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雪山初心者はどの時期の、どんな山を選ぶべき?|雪山登山の基本 #01
「今年こそは雪山に挑戦してみたい!」と思っている山好きの方に、わかりやすい解説で人気の登山ガイド、石川高明さんが雪山登山の基礎知識を伝える本シリーズ。今回は、雪山の装備や歩行技術を学ぶ前に、まずは雪山とはどんなところなのか、新雪期・厳冬期・残雪期の3つのシーズンに分けて、その特徴と注意点を解説していただきます。また、初心者が無理のない雪山を選ぶために基準としたい観点も合わせてお伺いしました。
雪山初心者必見!登山ガイドが教える「雪山登山の基本」 #01/シリーズ一覧
目次
一言に「雪山」といっても、およそ半年近くシーズンが続く地域や山もあるため、時期によってその特徴はまったく異なります。その違いを押さえることで、雪山のイメージをより解像度高く掴むことができるようになるでしょう。
雪山のシーズンは大きく分けて新雪期、厳冬期、残雪期の3つがあります。私が暮らす信州付近を例にすると、11月末〜12月下旬が新雪期、年末年始〜2月末が厳冬期、3月〜5月上旬が残雪期となります。
信州より北にある東北地方や、積雪の多い北陸地方など、緯度や積雪量によって3つのシーズンの始まりや終わりが異なりますので、ガイドブックや地方自治体のHP、ウェブで公開している山行記録などで、エリアごとの特徴や状況を確認しましょう。
YAMAPユーザーの活動日記の写真データを分析した「リアルタイム積雪モニター」も参考に
新雪期(11月末〜12月下旬)|早い日没と装備に注意
日没が早く、積雪量が少ない時期。岩が出ているところがあったり、雪が硬く締まっていなかったりして、アイゼンが効きにくいところが多いため注意が必要です。
また、ひとたび冬型の気圧配置となると、急激に気温が下がり、一晩で10〜20cmの降雪になることも。一方で、暖かいときは雨が降ってしまうため、雨雪両方に対応できるウェアや装備を検討しなくてはならないことも。3つのシーズンの中でも、ウェアや装備には一層気を使うシーズンと言えます。
厳冬期(年末年始〜2月末)|雪山らしい積雪と景色を味わう
気温は日ごとに下がり、積雪量がどんどん増していきます。山域や地形によっては胸までのラッセルを強いられることがあり、山行計画をきちんと見積もれるかどうかがカギとなります。気圧配置によってはすさまじい風雪に見舞われ、正しい対処ができないと低体温症や凍傷にかかることも。また、雪庇や雪崩など、遭難の原因となるような危険も増えます。十分な知識と技術をもって、天候が安定しているときに入山すべき時期です。
寒さや積雪が厳しい…ということは、最も雪山らしい姿が見られるということ。年末年始に営業する山小屋には、多くの登山者が訪れます。また、積雪も十分なので、ふかふかの雪でスノーシューハイキングにもぴったりの時期です。
残雪期(3月〜5月上旬)|長い日照時間と締まった雪
厳冬期に比べて暖かく、雪が硬く締まって歩きやすくなります。とはいえ、積雪はまだまだ大量にあるため、融雪による雪崩の危険性は残っています。また、移動性高気圧に覆われたときにはぽかぽかの登山日和ですが、周期的に悪天候が訪れる時期でもあり、不意の降雪には注意が必要です。
雪山初心者が考慮したい、山の選び方の目安
「初心者にはこの時期のこの山がおすすめ!」と紹介したいところですが、それができないのが雪山の難しいところ。というのも、雪山の難易度は「歩行技術」などによっても大きく左右されるためです。端的にいうと「難しいアイゼンワークを必要とする地形・雪質か」が、雪山の難易度を決めています(具体的な歩行技術と雪山の難易度については、「⑥雪山の歩行技術と難易度」以降で詳しく解説します)。
とは言っても、山選びの手掛かりになるポイントは知っておきたいところ。雪山初心者が考慮したい、目安になる指標の一部をご紹介しましょう。
①営業小屋がある山、多くの人が登っている山
例えば八ヶ岳には冬季も営業する山小屋があり、その周辺には多くの人が入山しています。そのため、トレースがはっきりしていて、初心者には難しいラッセルが不要なケースが多いのがありがたい点。無論、一旦降雪があるとトレースは消えてしまい、ルートファインディングが一気に難しくなるので油断は禁物です。また、入山者が多いと、積雪量や危険箇所の情報が集まりやすい傾向があるため、出発前の下調べがしやすいのも重要な要素となります。
②森林限界を超える山歩きが少ない山
雪山の強風は体温を急激に低下させ、低体温症や凍傷のリスクを高めます。風をさえぎる樹木がなくなる森林限界を超えると、これらのリスクに対応しなくてはなりません。また、森林限界を超えると雪庇や雪崩のトラブルも増大します。まずは、初心者は森林限界以下を歩いて、雪山の感覚をつかんでいくのがおすすめです。ただし、樹林の中はルートがわかりにくいという難点もあります。赤布を見落とさないようにするなど、ルートファインディングに注意し、迷ったと思ったら引き返す勇気も必要です。
③夏山で登ったことのある山
一度無雪期に登ったことのある山なら、ある程度地形を把握しているため、リスクを予測することができます。コースタイムは夏山と同じではないので、積雪量や入山者の有無などを考慮し、1.5倍から2倍の余裕を持っておくことが必要です。日没の時間を事前にチェックして、無理のない行動計画を立てましょう。
④ロープウェイやゴンドラを使って登る山
スキー場の上にある山など、アプローチに索道(ロープウェイ、ゴンドラ)を使える場合は、一気に雪の世界に上ることができます。手軽に高所まで上がれる一方で、天候の急変や麓では体感したことがない強風など、高所におけるリスクが増え、それが突如として迫ってくることもあるので、十分に注意しましょう。
山選びのポイントをクリアしていれば、安全というわけではありません。晴天時は歩きやすいけれど、吹雪くと道迷いしやすくなる場所など、そのときどきの状況で難易度は変化します。評価を鵜呑みにするのではなく、状況によっては撤退する決断も必要です。
写真/宇佐美博之(提供写真以外)
信州登山案内人・登山ガイド
石川 高明
長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実施してい る。
原村観光連盟 副会長/八ヶ岳観光圏 観光地域作りマネージャー
公認スポーツ指導者 山岳指導員/長野県信州登山案内人
(株)八ヶ岳登山企画 代表取締役/登山歴30年/スノーシュー歴20年
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