投稿日 2023.07.23 更新日 2024.10.11

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登山用ガスバーナーの選び方|軽量おすすめ21モデルをガイドが比較【山登り初心者の基礎知識】

温かい山ごはんやコーヒーが楽しめる登山用バーナー。いろいろな燃料のタイプがありますが、火力調節がしやすく、最も使い勝手のよいのがガスバーナーです。登山ガイドの上田洋平さんが目的に合ったバーナーの選び方・使い方をお伝えするとともに、各ブランドのモデルの特徴を比較しました。

目次

バーナーのタイプで選ぶ

バーナーとは、ガスやガソリン、固体燃料、アルコールなどを燃焼させるための機器。登山で一般的に使われているバーナーのタイプには、ゴトクとガス缶が一体になっている「一体型」、ゴトクとガス缶が分かれている「分離型」の2種類が主にあります。

一体型


上の写真は、本体とガス缶を直に接続する「一体型」は、軽量・小型を求めるソロ登山向き。ガスの上にバーナーを直結させるレイアウトとなるため、大きなクッカーをのせるとやや安定感に欠けるのが難点です。

JETBOIL(ジェットボイル)やMSRに代表されるような、クッカーとバーナーが一体になったタイプもあります。

分離型

マイクロレギュレーターストーブフュージョントレック(YAMAP STORE

「分離型」はゴトクの位置が低いため、フライパンや複数人用のクッカーを乗せても安定性が高く、グループ登山で本格的な調理をする人向きです。一方で、一体型バーナーと比べると収納がかさばり、やや重くなってしまうのが難点。

ガスの種類で選ぶ

ガスバーナーにつなげて使うガス缶は、主に2種類。ここではそれぞれの違いを見ていきましょう。

OD缶

OD缶とは、OutDoor(アウトドア)缶の略称。高い内圧に耐えられる設計になっているため、寒さに強いプロパンガスを配合できる缶です。

夏でも、アルプスなどの標高の高い山や寒冷地での使用は、OD缶のほうが安定した火力を得られます。

メーカーによって標準用と寒冷地用の2種類のガスがラインナップされているため、使用する場所や、標高、季節によって使い分けるとよいでしょう。

OD缶の大きさはメーカーによって異なりますが、主に3サイズ。

・標準サイズ(一般的な大きさ、約250ml)
・大型サイズ(縦走など、大量にガスを使う場合、約500ml)
・小型サイズ(軽量化重視の場合、約110ml)

※実際の内容量はそれぞれ上記の数字より少ない場合があります。

一体型の場合、小型サイズのOD缶は安定性が低いため、スタビライザー(ガス缶を支える道具)で安定性をアップさせるとよいでしょう。

CB缶

SOTO パワーガス(YAMAP STORE)

CB缶は、Cassette Gas Bombe(カセットガスボンベ)缶の略称。鍋料理などのときに家庭で使うガスボンベに使われ、流通量が多いのでOD缶より安価。街中のスーパーやコンビニ、ホームセンターで購入でき、万が一忘れてしまったときや、持ってきた缶の内容量が少なくなっていたときに道中で入手しやすいという安心感があります。

ただし、一般的なCB缶のガスはプロパンを配合しないため、高所や寒冷地には向きません。無雪期の低山やオートキャンプに使うのに適しています。

性能での選び方と違い

バーナーの性能は何を重視するかで悩む点。火力(出力)、コンパクト性、重量の3つの視点から検討します。

火力

火力(出力)の目安としては、以下を参考にしてください。

・1〜2人で簡単な調理:2,000 kcal台
・3人以上:3,000 kcal以上

点火装置の有無も確認しておきたいポイント。

※点火装置が付いているモデルでも高所だと点火しづらくなるため、フリント式ライターやマイクロトーチなど、着火できる道具を持っていきましょう。

コンパクト性

登山に持っていくバーナーは、持ち運びを考えてなるべくコンパクトなものを選びましょう。小型のバーナーであれば、丸型のコッヘルの中にOD缶とともに収納できます。

重量

登山時の携行性を考える上で、バーナー本体の重量は特に欠かせない指標。最近は一体型タイプでは100g以下が当たり前になってきていますが、必要な火力(出力)とのバランスをみて決めましょう。

登山で使えるOD缶バーナーのおすすめ

高所や寒冷地での使用が想定されるため、登山で一般的に使うガス缶はOD缶です。
ここではOD缶に対応するバーナーを紹介します。

一覧表にしてバーナー性能を比較しましたので、製品選びの参考にしてください。

「PRIMUS(プリムス)」

プリムスは2022年に創業130年を迎えたスウェーデン発の燃焼器具ブランド。パラフィンを気化させることで煤(すす)の出ない画期的なストーブは、1911年の人類初となったアムンゼンの南極点到達にも携行されていました。今ではプリムス製品は世界120カ国・地域に輸出され、その質実剛健な気質は今も登山用ストーブに健在。執筆している登山ガイドの上田も愛用しています。

P-153 ウルトラバーナー

(写真提供:イワタニ・プリムス)

一体型でベストバランスを備えたモデル。3,600 kcalの高出力ながらも、116gと軽量でコンパクト。点火装置も付いているため、とても簡単に扱えます。

P-116 フェムトストーブII

(写真提供:イワタニ・プリムス提供)

プリムスのバーナーで最軽量のモデル。一体型・点火装置付きで、64gという驚きの軽さ。ソロ山行で活躍するモデルです。

P-156S ウルトラスパイダーストーブⅢ

(写真提供:イワタニ・プリムス)

分離型で重心が低いため、大型のクッカーにも対応できるタイプです。分離型にしては、重量が軽いのも特徴。2023年6月末、P-155Sのアップデート版として登場した製品です。

ホースと本体の接続部のスイベル機構を廃止したことにより、旧版に比べ使用時の安定感が高まりました。

「EPIgas」

EPIは「Euro Pleasure International」の頭文字。1960年代にロンドン北方の街で誕生しました。1970年代から日本の登山隊の数々の海外登攀を支え、冒険家・植村直己さんの遠征もサポート。1994年から日本国内での製造を開始。安全性と機能性に定評があり、多くのガイドにもクッカーとともに愛用されているブランドの一つです。

REVO-3700 

(写真提供:ユニバーサルトレーディング)

一体型で、EPIgasの最上位製品。本体重量111gと軽量でコンパクトながら、出力は3,700 kcal と高火力。

QUO STOVE

(写真提供:ユニバーサルトレーディング)

一体型のブランド最軽量モデル。本体重量は98gで、EPIgasでは最軽量です。

NEO STOVE

(写真提供:ユニバーサルトレーディング)

一体型のハイパワータイプ。本体重量は185gありますが、出力は4,000 kcalあります。

「JETBOIL(ジェットボイル)」

バーナーとクッカーを一体化させ、わずかな燃料で素早い沸騰と調理を可能としたパイオニア的存在。最先端技術を取り入れた商品開発に余念がなく、日本でも愛用者が増えています。

マイクロモ

(写真提供:モンベル)

レギュレーター付きソロモデル。-6℃まで安定した火力を発揮できるサーモレギュレーターを搭載しています。また、従来のJETBOIL製品ではできなかった火力調節もできます。

スタッシュ

(写真提供:モンベル)

JETBOIL製品の最軽量モデル。点火装置は付いていないものの、バーナーとクッカーを合わせて200gという驚異的な軽さです。

そのまま他社製のクッカーを使用することも可能なため、料理によって別のクッカーやフライパンを使用するなど、用途が広がります。

※他のJETBOIL製品では、付属のゴトクを装着することで他社製クッカーが使用できます。

フラッシュ

(写真提供:モンベル)

最速沸騰モデル。500mlの水を沸騰させるのに必要な時間はたったの100秒! 時間を無駄にせず、すぐに調理したい方へおすすめ。

ミニモ

(写真提供:モンベル)

クッカー形状が縦長のモデルが多いJETBOIL製品において、広口浅型モデルがこの「ミニモ」です。-6℃まで安定した火力を発揮できるサーモレギュレータを搭載しており、火加減も調節できるため、寒冷地や高所での高速沸騰からとろ火での調理まで、幅広く対応できます。

「Snow Peak」

金物の街、新潟・燕三条で生まれた国内を代表するアウトドアブランドの一つ。オートキャンプの印象が強い人もいるかもしれませんが、軽量コンパクトなバーナーは登山者の間でも人気です。

ギガパワーストーブ 地 

(写真提供:スノーピーク)

一体型。携帯性、重量、ゴトクの安定性、火力がベストバランスで設計されたモデル。1998年に発売されて以来のロングセラーで、発表当時の展示会ではミニチュアモデルと勘違いされたほどの小ささです。

ギガパワーマイクロマックスウルトラライト

(写真提供:スノーピーク)

一体型で56gとブランド最軽量モデル。ソロ登山にオススメです。3枚の板状ゴトクが風防の役割も兼ね、風のある山頂でも安定した火力で調理ができます。

「MSR(エムエスアール)」

米国ワシントン州シアトル生まれのアウトドア用品ブランド。MSRはMountain Safety Researchの略。軽量コンパクトなテント、調理器具はもちろん、MSRらしい、西海岸を感じさせるデザインのファンも多く存在します。

ウインドバーナーパーソナルストーブシステム

(写真提供:モチヅキ)

クッカー一体型のバーナーで、ラジエントバーナー機構を採用しているため燃焼効率が良く、少ない燃料で調理ができます。

ポケットロケット2

(写真提供:モチヅキ)

73gの小型・軽量の一体型バーナー。ファスト&ライトなソロ登山に適しています。アメリカ生まれのMSRらしい洗練されたデザインが印象的。

「SOTO(ソト)」

愛知県を拠点とする新富士バーナーが、工業用のバーナーで培った技術を武器に立ち上げたアウトドアブランド。低温下での安定した火力など、その機能性は他メーカーと一線を画し、有名な山のお昼の山頂や休憩場所では必ず見かけるほど、多くの登山者に支持されています。

マイクロレギュレーターストーブ SOD-300S

(写真提供:新富士バーナー)

マイクロレギュレーターにより、-5度の低温下でも安定した火力を得られる、軽量・コンパクトモデルです。

マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター SOD-310

マイクロレギュレーターストーブ ウインドマスター SOD-310 (YAMAP STORE

SOTO製の最軽量バーナー(3本ゴトク使用時)。バーナーヘッドのふちをリング状に立ち上げることにより、耐風性能が向上したモデルです。マイクロレギュレーターにより、-5度の低温下でも、安定した火力を得られます。

マイクロレギュレーターストーブ FUSION Trek SOD-331

マイクロレギュレーターストーブフュージョントレック(YAMAP STORE)

分離タイプのため、大人数で大型のコッヘルやフライパンで調理する際に適しています。バーナーヘッドのふちをリング状に立ち上げることにより、耐風性能が向上したモデルです。点火装置は付いていないため、ライターなどでの点火が必要です。

登山で使えるCB缶バーナーのおすすめ

先にも述べた通り、一般的なCB缶のガスはプロパンを配合していないため高所や寒冷地には向きませんが、無雪期の低山やキャンプに使うことは可能です。

「SOTO(ソト)」

レギュレーターストーブ ST-310

レギュレーターストーブ ST-310(YAMAP STORE

コンビニ等でも入手ができるCB缶を使った一体型タイプのバーナー。

CB缶の弱点は寒冷地での火力低下ですが、マイクロレギュレーターが搭載されているため、安定した火力が得られます。

専用のミニキッチンテーブル「ミニマルワークトップ」(別売り)と合体させれば、キャンプで使えるミニキッチンに早変わり!登山、キャンプの両方に活躍できるモデルです。

レギュレーターストーブ レンジ ST-340

(写真提供:新富士バーナー)

ST-310と同じくマイクロレギュレーターが搭載されているため、-5℃までの寒冷地でも安定した火力が得られます。また、φ66mmの大型火口のため、クッカーの底面を広範囲でムラ無く加熱できます。

「FORE WINDS」

カセットガスで知らない人はないイワタニのアウトドアラインナップ。2021年にリニューアルし、機能性と耐久性を受け継ぎながら、スマートで快適なデザインの商品を多く出し、アウトドア界でも存在感を高めています。

FORE WINDS コンパクトキャンプストーブ FW-CS01-JP

(写真提供:岩谷産業)

カセットこんろ用ガス缶を製造しているイワタニ製のCB缶用バーナー。風防兼用ゴトクで風に強い設計になっています。

FORE WINDS マイクロキャンプストーブ FW-MS01

(写真提供:岩谷産業)

GOOD DESIGN AWARD 2021を獲得したスタイリッシュなデザインのバーナー。CB缶用バーナーでは最軽量の部類に入るため、重さが気になる登山者も積極的に山へ持っていけそうです。

準備段階で注意すべきこと

登山中のバーナー使用を予定する場合、登山の準備段階で確認しておくべきことがあります。ガスや火を扱うだけに、うっかりすると重大事故につながる恐れがあるため、以下の点をしっかりと確認しておいてください。

ガスの残量確認

OD缶の残量確認は計りがあれば簡単にできる(PIXTA)


ガス缶を新品の状態で実測重量を測っておきます。そしてガス缶メーカーのサイトでガスの重量をチェックすれば、ガス缶(容器)の重量が分かります。

実測するのが困難な場合、プリムス製OD缶の空き容器の重量を以下に記載しますので参考にして下さい。

110サイズ(小型):100g
250サイズ(中型):150g
500サイズ(大型):200g
※メーカーにより若干異なるため、あくまで概算です。

以下の式から残りどれくらいのガスが残っているか推察できます。
実測重量(ガス+缶)ー 空き容器重量 = 残りのガス重量

着火できる道具を持っていく

気圧が低くなる高山では、バーナーの点火装置がきちんと作動しないことがあります。点火装置内蔵タイプのバーナーを持っていく際も、以下のような着火できる道具を念のため持っていくとよいでしょう。

・フリント式ライター(電子式ライターは高所では着火しないため)
・ファイアスターター(着火棒)

ガスバーナーとガス缶は同じメーカーを

バーナーとガスカートリッジが異なるメーカー品を使用すると、ガス混合比の違いによって酸素が不足して不完全燃焼となり、一酸化炭素が発生する場合があります。

一酸化炭素中毒は脳機能障害などの後遺症や意識障害を引き起こし、最悪の場合は死亡事故につながることも。

ネジ山のピッチの違いによりガス漏れが発生し、爆発、火災、怪我、重度のやけどの危険があるので、細心の注意が必要です。

「PSLPGマーク」がついている製品を買う

「PSLPGマーク」とは、国に登録された第三者機関による検査をクリアし、ガス器具の安全基準に適合していることを証明するマーク。国内では、このマークの表示が義務付けられ、ないものは違法です。近年、この「PSLPGマーク」を取得していない輸入品がインターネット通販を中心に流通し、問題視されています。

最低限の安全を確保するためにも、「PSLPGマーク」のないバーナーは買わないようにしてください。PSLPGマークがついていても、使う前の劣化の確認や正しくガス器具の扱い方をしなければ、100%安全とはいえません。

登山用バーナーを使って登山を楽しもう

バーナーを使ってまずは簡単にお湯だけで作れるメニュー(カップラーメンやインスタントコーヒーなど)からトライし、慣れてきたら、山ごはん作りも楽しんでみてはいかがでしょうか。山の楽しみがまたひとつ増えますよ。

執筆協力・写真提供:上田洋平(登山ガイド)

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