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【西日本編】3つの川の分水嶺|YAMAP流域地図で探す、次の山
分水嶺(ぶんすいれい)とは、山に降り注ぐ雨水が異なる方向に流れてそれぞれの水系を作る、その境界線となる峰のことです。そのため、私たちの生活圏である川の流域の周縁を構成しているのが分水嶺ということになります。
近くの街でも川や橋を越えたら上流の分水嶺は別という場合もありますし、日本海側・太平洋側など気候や文化が大きく異なる地域でも同一の分水嶺で隔てられていることもあります。
多くの山は2つの川の分水嶺となっていますが、3つの川さらに4つ以上の川の分水嶺となっている珍しい山も。今回はYAMAPがリリースした「流域地図」を見ながら、西日本(近畿・四国・九州)で3つの河川の分水嶺となる山を紹介します。
目次
3河川分水嶺の魅力
山に降った雨は、稜線から流れ落ちて沢(川)を形成するため、山は基本的に分水嶺となります。南北に延びる稜線であれば東西の川の分水嶺に、東西に延びる稜線であれば南北の川の分水嶺となるのです。
例えば、六甲山(ろっこうさん・931m)。東西に稜線が延びて連山となっているため、南側の住吉川流域と北側の武庫川流域の分水嶺となっています。さらに今回は、2つではなく比較的著名な3河川、もしくはその支流の分水嶺となっている珍しい山を紹介します。
【京都・大阪・兵庫】淀川・武庫川・加古川の分水嶺|舩谷山(ふなたにやま)
いわずと知れた大阪のホームリバーである淀川、六甲連山北側から瀬戸内海へ注ぐ兵庫県有数の大河川である武庫川、加古川の3河川の分水嶺となっているのが、舩谷山(ふなたにやま、730m)です。
舩谷山は分水嶺だけでなく、京都府・大阪府・兵庫県の3府県境が接する山としてもあり、京阪神地域で暮らす人にとってはぜひ訪れてみたい場所。
京都府側へは淀川支流の園部川へ流れ込む沢が、大阪府側へは武庫川支流の羽束川が、兵庫県側へは加古川支流の籾井川へ流れ込む八幡谷ダムへの沢がそれぞれ流れ出しています。
さまざまな登山コースがある舩谷山ですが、山頂周辺は樹林帯で展望はありません。対照的に、南東に連なる深山(みやま、790m)は、山頂付近に深山宮の鳥居と岩が祀られており、ススキや笹の草原が広がる眺望の良い山です。
モデルコースでは八幡谷ダムから加古川流域を歩き、稜線に出たら大阪府・兵庫県境の武庫川・加古川分水嶺を、舩谷山から深山は大阪・京都府境の加古川・淀川分水嶺を、帰路は京都府・兵庫県境の淀川・武庫川分水嶺を歩くことができます。
コース情報【舩谷山-深山 周回コース】
コースタイム:3時間30分
歩行距離:5.7km
累計標高差(上り):586m
累計標高差(下り):586m
【大阪・和歌山】大津川・大和川・紀の川の分水嶺|三国山(みくにやま)
池上曽根遺跡・摩湯山古墳・泉井上神社など流域内に長い歴史を誇る史跡が多い大津川、大和葛城山(やまとかつらぎさん、958m)・金剛山(1,125m)など関西エリアのホームマウンテンが流域内にそびえる大和川、日本有数の多雨地帯である大台ヶ原を源流とする大河川・紀の川。
これら3河川の分水嶺となっているのが、三国山(みくにやま、885m)です。
現在は大阪府・和歌山県境に位置する三国山ですが、旧国名では和泉・河内・紀伊の文字通り3つの国の境でした。
同名・類似名の山では山梨・神奈川・静岡県境の三国山(1,343m/甲斐・相模・駿河の国境)、福井・滋賀・岐阜県境の三国岳(1,209m/越前・近江・美濃の国境)など現在の都道府県境と同一の山も。全国に多数存在する“三国”が付く山を、いにしえの国境を重ね合わせてみるのも分水嶺の楽しみ方のひとつです。
三国山が連なる和泉山脈は、修験道の開祖・役行者が最初に修行した葛城修験の聖地でもあります。現在はその足跡をたどる全19区間のモデルコースも設定されており、三国山は「10.七越峠から桧原越え」で通過します。
葛城修験の道には地中に経典を埋納した経塚が点在していますが、三国山の先にある経塚山(825m)の第十一経塚・見宝塔品は私有地です。立ち入っての参拝はせず、七越峠からの遥拝としてください。
コース情報【七越峠から桧原越え】
コースタイム:約5時間10分
歩行距離:11.1km
累計標高差(上り):897m
累計標高差(下り):847m
【愛媛・高知】仁淀川・吉野川・加茂川の分水嶺|岩黒山
四万十川と並ぶ四国の清流で、その水の色が“仁淀ブルー”ともよばれる仁淀川、四国最大の流域面積(3,750㎢)を誇る吉野川、アユやアマゴ釣りが盛んで瀬戸内海に注ぐ加茂川。
これら3河川の分水嶺となっているのが、岩黒山(いわぐろやま、1,746m)です。
岩黒山は、日本百名山の一座かつ四国・西日本最高峰の石鎚山(いしづちさん・1,972m)と対峙する位置にそびえており、山頂からもその山容を間近に望むことが可能です。登山口も、石鎚山への主要ルートのひとつである土小屋コースと同じです。
比較的短時間で登頂できるので、ゆとりのあるスケジュールであれば石鎚山への登山と併せて訪れる登山計画も可能です。
3河川の流域を実感しながら歩くのであれば、土小屋からの周回コースがおすすめです。岩黒山までは仁淀川・加茂川の分水嶺を、岩黒山から折り返しポイントの丸滝小屋までは仁淀川・吉野川の分水嶺となる稜線を歩きます。
下山後は、石鎚山の南麓にある国指定の名勝・面河渓(おもごけい)に立ち寄ってもよいでしょう。
石鎚山は仁淀川の源流で、その水が面河川(仁淀川の愛媛県側の呼称)としてこの渓谷に注いでいます。面河渓は四国最大の渓谷で、奇岩と渓流が織りなす四季折々の景色は見ものです。
コース情報【岩黒山 周回コース】
コースタイム:約2時間20分
歩行距離:3.5km
累計標高差(上り):368m
累計標高差(下り):368m
【福岡】遠賀川・今川・山国川の分水嶺|英彦山
筑豊地方を潤し、日本でサケが遡上する南限の河川でもある遠賀川(おんががわ)、河口部が釣りスポットとして人気の今川、九州有数の景勝地・耶馬溪を抱く山国川(やまくにがわ)。
これらの3河川の分水嶺となっているが、日本二百名山の一座・英彦山(ひこさん・1,199m)。山国川源流の山でもあります。
英彦山は修験道の聖地でもあり、複数の峰から構成されています。中腹に山伏の行場にふさわしい岩場・望雲台がある北岳(1,192m)、英彦山神宮上宮が祀られた中岳(1,188m)、そして最高峰かつ3河川の分水嶺となっている南岳(1,199m)。これらの峰々をめぐるさまざまなコースもあります。
これらの峰々や山中の社殿をめぐるのも英彦山の楽しみですが、長年の風雪や自然災害に2020年の台風が追い討ちをかけ、上宮は倒壊寸前になりました。2024年現在、新社殿を建設中の上宮がある中岳周辺を中心に、通行規制箇所が多数存在しています。
通過するのは遠賀川流域がメインとなりますが、銅の鳥居から石段を登って奉幣殿へ参拝し、玉屋神社・大南神社など山中の摂社を経て南岳をめざすルートがおすすめです。
コース情報【別所登山口-奉幣殿 往復コース】
コースタイム:約6時間
歩行距離:8.7km
累計標高差(上り):1050m
累計標高差(下り):1046m
【福岡・佐賀】筑後川・那珂川・室見川の分水嶺|脊振山
九州一の流域面積(2860㎢)を誇る筑後川、上流部にはホタルも舞う清流・室見川(むろみがわ)、福岡市内を流れ博多湾へ注ぐ那珂川。
これらの3河川の分水嶺となっているのが、日本三百名山の一座・脊振山(せふりさん・1,054m)です。
脊振山は弁財天が降臨した場所として、古くから山岳信仰の対象となってきました。中世には天台密教の行場として修験者が集う場所となり、山頂には弁財天を御神体とする脊振神社上宮が鎮座しています。
同じ山頂には航空自衛隊脊振山分屯基地のレーダードームもあり、修験道の歴史と現代的建造物が同居する、独特の景観を創り出しています。
山頂直下まで車でアクセスすることも可能ですが、室見川流域の椎原からの周回コースがおすすめです。矢筈峠からの稜線は室見川と筑後川の分水嶺、山頂直下では室見川と那珂川の分水嶺も通過します。
山頂はもちろん、下山途中にある唐人の舞(911m)からも福岡市街を一望することができますよ。
コース情報【矢筈峠-脊振山-唐人の舞-椎原峠-椎原峠登山口 周回コース】
コースタイム:約5時間
歩行距離:10.4km
累計標高差(上り):832m
累計標高差(下り):832m
流域地図で分水嶺を意識しよう
分水嶺で隔てられた流域は、現在の行政区分とは必ずしも一致しません。ただし山国でもある日本では、分水嶺を越えることで、自身が暮らす流域に隣接した別の流域(生活圏)を訪問することになる場合も多いです。
例えば、国内屈指の急勾配ゆえに日本有数の”酷道”として知られる暗峠(くらがりとうげ)は、大和川と旧淀川の分水嶺に位置しており、かつての河内国と大和国の境界線でした。分水嶺の存在を意識して越えれば、現代でも手軽なプチタイムトリップを楽しむことができます。
執筆=鷲尾 太輔(登山ガイド)
トップ画像=いわっさんさんの活動日記
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。山岳ライターとして、様々なメディアでルートガイドやギアレビューから山登り初心者向けのノウハウ記事まで様々なトピックを発信中。登山ガイドとしては、読図・応急手当・ロープワークなどの「安全登山」から、写真撮影・山岳信仰・アウトドアクッキングなど「登山+αの楽しみ」まで、幅広いテーマの講習会を開催しています。とはいえ登山以外では根っからのインドア派…普段は音楽・アニメ・映画鑑賞や、読書・料理・ギター演奏などに没頭しています。
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