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尼巌山の歴史と文化|神々の願い “岩戸隠し” の中継地
日本各地に点在する里山に着目し、その文化と歴史をひもといていく【祈りの山プロジェクト】。今回のナビゲーターは、低山トラベラー・大内征さん。長野県の「尼巌山(あまかざりやま)」にまつわる天岩戸伝説に迫ります。
(初出:「祈りの山project」2018年6月4日)
目次
尼厳山の岩戸隠し
信州松代、尼厳山。これで「あまかざりやま」と読む。近くにある日本百名山の雨飾山ではないのでご注意を。読み方が不思議だが、充てた漢字も意味あり気ではないか。戦国期には真田幸隆が頂の山城を落とし、上杉勢を見張ったという展望抜群の低山でもある。そのむかし、神々の祈りを背負い、この山に登頂した神がいる。そのミッションは、岩戸を隠すことだった。
天岩戸伝説は日本各地に伝わるが、戸隠にもっとも近いのが、この尼厳山だろう。天照大神が弟・素戔嗚尊の乱暴に嫌気がさし、岩の影に隠れてしまった。太陽が隠れ、世は暗闇となる。それでは困ると、天照大神を分厚い岩壁の向こうから引き戻すべく、八百万の神々が集まった。その中で、知恵を授かった二柱の神が進み出る。憑りつかれたように躍り狂うのはアメノウズメ。それを見た神々の笑い声に、つい天照大神は岩戸を開けて覗き見ようとする。すかさず岩戸をつかんで投げ飛ばしたのはアメノタヂカラオ。ひょいと天照大神も引っ張り出すことに成功し、ふたたび世に光が戻ったという物語だ。
各地の低山を旅していると、さまざまな地域で「天岩戸」に出合う。たとえば山中湖畔の石割山には、その7合目付近に石割神社が鎮座しており、ご神体の巨石の割れ目に天照大神が隠れたと伝わる。この社には、ここから岩戸を投げ飛ばし、岩戸隠しに貢献したアメノタヂカラオが神として祀られている。その岩が落ちたところが信州の「戸隠」だ。そんなわけで、戸隠神社の奥宮にもアメノタヂカラオが祀られている。
……と、ここまではよく耳にする神話の内容。ところが、長野市の松代には、その岩戸を探しにきたタヂカラオの伝説が残っているのだ。二度と世から光を奪ってはならぬと、岩戸を封じることは神々の願いだった。そこでタヂカラオが、投げ飛ばした岩戸を探し出して、あらためてどこかに隠そうと旅に出た。ようやく探し出した岩戸を背負って、隠し場所を探そうと見晴らしのよい山に登った。これが尼厳山だと伝わる。たしかに山頂は眺めが素晴らしく、長野市内の向こうに北信の名山が屏風のごとく立ち並んでいるのが見渡せる。
はじめて尼厳山を訪れたとき、となり合う奇妙山との間に「天岩戸」が存在すると聞いていたので、まずはそこを探そうと山に入った。ふんだんな落ち葉が道を覆い隠してしまい、山歩きの経験が少ないと道を見失うような場所だったが、急斜面の山腹にひっそりと岩が口を開けて待っていた。
尼厳山に向かうと、山頂にはかつて真田幸隆も眺めたであろう北信の展望が大きい。ふと目をやった先には、ギザギザした山稜が見えている。あのあたりに隠すのがよさそうだ……と、タヂカラオになったつもりで想像を遊んでみた。二度と光を奪うことなきよう――。神々のその祈りは、果たして「戸隠」という山となって、いまに伝わっている。
尼巌山の登山地図、ルート、現地最新レポート
一の山に、百の喜びと祈りあり。その山の歴史を知れば、登山はさらに楽しくなります。次の山行は、長野県・中部地方の里山「尼巌山」を歩いてみませんか?
低山トラベラー/山旅文筆家
大内 征
歴史や文化を辿って日本各地の低山をたずね、自然の営み・人の営みに触れる歩き旅の魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。
NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」コーナー担当、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山」では雲取山、王岳・鬼ヶ岳、筑波山の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』(二見書房)シリーズ、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。宮城県出身。
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