。いっそ“最終回だから合体怪獣!”の一点突破で、何の関係もない山に出現させてしまおうか? そんなふうに思った瞬間、リスト上の富士山に添えられた「ダイダラボッチ伝説」という一言が目に止まった。
ダイダラボッチは、日本中に伝説が残る大巨人だ。その地の山や湖ができた原因として語られることが多く、富士山を作るために土を掘った跡地が琵琶湖になっただとか、あるいは甲府盆地になっただとか、スケールの大きな言い伝えに事欠かない。ただ、このときに思い浮かべていたのは、かの『ゲゲゲの鬼太郎』の有名な1エピソード。太古の昔に身体を分解され、日本各地に封印されていたダイダラボッチが、目、鼻、口、足、手と少しずつ復活していき、最後はひとつになって大暴れする。その圧倒的なパワーの前には自衛隊も歯が立たず、さすがの鬼太郎も追いつめられていくというものだ。これまさに合体怪獣ではないか。山そのものにまつわる伝説からは少し離れてしまうけれど、富士山というチョイスは最終回にも相応しかろう。
先ほど、最終回だから合体怪獣と書いたが、如何にも集大成っぽい雰囲気を持つ合体怪獣は、TVシリーズの最終回や劇場版に登場することが多い。そんな数多の合体怪獣からベストを選ぶとするならば、『ウルトラマンタロウ』に登場するタイラントだろう。わりとメジャーな部類に入る怪獣なので、ご存知の方も多いかもしれない。その頭はシーゴラス、耳はイカルス星人、後頭部はブラックキング、腕はバラバ、背中はハンザギラン、尻尾はキングクラブ、腹はベムスター、足はレッドキングと、有名無名の怪獣を取り揃えて、設定的にもビジュアル的にも説得力のある強敵として成立させている。また、シーゴラスの頭と謳いつつ、造形のニュアンスでシーゴラスとは似ても似つかない顔立ちになっており、これまたポイント高い。頭部に配された元怪獣の印象に引っ張られ、きちんと個性を発揮できてない合体怪獣も少なくないのだ。
そんなこんなで、これまでつくってきた山の怪獣の全要素を盛り込んでみたラフデザインがこちら。前述のタイラントと『ウルトラマンA』の最終回に登場するジャンボキングを参考に、各パーツを配置してみた。うん、悪くない。強そうだ。最後は合体怪獣と決めていたこともあって、各怪獣を象徴する特徴的なパーツの位置は、なるべく被らないようにしてきたんだけど、想定以上のハマりっぷりだった。しかし、これではあまりにもタイラント過ぎるし、ジャンボキング過ぎるので、もう一捻りしたいところ。で、「あとは任せた!」とデザイン担当の入山くんに無茶振りすると、ボクはもうひとつのネタについて考え始めるのだった。
そう、それは合体怪人! 合体怪獣とは異なり、過去にあまり例がないのだが、そこに怪獣と怪人の違いが現れているような気もする。一般的に怪人デザインは、ヒトの形に縛られるぶん、怪獣のそれよりも縛りが多い。もちろん、大きな翼や尻尾を備えた怪獣っぽい怪人も皆無ではないものの、如何せんモチーフの特徴を持たせた部位を分散させづらい。これが怪獣だったら、頭をふたつにしたり、腕も6本くらいに増やして、いかにも合体した感じのルックスにすることもできるだろうが、それを怪“人”でやるとフリークスっぽくなってしまう。ちょっと子供番組には相応しくないキャラクターだ。
まあ、この連載は子供向けではないので、ややグロテスクになっても問題ないだろう。前回、伏線として翼を失ってもらったガルラ星人イーマに、六甲山のときにいっぱい考えた怪人軍団のメカニックパーツを融合したり、メインを張っていたターボバイソンに、その余りのメンバーを合体させてみたりした。一応、「同胞との戦いで深手を負ったイーマは、六甲山の怪人軍団を急襲&全滅させると、彼らのメカを移植してパワーアップ。さらに生き残ったターボバイソンにも強化改造を施し、脳波コントロール装置を取り付けて支配下に置いた」というストーリーは用意したのだが、あくまでもデザインのために考えた裏設定に過ぎない。とにもかくにも彼らには、そこまでして戦わなければならない相手がいるのだ。その名は……。
霊峰富士で生まれしダイダラモンス!
富士の裾野で誕生した大怪獣。日本各地の研究施設で保管されていた怪獣たちの死骸が、ひとりでに動き出して合体を果たした。ツノはアイスホーン、頭はアンテロス、顔は二代目バローズ、顎から胸にかけてはバラチニーク、肩はラゴラモス、翼はダブルネックキング、腹はテナルンガ、両腕はバズラコング、足はガンバン、尻尾はフィンドラスと大うつぼで構成されており、そのすべての超能力を備えている。
陸上自衛隊の総火演(富士総合火力演習)で知られる静岡県御殿場市の演習場に降り立つが、その行く手を阻んだものは、自衛隊ではなく二人組の“怪人”であった。ひとりは鳥取近海と阿蘇山で怪獣を操っていた相模大山のガルラ星人と共通する特徴が見受けられたが、もう一方は内閣情報調査室も把握していない未知の存在だったという。そして、その身体に秘められた火力は計り知れず、ゾウとアリ以上のサイズ差があったにも関わらず、互いに一歩も譲らない互角の戦いを繰り広げた。
しかし勝利の女神は、極彩色の巨獣に微笑んだ。突如として怪人同士で仲間割れを始めたのである。猛り狂うダイダラモンスは、改造ガルラ星人の首をねじ切った未知の鬼怪人を焼き払うと、熱海市上空で待ち構えていた高尾山のガルラ星人も腹部の大口で丸呑みしてしまった。その進撃を止められる者など、もうどこにもいないだろう。
クリエイターズ・コメント
「Vol.5のときにも書きましたが、怪獣のネタ元になりそうな言い伝えについて調べてみると、大抵の山に天狗の逸話が残されているんですね。そこで本連載における天狗は、太古に地球に降り立ち、山奥でひっそりと暮らしている宇宙人=ガルラ星人ということにしました。前鬼と後鬼を従えるための鬼面(脳波コントロール装置)を役小角に授けたのも、源頼光の酒天童子退治に手を貸したのも、秘密結社バルチャーが改造人間を製造するために参照した先端技術の出どころも、すべてガルラ星人だったという設定です。で、技術的な互換性があったため、バルチャーの改造人間軍団は、ガルラ星人イーマを蘇生させるための素材にされてしまったと。でも怪人軍団もやられっぱなしでは可哀想なので、戦いの最中にコントロールから解き放たれ、最後の最後にイーマへのリベンジを果たせたことにしました。まあ、そのあとすぐに死んじゃいますが。ちなみにダイダラモンスの“モンス”は、モンスターのモンスであり、ラテン語で山という意味もあります。いつだったかデザイン担当の入山くんが、外国語辞典で見つけてきてくれて、どこかで使おうと思っていたものでした。まさにこの連載のためにあるような言葉ですね」(山崎)
「いろいろと合体パターンを試してみたのですが、どれも悪くないものの決め手に欠けるところがあり、最終的にVol.6のときに考えたテナルンガ成虫に擬態しているというアイデアを思いつきました。この連載における最強の怪獣は、惑星をも食い尽くすテナルンガ以外にありえません。我が身を守るため、地球が生み出した防衛システムみたいなものなんでしょう。一部の地方には、魔除けとしてダイダラボッチを象った大きな藁人形を飾る風習があるそうです。で、これが意外とすんなり描き上がってしまい、ラストなのに物足りないなと思っていたら、合体怪人の追加注文が来ました。改造ガルラ星人に関しては、単純にガルラ星人をサイボーグにしただけです。ただ、怪人軍団を描いたとき、数をこなすことに追われてしまい、あとからこうすればよかったなと反省することも多く、そういった部分を反映させていたりはします。センキは、鎧を着たときのガルラ星人のシルエットに寄せつつ、バズラコングと同様の面をつけて鬼の怪人にしました。山の伝承につきもののの天狗と鬼のタッグなんですね。こちらは少し難産でしたが、最後に合体怪獣と合体怪人をやれて満足です」(入山)
次回予告……?
いかがだったろうか。山登りどころか、ちょっとした外出すら億劫という超インドア人間には、あまりにもアウェー過ぎる連載だったが、原稿の参考にするためにYAMAPユーザーの活動日記に目を通したり、山岳小説なんかを読んだりしてるうちに、少しだけ山の魅力が分かってきた気がする。コロナ騒ぎが落ち着いてきたら、手始めに高尾山あたりに登ってみてもいいかもしれない。同じように、読者の皆さんも怪獣に興味を持ってもらえていたら嬉しい。なんとなく読んでるうちに、怪獣デザインのパターンや歴史についてメチャクチャ詳しくなってるというのが、この連載の裏テーマだったのだ。
まあ、そこに関しては満足できたというか、ちょっとやり過ぎたと反省しているので、もしも次があれば、もっと山と怪獣そのものに迫った読み物にしてみたい。とはいえ、現段階では何も決まっていない。これっきりかもしれないし、まったく異なる切り口で再スタートを切ることになるかも分からない。や、実に楽しいお仕事でした。いつかまたお会いしましょう。
※表紙の画像背景はhiibowさんの活動日記より
怪獣博士
ガイガン山崎
1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。
最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。
公式SNSで山の情報を発信中
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