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登山者目線で遭難対応にあたる、熱心な元YAMAPユーザー|YAMAPの中の人 #02
登山地図GPSアプリ「YAMAP」はダウンロード数がすでに230万を超え、今や安全登山を支える「登山者のインフラ」になりつつあります。そのYAMAPで、単なる地図機能としての登山アプリを超え、安全登山のために何ができるのか日々試行錯誤する人たちをちょっとだけ覗いてみませんか? 安全登山には人一倍思い入れがあるという、山雑誌の編集を経てアウトドアライターとして活躍する米村奈穂さんが、YAMAPで働く「中の人」に迫る本シリーズ。第2回は、カスタマーサービスで遭難対応にあたる熱心な元YAMAPユーザーが登場します。
GPS登山アプリの「中の人」ー安全登山のためにYAMAPができることー #02/連載一覧はこちら
目次
熱心なYAMAPのユーザーだった矢島さんは、「助かる命があるなら昼夜を問わず対応したい」という熱い思いを持ちつつ、カスタマーサービスで遭難対応にあたる。YAMAPのアプリが、命を守るサービスとして機能するために、警察や開発チームと連携して葛藤する日々を伺った。
ソロ登山を後押ししてくれたアプリが仕事場に
「登山の地図アプリがあると知ったのは、ちょうど最初の山の日でした」
YAMAPでカスタマーサービスの業務にあたる矢島さんは、まだ入社する前、山の日が施行された2016年の山の日に友人と山に登る。その時初めて、登山用の地図アプリがあると聞く。それまでは、山にそこまで興味はなかった。また登ってみたいと思ったけれど、周りに登る友達はいない。一人で行こうと思い立ち山のことを調べていて、話に聞いていた登山地図アプリを検索してみると、一番にYAMAPが出てきた。
「福岡県の糸島にある十坊山(とんぼやま)に登ったんです。その時、一人で行けたという達成感と、このアプリすごいっていう驚きでいっぱいでした。それからYAMAPの企業理念を読んでいい会社だなと思って、使い始めて間もないまだ何も分からない状態で、50万ダウンロードを記念して行われたファンミーティングに参加したんです」
その時の雰囲気がとてもよくて、応援したいという思いからイベントの手伝いなどをするようになった矢島さん。この会社で働きたいという思いが日増しに強くなった頃、ちょうど募集があり入社に至った。
「実は入社する時、ITに関する知識はゼロだったんです。だから私はスマホの操作が苦手なユーザーの方と同じ目線なんです。YAMAPを使っている年配の方の気持ちがよく分かります。最近、開発時のテストをお願いされるんです。私が分かれば、みんな分かるだろうって(笑)」
山が好きで、YAMAPが好きで、IT知識ゼロ。登山者の中にもよくいるタイプだ。こんなユーザー目線に立てる人がカスタマーサービスにいてくれたら、ユーザーとしては逆に頼もしい。
位置情報が遭難捜索のカギ
矢島さんの主な業務は、ユーザーからの問い合わせの対応だ。使用方法や要望などの他、登山者のマナーについての意見や、不適切な投稿への対応など、内容は多岐に渡る。昨年の問い合わせ件数は20,269件(地図に関する要望を除く)。その中でも今回は、安全登山につながる重要な業務、遭難対応について詳しく話を聞いた。
YAMAPには、「遭難者情報提供フォーム」というものがあり、もしYAMAPのアプリを使用している登山者が遭難した場合、家族や友人が遭難者に関する情報をYAMAPに提供することで、位置情報を絞り込める。その位置情報は、警察に伝えられ、捜索の重要な手がかりとなる。
遭難者情報提供フォームからの問い合わせは、月に2〜3件。この中には、ユーザーだけでなく、警察からの問い合わせも含まれる。実際に対応した件数は、警察や家族とのやり取り、遭難事後の対応も含めると、遭難情報提供フォームを開設した一昨年の9月から数えて77件にのぼる。
遭難対応はどのような流れで行われるのだろう。
まず、遭難情報提供フォームに寄せられた情報を元に、開発チームとともに該当するアカウントを探す。アカウントを特定し、位置情報を得ることができれば、まずは警察にその緯度・経度情報を口頭で伝える。その後、遭難者の軌跡や経過時間といった他の情報を共有するために、画面のスクリーンショットをFAXかメールで送る。とそこまで聞き、一刻を争う時に、今時FAX?と思ってしまったが、これには理由がある。
警察はセキュリティシステムが厳しいため、最初はメールアドレスを教えてもらえないこともあるという。通過した時間や通過ルートなど、こちらから提供できる情報の詳細をねばって伝えてようやく教えてもらえるような場合も。位置情報のURLもセキュリティの関係で開けないため、FAXでの送付を希望される。ここ1年ほどはコロナ禍によるリモートワークのため、FAXでの送付も難しく、スクリーンショットを撮ってメールで送っていた(2021年3月初旬よりネット経由でFAXできるよう整備済みとのこと)。
聞けば聞くほどもどかしい。これに限ったことではなく、国のシステムが時代に追いついていないがために、技術は進んでいるのに解決されない問題が散見される。せっかくの企業努力が無駄になっているのではと感じたが、矢島さんはこう続けた。
「YAMAPの位置情報がどんなに便利か理解している警察の方は熱心で、熱い思いを持っています。先日もある県の警察の方から問い合わせが来ていました。FAXでしかやりとりできないけれど、情報提供して欲しい、どうにかして使いたいと」
高知県で起こった遭難の事例では、数日間の捜索の後に警察署から連絡が入り、位置情報の提供後すぐに発見されたということがあった。当時YAMAPは消防署とは連携しておらず、位置情報は警察にのみ提供していた。事例を知った消防署から、位置情報を依頼する際の手順や、時間外の対応が可能かなどの問い合わせがあった。ほかにも、YAMAP MAGAZINEの遭難対応事例の記事を見て、消防署や警察署から問い合わせがあったこともある。
「ある県の遭難対応で伺った話では、位置情報が分かればその場所にすぐ向かえるし、班を分けて捜索する必要もなくなるので、それだけ発見も早くなり、救助隊員の士気が上がると聞きました。何も情報がない中では、大人数での数日に渡る捜索となり、闇雲に探す感じがする。情報さえ提供してもらえれば、地形を見ながら遭難者の行動を想定して探すことができるので早い発見につながるとおっしゃっていました。捜索をされる救助隊員の方々も命懸けで捜索をされています。この機能が少しでも捜索のお役に立てるのであれば、利用していただくために警察や消防署に向けて啓発活動をしたいです」
自分のため、家族のためのみまもり機能
位置情報が、遭難捜索にとって重要な手がかりとなることは分かった。では、私たち登山者ができる対策とは何だろう。
YAMAPにはみまもり機能という、活動中の位置情報を家族や友達に知らせることができる機能がある。無料で誰でも使える機能だ。プレミアム会員であれば、LINEで家族へ通知することもできる。
しかし、ユーザーの中には、みまもり機能をONにすることで、位置情報をYAMAPに提供するのが不安、自分の個人情報をさらすことになるのではと心配する人も少なくない。
「ユーザーさんの位置情報は権限管理をしていて、有事の時のみ開発責任者など限られた者しか見られない仕組みになっています。命を守るツールは積極的に使って安全登山をして欲しいです。遭難事故が起きた時、ユーザーさんがみまもり機能を設定していれば、家族の方は最新の位置情報を確認できます。YAMAPに連絡をしなくても、確認したみまもりURLを家族の方が直接警察に伝えれば、より早い捜索活動につながります」
みまもり機能を活用して救助された事例が記事になっている。
鳥取県・大山|突然の吹雪・ホワイトアウトに見舞われた登山者を救った話
https://yamap.com/magazine/23891
岐阜県・左門岳|「山は生き物」 初めて遭難にあった登山のベテラン夫婦が伝えたいこと
https://note.yamap.com/n/n2bfbb2efa83a
昼夜問わずの対応が開発チームを動かす
遭難情報に関する業務は手弁当でやっている。しかし、一企業が担うには負担が大きすぎる部分もあるのではないだろうか。
「YAMAPのアプリは命を守るツールとして作ったというところもあるので、私の気持ちとしては、昼夜を問わず、土日でも関わらず、助かる命があれば対応したいです」
遭難の問い合わせは、夕方や土日が多い。日暮れの頃に警察から問い合わせがあった場合、対応が深夜や早朝にまで及ぶことも。携帯の着信履歴に、様々な地域の110番が並んでいたときもあったそうだ。
矢島さんは、「スポットライトを当てるべきなのは開発者だと思う。私は取り次ぎをしているだけ」という。みまもり機能の開発は、遭難対応するカスタマーサービスチームの様子を隣のデスクで見ていた開発者が、「どうにかできないだろうか」と思ったことがきっかけとなったそうだ。
横のつながりが強いYAMAPは、それぞれの経験を別の部署にフィードバックしやすい土壌があり、そこから、次々と新しい機能が生まれているのだろう。
有能な開発チームもなくてはならない存在だが、ユーザーの声をこぼさず拾い上げるカスタマーサービスの存在も必要だ。それらの声がどれだけ機能の開発や精度の向上につながるのかを理解して業務にあたれるか。熱心なYAMAPユーザーだった矢島さんがそこにいる意味が分かった気がした。
過信することなく登山地図アプリ使いこなそう
「YAMAPの機能を過信しすぎている人も多いと感じます。私も使い始めはそうでした。これさえあれば道に迷わないと。アプリのおかげでいろんな山に登れるようになったという声をいただくのは本当に嬉しいです。でも、単独行で遭難した方が、知人にYAMAPがあれば大丈夫と言い残していたそうです。助からなかった遭難者を思うと、本当に無力さを感じました。過信しないで欲しいということをどういう風に伝えたらいいかはすごく難しいと思うんですが、大事な家族のため、自分自身の未来のためにも安全に登山を楽しんで欲しいと切に思います」
矢島さんは鳥取県の大山での遭難の記事を読んで、生還を果たしたユーザーの方の「これからも山に登りたい」という言葉を聞けて安心したという。登れなくなっているのではと気になっていたそうだ。遭難対応の際は、あまり家族の気持ちに寄り添い過ぎると仕事にならなくなってしまうので、どこまでできるかを冷静に判断できるよう、割り切って対応するようにしているそうだが、同じ山に登る者として、遭難事故に対応するという精神的負担はどれだけのものだろう。
GPSアプリはいまや、安全登山に欠かせない新しい山道具の一つといえるようになった。手のひらに乗るその革新的な道具は、私たちの命を守るのと同時に、使い方を誤れば危険にさらされることにもなる。それを正しく使いこなすことは、日々切磋琢磨して道具に磨きをかけている製作者に対するマナーでもあると思った。
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(撮影:YAMAP 﨑村 昂立)
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