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比良山地の主峰、武奈ヶ岳に登る王道コース 坊村からイン谷口へ|深掘り登山ガイド 比良山地 #01
琵琶湖の西に広がる比良山地。京阪神からのアクセスの良さもあり四季を通じて多くの登山者を集めます。この比良山地に登るならまずは登っておきたいのが最高峰の武奈ヶ岳。最短の御殿山コースでアプローチして、高層湿原の八雲ヶ原を経由して琵琶湖の展望が抜群の北比良峠へ。下山は快適なダケ道を利用する王道コースを関西在住のベテラン山岳ライター、加藤芳樹さんが紹介します。
目次
比良山地の人気ナンバーワンは武奈ヶ岳
日本一の湖、琵琶湖の西に横たわる比良山地。その中で人気ナンバーワンは何といっても、最高峰の武奈ヶ岳(ぶながたけ)だ。
かつて、1990年代、山上にはスキー場があったころは、リフトとロープウェイが通じていて、比良は手軽なハイカーの山だった。スキー場がなくなってからは、麓からたっぷり1,000m近くの標高差を登る山へと戻った。登山者も減るのではないかと思われたが、その人気は相変わらずで、休日ともなれば、山頂は登山者であふれかえっている。関西の登山者は思いのほかたくましいものだと実感した。
登山道はいくつかあるが、最も登られているのは西麓の坊村からで、武奈ヶ岳への最短コースだ。そこはやはり出来るだけ楽なコースを選びたいようだ。
坊村からのコースを御殿山コースとも呼ぶが、それまでのメインコースはどちらかといえば琵琶湖側の東麓だった。
坊村は、もともと比叡山との結びつきが強い集落で、山々をめぐる回峰行の拠点。坊村バス停から山の手に向かうと、料理旅館の比良山荘を右に見送り、社殿が重要文化財に指定されている地主神社に突き当たる。そこで左に折れて赤い橋を渡ると、葛川息障明王院がある。
夏の夜には太鼓回しと呼ばれる行事が行われるが、これも回峰行にまつわる祭りだ。坊村のユニークさに白洲正子が着目し、著書『かくれ里』で詳しく紹介しているから、興味があれば一読して登山に出掛けるのもいい。
ちなみに、ここを下山口にすると、比良山荘で山の辺料理を堪能できる。夏の鮎料理がメインで、山帰りに立ち寄るには少々高級だが、手ごろなミニ懐石(5,000円)などもある。個人的には、一度は味わってほしい比良の味だ。
さて、登山口は明王院の奥にあるが、山中にトイレはないので、バス停近くのトイレで済ませておこう。いきなりの急登だから、なかなか覚悟がいる。植林の中に続く道を登り続け、雑木が目立ち始めると、いったん平坦地に出る。僕はここでひと息入れるのを通例にしている。ここからしばらく山腹道が続き、やがて尾根に乗る。冬道は山頂までこの尾根をたどるのだが、夏道は尾根を乗り越し反対側の斜面をたどる。近年、しっかりした道標が付けられたから迷わない。樹林の美しい道で、春にはイワカガミが咲き乱れる。秋はもちろん紅葉だ。少し谷地形になったところを登り詰め、しばらく行くと再び尾根に出る。ちょっとした広場になっている。ひと登りすると、御殿山で、武奈ヶ岳を眺めるにはもってこいの場所だ。朝一番のJR堅田発のバス便に乗ると、ちょうどこのあたりで昼食の時間となるだろう。あと1時間ほど頑張って山頂で食べる人も多い。
武奈ヶ岳のハイライトは西南稜からの登り
御殿山から急降下してワサビ峠に出て登り返せば、武奈ヶ岳登山のハイライトである西南稜になる。山頂まで灌木と草原が続くスカイラインは爽快のひと言。正面に武奈ヶ岳の山頂を見据え、開放感に浸りながら登っていくのだ。
背後には、どっしりとした比良第2の高峰、蓬莱山の姿が見える。春先からゴールデンウィークにかけてはまだ冬枯れで殺風景だが、ツツジ咲く初夏や、その葉が真っ赤になる秋は特におすすめの季節だ。モザイクのように色づくコヤマノ岳もいい。雪山の心得があるなら、冬もまたいい。山頂に立つと東側には琵琶湖が見える。西側は茫洋とした京都北山の山並みだ。
さて、下山だが、山頂手前から東に下っている急斜面をたどる。いったんコヤマノ岳の肩を乗り越して、芦生杉の林立するイブルキのコバを経由して、スキー場跡へ。スキー場の底に当たる場所に池がある。ここは琵琶湖国定公園内だから、スキー場を廃止するにあたり、原状復帰が求められた場所で、スキー場の経営側が、古い写真を見て昔は池があったことを知り、掘り返してよみがえった池だ。すでに15年以上が経ち、当初の人工的な公園のような雰囲気からかなり自然の池になった印象だ。一方、昔から名所の湿原として知られた八雲ヶ原は、その上を通る木道も整備しなおされることもなく朽ちて、立ち入りができなくなっている。
八雲ヶ原からは北比良峠に向かって登っていく。かつてはロープウェイ駅があり賑わった場所だか、その面影は微塵もない。しかし、琵琶湖を眺めるなら、やや遠望気味になる武奈ヶ岳の山頂より、こちらの方が圧倒的にいい。
下山路はいくつかある。上級者や体力のある人なら尾根通しに南へ向かい、金糞峠(かなくそとうげ)から正面谷を下るコースを進めたいところだが、ここは素直に北比良峠から東に延びるダケ道をおすすめする。ゴールデンウィークのころならシャクナゲが花盛りのことだと思う。
しばらくは快適な尾根沿いの道だ。道が九十九折になりだすと、山ヌケした斜面を通る箇所もあるので少し注意が必要となる。途中にカモシカ台と呼ばれる平坦地があるが、特に何があるわけでもない。最後には正面谷の大山口に下り着く。そこから少し下ると林道になる。
レスキュー比良の管理小屋を過ぎると、その昔は出合山荘という山小屋があったイン谷口だ。土日祝日であれば、本数は少ないが比良駅までバスが出ている。平日なら駅まで1時間ほど歩かなければならない。その場合は、少し道を外して、温泉のある「比良とぴあ」に立ち寄り汗を流すといい。駅までの送迎バスを利用することができる。
<山麓の楽しみ>
比良山荘
住所:滋賀県大津市葛川坊村町94
営業時間:11:30~13:00最終入店 17:00~19:00最終入店(予約制)
電話:077-599-2058
定休日:火曜日
http://hirasansou.com
天然温泉 比良とぴあ
住所:滋賀県大津市北比良1039-2
営業時間:10:00~21:00
電話:077-596-8388
定休日:年末年始・不定期メンテナンス有
https://www.hiratopia.com
トップ画像:dai2222lさんの活動日記より
ライター/編集者
加藤 芳樹
山と溪谷社大阪支局山岳部門編集長を経て、フリーの編集者・ライターに。特に雑誌「関西ハイキング」(現在休刊)を長年責任編集し、関西の山に精通。現在、「岳人」の編集部に所属しながらも、「山と溪谷」など山岳誌を中心に活躍。主な著書に『関西周辺 週末の山登り120』『兵庫県の山』(山と溪谷社)。
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