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登山口は新幹線の駅! 茶屋と夜景を満喫する神戸市六甲・摩耶山の楽しみ方
街と近い山は数あれど、新幹線の駅が登山口!なんて山は、そうそうお目にかかれるものではありません。そんな珍しい場所が、神戸市中心街のすぐ側にそびえる六甲山系。
中でも山陽新幹線が停車する新神戸駅の登山口から登れる摩耶山(まやさん・702m)は、1000万ドルの夜景を見られることから、登山者だけでなく観光客にも人気の山です。
今回の山旅では、摩耶山に足繁く通う2人に、街が近い六甲山系ならではの楽しみ方を教わりました。一緒に登るのは、まちづくりや摩耶山のガイドにも携わる慈(うつみ)憲一さんと、神戸市に住むモデル・ブランドディレクターの新田あいさん。
お昼からゆっくり出発して、茶屋でのランチ、摩耶山頂でのBBQとサンセット・夜景を楽しむ贅沢登山。下山にはロープウェーを使えるので、遅い時間まで山頂を楽しめるのも摩耶山の魅力です。
目次
新幹線の駅から始まる登山
新神戸駅にある「トレイルステーション神戸」で待ち合わせをする慈憲一さん(左)と新田あいさん(右)
ふたりが待ち合わせしたのは、去年の7月にオープンした「トレイルステーション神戸」。ここは新幹線の新神戸駅構内にある登山支援拠点です。靴やザックなど登山用品レンタルや、誰でも使える着替えスペース、スマホの充電器レンタルなど、登山に必要なサービスが揃う場所。
六甲山登山の出発地点にもなっていて、ザックを背負った登山者が続々と集まってきます。
駅を行き交う登山者を見るだけで、なんだかお祭り気分に。こんなに登山のモチベーションを上げてくれる新幹線の駅は、全国でここだけかもしれません。
今回歩いたのは、新神戸駅を出て、布引貯水池・稲妻坂・天狗道を経て摩耶山の掬星台(きくせいだい)へ至るルート。一般的な所要時間は3時間10分。モデルコースはこちら
今日は新神戸駅を出発して、布引雄滝(おんたき)を経て六甲全山縦走路でもある稲妻坂、天狗道を登ります。摩耶山の山頂で夕陽と夜景を楽しんだ後は、ロープウェーとケーブルカーで下山予定です。
新神戸駅を出ると「絶対に迷わせない!」という意思を感じる巨大な道標。登山者に優しい神戸の街です
トレイルステーション神戸から外へ出て高架下をくぐり、いざ出発です。
登り始めの石段でひと汗かいた後には、涼しげな布引雄滝が待っています
高架下を抜けて、道なりに歩き、その先に伸びる石段を登りさらに進むと、早速、涼しげな布引雄滝に出ました。
布引の滝は、雄滝、雌滝(めんたき)、夫婦滝(めおとだき)、鼓ヶ滝(つづみがたき)の四つの滝の総称で、「日本三大神滝」のひとつです。
平安時代から和歌に詠まれてきた美しい景勝地であり、京都の貴族たちが滝を見物に訪れていたことが『伊勢物語』にも記されています。
全部で4つある布引の滝の最上流にある雄滝は、落差約43mの迫力。その名の通り白い布がたなびくように水が落ちます
滝の周辺には、平安時代から江戸時代にかけて布引の滝が詠まれた歌の歌碑が点在しています。今も昔も、自然を見て思う人の心は変わらないのだと感じる場所です。
歴史ある茶屋も登山の楽しみ
新神戸駅から約15分の山中にある「おんたき茶屋」。お出汁の匂いに引き寄せられて、登山者がのれんをくぐります
雄滝の先には、このルートで最初の茶屋「おんたき茶屋」があります。布引の滝の周辺には、かつては多くの茶屋や土産物屋があり、その中で唯一残ったのが、大正初期創業のおんたき茶屋です。
美しい滝や森を望みながら食事・甘味をいただける。いつまでも座っていたい雰囲気
登山道に漂う甘辛い醤油とお出汁の香りに誘われ、まずは登る前の腹ごしらえ。メニューは、うどんからラーメン、おでん、スイーツまで揃う充実ぶり。店内を覗くと、外を見ながらお茶をしたり食事を楽しんだりする人々で賑わっています。
「秋になると、木々が紅葉してとても綺麗ですよ」と慈さん。
甘辛いお出汁の湯豆腐。土鍋の蓋を開けると予想外のボリューム!鶏肉、豚肉、穴子、野菜の上にトロロ昆布。夏限定の山菜トロロ蕎麦もおすすめだとか
茶屋のすぐ先には、神戸の街を見渡せる「みはらし展望台」があり、トイレもあって多くの登山者が休憩していました。中にはトレイルランナーの姿もちらほら。今年、摩耶山では、トレイルランニングの世界大会が開催され、大盛況だったそう。
大会の影響もあってか、最近六甲山系にはトレイルランナーが増えているとのこと。各々のスタイルで山を楽しむ人が行き交う登山道を歩いていると、六甲山の懐の広さを感じます。
神戸の人々に愛される布引貯水池
しばらく進むと、まるで城壁のような石積みの建造物が現れました。神戸市の水道水源である布引貯水池(布引五本松堰堤)です。
明治33(1900)年に完成した日本最古の重力式コンクリートダムで、近代化遺産「布引水源地水道施設」の一部として国の重要文化財に指定されています。ダムの建築には、築城の技術を持った高知の石工の末裔が携わったのだとか。
布引の水は、かつて神戸港に立ち寄る海外の船乗りたちに、「赤道を越えても腐らない美味しい水」と言われ重宝されました。山に降る雨は、六甲山の花崗岩層に濾過され、適度なミネラルを含んだ水になるのです。
近代化遺産「布引水源地水道施設」の一部として国の重要文化財に指定されている布引貯水池。秋には紅葉も楽しむことができます
布引貯水池沿いの遊歩道は、歩きやすくて木陰が美しい素敵な道。しばらく歩くと、東側の山肌に布引断層の説明版を見つけました。
説明版によると、六甲山は、100万年前に始まった地殻変動により隆起して誕生したとのこと。山の上から見下ろすことができる大阪湾は、六甲山の隆起によって生まれた窪み。実は、六甲山系は瀬戸内海の海底を経て淡路島まで繋がっているのだそうです。
布引貯水池から少し進むと、このコースで2つ目の茶屋、「紅葉の茶屋」があります。山仲間との忘年会は毎年この茶屋で開催しているという慈さん。今年もすでに名物であるすき焼きの予約を入れているそうです。
(左)昭和2年に創業した「紅葉の茶屋」。登山客を見守るテディーベアが目印。(右)女将が考案した紅葉の茶屋ならではのすき焼きはぜひ味わってほしいメニュー
六甲山の茶屋は「毎日登山」の文化とともにあります。毎日登山とは、出勤前に自宅近くの裏山に登る明治時代から根付く文化のこと。
神戸に住む外国人たちが早朝から山に登っていたのを、地元の人々が真似して浸透していったと伝わります。そんな外国人たちに、山小屋の主人がお茶をふるまうようになったことが茶屋のはじまりでした。
櫻茶屋で人気の冷凍パインを手にして満面の笑み
「紅葉の茶屋」を過ぎると、すぐにまた次の茶屋「櫻茶屋」があります。なんとこの茶屋、缶ビールは主要な銘柄が全部揃っているし、おでんやたこ焼きなどの軽食に加え、さらに薪まで売っています。
こんな山の中で?と思いますが、茶屋の左手にある河原へ下りてみるとその理由に納得。
市ヶ原と呼ばれるこの場所ではかつて市が開かれていました。南で獲れた魚と、北で採れた農産物が市で交換されていたといいます。今は登山者が行き交うジャンクションになっていて、北はトゥエンティクロスを経て森林植物園へ、東は摩耶山、西は再度山へと続く登山道が交差しています。
駅から徒歩1時間ほどのこの場所は、地元の人々の憩いの場です。広い河原には、焚き火をしている人たちの煙が立ち上り、中にはテントを張って読書を楽しむ人も。
市ヶ原は山の中のオアシスのような場所。トイレや茶屋もすぐそばにあるため、ここで1日のんびり過ごす人の姿も見られます
以前は新神戸駅からも近い北野に住んでいたという新田さん。市ヶ原の周辺で水浴びをして濡れたまま歩いて家に帰ったこともあるそうです。
Okaraのブランドディレクターとして、商品撮影で山に入ることも多い新田さんにとって六甲山は、遊び場でもあり仕事場でもあり、暮らしの延長にあるなくてはならない存在だといいます。
ルート選びも楽しい六甲山系
稲妻坂をひと登りし、気持ちの良い天狗道を進みます。天狗道の名前の由来は、山頂にある天狗岩からきているのだそう
慈さんと新田さんの会話を聞いていると、六甲山系のルート名がポンポンと出てきます。
新田さん「冬に登ったんですけど、黒岩尾根は結構しんどかったです」
慈さん「あそこは冬で正解!夏は日に照らされてもっときついよ」
新田さん「私はよく市ケ原から再度公園まで抜けます」
慈さん「これからは紅葉がきれいですよね」
六甲山系には神戸の街から、いく筋ものルートが張り巡らされています。
悩むほどあるルートをどう歩くか考えるのも六甲山系の魅力のひとつ。しかし、一筋間違えば思わぬ場所に出ることもあり、街から近いとはいえ注意が必要です。
かつては山伏の行場だった天狗道は岩場も多く、アスレチックのように楽しめる
急登の稲妻坂を越え、天狗道が徐々に岩場になってくると山頂はもうすぐ。
登山道で目に入るものがあれば「これはね〜」と教えてくれる慈さん。山のことは全て山で出会った先輩との会話から知ったといいます。自分が教わったことを次の世代にも伝えたいと、小学校の遠足でガイドをすることもあるのだそう。
書籍やネットからではなく、口伝えで山のことを教えてくれる山の先輩がいる。これも足繁く通う常連さんがいる六甲山系の魅力。
この山では、他の登山者との会話を積極的に楽しんでみるのもおすすめです。もしかしたら、知る人ぞ知る情報を常連さんから聞けるかもしれません。
山頂には巨石を祀った天狗岩大神がある。この巨石の一つが天狗岩で、広さは約8畳あり、摩耶山の聖が天狗を封じ込めた岩との伝説も
夜を待つ時間も楽しめる摩耶山山頂
掬星台に到着!新田さんにとっては庭のような場所です
山頂の三角点を確認し、展望デッキのある掬星台に到着すると、目の前には神戸と大阪の街が広がる大絶景!
でも、今回の目的は登頂だけでなく夜の摩耶山。日本三大夜景のひとつにも数えられる絶景です。
この日は少し早くついたこともあり、日没までにはあと2時間ほど。でも、どうやって時間を潰そうかという心配は摩耶山では無用です。
歩いて20分の場所には、摩耶山の山名の由来でもある摩耶夫人(まやぶにん)がご本尊の古刹「天上寺」があり、境内にはアサギマダラが飛来するスポットも。
ちょっと休憩したければ、摩耶ロープウェー山上駅「星の駅」2階の「CAFE702」で、神戸市街を眺めながらゆっくりと山の余韻に浸ることもできます。
CAFE702のおすすめは、テラスで楽しむバーベキューです! 周りの席では、ワイン片手に美味しいお肉に舌鼓を打つ登山者の姿も。こうして山頂でお酒を楽しめるのも、ロープウェーで下山できる摩耶山ならではの楽しみ方です。
CAFE702のバーベキューテラス。テーブルチャージは1人1000円(3時間)で、炭、七輪、焼き網、トングが付き、食材や飲み物の持ち込みができます。冬にはコタツが出て鍋を囲むこともできるのだとか
食材セットを予約すれば手ぶらでもOK。黒毛和牛ロース、黒毛和牛カルビ、ラム肉、もち豚ロース、鶏もも肉、ソーセージ、野菜のセットで1人2500円です(別途テーブルチャージ・3日前までに要予約)
もっとアウトドアを楽しみたいという人は、カフェに併設する「monte702」で、イスやテーブル、タープやバーナーなどをレンタルするのもおすすめ。掬星台の広場でのんびりピクニックを楽しむことができます。
掬星台から見下ろす神戸と大阪の街。この街が暗くなるとどう輝くのかを楽しみに夜を待ちます
一瞬も見逃せない、夜が始まる瞬間
日が落ちてしまわないうちにと、慈さんがとっておきの夕日スポットに案内してくれました。夜景目当ての人々で賑わう掬星台を背に、われわれは西側にある海の丘へ。
細い道を抜けると、テーブルとベンチのある広場に出ました。ここからは淡路島や明石海峡などの西側の海や、晴れていれば小豆島も見えるそう。海に落ちる夕日を見るなら、掬星台よりもこちらの方がおすすめなのだとか。
雲が幾重にも重なっていましたが、その隙間から夕日が見え隠れしみんなで一喜一憂! 線香花火の火が落ちるように夕日が沈んでいきます。
「夕焼け小焼けっていうでしょ。日が沈んだ後の光を小焼というそうです」と慈さん。空にたなびく雲を染めながら沈む夕日は、言葉では言い表せない美しさです。
掬星台から黒岩尾根方面へ向かう途中にある「海の丘」から見る夕日。明石海峡や淡路島も望むことができます
すっかり暗くなった道を戻り、掬星台へ。展望デッキは1000万ドルの夜景を目当てに集まった人でいっぱいです。この1000万ドルという数字、実はちゃんと根拠があって、神戸市の世帯数の電気代を計算して算出したのだとか。「事業所は入っていないので、実際はもっと多いはずです」と慈さん。
夏には花火大会を見ることもできるのだとか
温泉につかるまでが六甲登山
摩耶ケーブルは大正14(1925)年、摩耶ロープウェーは昭和30(1955)年の開業。戦争や震災による休業を乗り越え地元の人々に支えられてきました
ゆっくり夜景を堪能し、下りは摩耶ロープウェーと摩耶ケーブルを乗り継いで下山。車窓から見る街明かりもしっかり堪能しました。
摩耶ケーブル駅からの移動は、「坂バス」が便利。阪急やJRの駅とも連絡しています。下山後は坂バスに乗って、水道筋商店街の中にある登山者御用達の「灘温泉」で汗を流しましょう。
低温の天然炭酸泉は体温に近いお湯加減。炭酸ガスの泡に包まれ、ゆっくりと身体を休めることができます。
六甲山系の山麓には有馬温泉をはじめとする天然温泉が湧いていますが、六甲山は火山ではないため、そのどれもが火山性のものではありません。火山を熱源とする温泉がほとんどの日本では、とても珍しいそうです。
摩耶山のふもと、水道筋商店街にある灘温泉は、露天風呂やサウナもあって450円(サウナ料金別)。摩耶ケーブル駅から歩いても20分の距離にあり、朝5時から24時までの営業です
温泉を目当てに訪れた水道筋商店街ですが、赤提灯が灯り、とても素敵な雰囲気。登山の締めには、ぜひ下山後の一杯を楽しんでください。きっと地元を愛する方々との良い出会いがあるはずです。
神戸市内には、飲食店や温泉・宿泊施設など、多くの魅力的な「登山サポート店」が。登山と合わせて立ち寄ることで、きっとより深く神戸の街を楽しむことができるはずです。
また、少し足を伸ばせば、三宮や元町、ハーバーランドなどにもすぐ アクセス可能。 ナイトタイムイベント、レストラン、素敵な雰囲気のバー、ライブハウス、 ジャズバーなど、楽しめる場所が数多くあります。
下山後に神戸の中心街に繰り出していくのも一興です。
夜の神戸に繰り出して、お気に入りの場所を見つけてみてください
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