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『ヤマノススメ Next Summit』第8話を登山ガイドが解説|御岳山・赤城山編
2022年10月4日よりアニメ最新作となる「Next Summit」シリーズが放送中の、女の子だけのゆるふわアウトドアアニメ『ヤマノススメ』。今回は、11月22日に放映された第8話を振り返りながら、アニメの舞台となった御岳山・赤城山や様々な山の楽しみ方を、ヤマノススメの大ファンである山岳ライター鷲尾太輔さんが紹介します。
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目次
『ヤマノススメ』登場キャラクターの魅力とは
それぞれのスタイルで山と向き合う少女たち
『ヤマノススメ』の魅力は様々ですが、各キャラクターが“自分らしい”スタイルで山と向き合っている点もそのひとつ。それぞれのスタイルや志向に共感したファンが、それぞれのキャラクターの推しになっているのではないでしょうか。
例えば最年少(中学2年生)キャラクターの青羽ここなが、主人公の雪村あおいと倉上ひなたに高尾山(599m)で出会ったのも、動物好きのここながモモンガを探していたことがきっかけでした(単行本第1巻・八合目『森の中に森ガール!?』)。
カメラのファインダー越しに山と向き合うほのか
ここなに次ぐ年少(中学3年生)キャラクターの黒崎ほのかは、趣味である風景写真撮影のモチーフを探して訪れた谷川岳(1,977m)で、あおいに声をかけられて山仲間に加わりました(単行本第4巻・三十一合目『出会いの予感』)。
普段はあおいたちの地元・埼玉県飯能市から離れた群馬県高崎市に住んでいるため、登場シーンは少なめですが、第8話では前半・後半ともに登場。今回はほのかの視点も交えながら、様々な山の楽しみ方を紹介します。
第8話「パワースポットでバレンタイン?」の舞台・御岳山
パワースポットよりここなが気になるほのか
中学3年生ということで、受験勉強も佳境を迎えていたほのか。あおいから「パワースポットで有名な山があるの!」と、奥多摩にある御岳山(929m)への登山に誘われます。当初は勉強などで忙しいことを理由に断ろうとするほのかですが、あおいから「ここなちゃんも来るんだけどな」と言われると、即座に「行く」と返答します。
受験勉強に煮詰まった時は、部屋に飾ってある写真立てを見つめるほのか。そこには群馬県にあるロックハート城でここなが撮影したあおい・ひなたとの記念写真(アニメサードシーズン第5話で訪問)が収められているのです。ほのかは、何回も見返すこの写真を撮ったここなの感性に“不思議な温かさ”を感じていました。
兄・大樹の運転する車でひと足先に御岳登山鉄道(ケーブルカー)の滝本駅に到着したほのか。そこにひなた・あおい・ここなが合流します。ケーブルカーの車内で、ほのかとここなを2人きりにするためにひなたがあおいを引き取るシーンは、アニメでより印象的に描写されていましたね。
パワースポットとしての山を楽しむ日本独自の文化
そもそもこの御岳山への登山は、バレンタインも近いことから「ご利益ゲットしに行こうよ!」というあおいの発案から始まりました。いかにも女子高生らしい発想ですが、実はこれが日本人ならではの考え方。山はもちろん、そこにある岩・木・滝など様々なものに神様を見出して、ご利益や時に畏怖の念を感じる“八百万(やおろず)の神”という視点は、日本古来の文化なのです。
山の神仏に参拝するための登山は“登拝”と呼ばれ、日本百名山完登のようにピークハントを目的とする登山よりも遥か以前から、日本人はこのスタイルで山に登ってきました。このため日本には、山中や山麓に寺社仏閣や祠・石仏などがある山が多いのが特徴。ほのかの地元・群馬のシーンでよく登場する鳥居も、第8話後半で登場する赤城山の赤城神社の入口にあたる大鳥居がモチーフになっています。
実はあおいはもともとパワースポットめぐりが好き。ここなと出会った高尾山でも「これで今年の私の運勢もウナギ上りよ!」と薬王院をはじめとした山中に点在するパワースポットをお目当てに出かけたのでした(単行本第1巻・七合目『高尾山に登ろう!』)。
ほのかがパワースポットのチカラを実感
アニメでは産安社・夫婦杉・宿坊・神代ケヤキなど原作(単行本第10巻・七十合目『ほのかのバレンタイン』)どおりの場所で、願い小札に願いごとを書き込むシーンや、ここながほのかを誘って夫婦杉の男杉・女杉の間を抜けるシーンが忠実に描写されていました。
「ほのかちゃんとここなちゃんがもっと仲良くなれますように!!!」と願い札に書いたひなたと「私も同じこと書こうかな」と心の中で考えるあおい、年少者のふたりへの優しい心づかいが微笑ましいひとコマでしたね。
ほのかがひときわ心を奪われたのが神代ケヤキ、推定樹齢1000年という古木です。「すごい何かを感じる、心から写真に撮りたいって思わせるような」と思わずシャッターを切ります。ここでパワースポットを信じるという感覚を実感したほのかですが、これこそが路傍の樹木にも神を見出す“八百万(やおろず)の神”信仰が受け継がれてきた日本人ならではの感情ではないでしょうか。
アニメオリジナルの描写として、御岳山の山頂にある武蔵御嶽神社へ参拝する場面も描かれています。朱塗りの幣殿・拝殿や学問の神様・菅原道真公を祀る北野社、そして奥の院峰(1,077m)を望む奥宮遥拝所まで……聖地巡礼の際にはぜひ訪れてみてください。
山頂へ行く登拝がかなわない時は、あおぎ見る遥拝だけでもご利益があるもの。ほのかも「見てるだけで、何だか力をもらえる気がする」と語っていましたね。まだアニメ化はされていませんが、彼女たちの先輩である斎藤楓や千手院小春が大学合格祈願のために訪れた三峯神社(単行本第14巻・九十九合目『合格祈願に行こう!』)にも、奥宮がある妙法ヶ岳(1,326m)の遥拝所がありますよ。健脚な楓たちは、もちろん遥拝だけでなく妙法ヶ岳に登拝もしましたが。
パワースポット満喫のススメ
御岳山から日の出山(902m)まで足を延ばした4人。山頂ではあおいがサプライズで持参したホットチョコや、アニメオリジナルのオレンジピールを味わいます。この登山を通じてさらに距離を縮めたほのかとここな、その姿を見ながら「ほのかちゃんたちにはご利益があったみたいだね」と微笑むひなた。あおいも「山にパワーをもらった、女の子だけのバレンタインでした」と1日を振り返ります。
『ヤマノススメ』では日帰りだった御岳山ですが、作中に登場した宿坊に泊まるのもおすすめ。山中にある綾広の滝や七代の滝に打たれる滝行も体験できるので、さらに山のパワーを満喫することができます。
神奈川県・丹沢山塊にある大山(1,252m)も、中腹にある大山阿夫利神社へ参拝する人々のための宿坊が今も山麓に立ち並ぶパワースポット。関西エリアであれば、高野山や吉野山でも宿坊に泊まって登拝することができますよ。
『ヤマノススメ Next Summit』第5話で登場した武甲山(1,304m)、『ヤマノススメ サードシーズン』第3話で登場した子ノ権現(640m)、第6話で登場した関八州見晴台(771m)、第11・12話で登場した金峰山(2,599m)なども、パワースポットの視点で登ると奥行きがぐっと深まります。山やその自然が発する「氣」を全身で感じるパワースポットめぐり、聖地巡礼も兼ねて体験してみませんか。
第8話「スノーシューにチャレンジ」の舞台・赤城山
スノーシューってなあに?
ある日、あおいとここなは登山部の部長である小春から、部室へ呼び出されます。そこで小春が披露したのが、部室を整理していたら出てきたというスノーシューです。原作(単行本第9巻・六十四合目『スノーシューってなあに?』)では、2人は第7話でも登場した白い象がいる「般若山 長寿院 観音寺」の境内に呼び出され、小春が物陰からあおいの頬に冷たいスノーシューをいきなりくっ付けてのサプライズ登場でしたね。
スノーシューとは小春の説明の通り「足に浮力を加えて、雪の上をラクに歩けるように作られたアイテム」です。これを履くことで、フカフカの雪面であっても雪の中にズボズボとハマることなく歩くことができます。柔らかすぎる雪面に足を取られてもバランスを崩さぬよう、2本のトレッキングポールを持って歩くのが基本です。
作中でも“西洋版かんじき”と紹介されていた通り、日本にもかんじき(輪かんじき)というほぼ同じ原理のアイテムがあり、古くからマタギ(狩猟者)などに使用されてきました。アイゼン(滑り止め)と一緒に装着できるため、こちらを愛用している登山者も多く存在します。
いざ赤城山へ!しかし…まさかの雪不足
スノーシューは、斜面が凍結しておらず斜度もゆるやかな積雪量の多い山向け。日本では北海道・東北・信越などの冬山で使用されるケースが多いアイテムです。埼玉からこれらは遠いため、近場で雪がありそうな群馬県の赤城山を目的地に提案する小春。地元在住のほのかも誘って4人で登山口に到着しましたが、目の前に広がっていたのは雪が一部しか残っていない登山道でした。
赤城山は最高峰・黒檜山(1,827m)を筆頭に、アニメサードシーズン第8・9話&原作(単行本第5巻・三十五合目『雨の日の忘れもの』)でひなたとここなが登った地蔵岳(1,673m)や、鍋割山(1,332m)・駒ヶ岳(1,679m)など十数座の山々から成る連山。中央にある火口湖・大沼(おおぬま・おの)は、4人の運転手となったほのかの兄・大樹が待っている間「ワカサギ釣ってっから」という通り、厳冬期は全面結氷します。
これほどの低温になることから、本来の冬であれば木々を彩る霧氷なども鑑賞することもできる赤城山。ただしそこに至る群馬県道4号線はヘアピンカーブが連続する山道で凍結することもしばしばで、スリップ事故が多発しています。地元ドライバーである大樹ならともかく、雪道の運転に慣れていないファンの方は、JR前橋駅からのバスを利用した方が安心ですよ。
小春のバラクラバ姿に萌えるほのか
あおい・ひなた・ほのかが心の中で「思ってたのと違う」と口を揃えた通り、スノーシューが必要なほどの積雪がない登山道を進む4人。小春は必死にその魅力を語りますが、現実に広がる風景とのギャップは広がるばかり。しかし意外な場面で、ほのかの“写欲”がかき立てられます。
途中の展望ポイントで、不意に強風に見舞われた4人。あおい・ひなた・ほのかはすかさずウェアのフードを装着しますが、小春はひとりバラクラバ(目出し帽)を被ります。身長143cmとミニマムサイズの小春がバラクラバを被った姿を、ひなたがアニメキャラに例えて笑う様子や、ほのかが「何か、小さくてかわいい」とつぶやき写真を撮らせてくれるよう頼むシーンが、原作通りに描写されていましたね。
小春が熱弁していたように、気温が低く風が強い本格的な冬山では必須装備のバラクラバ。耳・頬・鼻・唇など顔が凍傷になるのを防いでくれます。左の人(筆者)はバラクラバの下半分だけを被っていて、耳や額が保護できていない状態なのでNG。右の人のようにニット帽やジャケットのフードと組み合わせると、小春のようなイメージになるのを避けることができますよ。
アニメオリジナルのルート&下山グルメ
原作では地蔵岳に登りましたが、アニメでは小沼を挟んで対岸の長七郎山(1,578m)に登頂した4人。下山中には凍結していないフカフカの雪が残っている斜面もあり、スノーシュー本来の魅力も体験することができたのです。
下山後には大樹が昼食をご馳走してくれました。大樹が「ここの定食は絶品っしょ!」と太鼓判を押す赤城山名物のワカサギ定食を提供してくれるのは、大沼のほとりにある青木旅館に併設のレストラン沼尻(のしり)です。
明治8年創業という歴史を誇る青木旅館。筆者も宿泊したことがありますが、料理はもちろんのこと、レトロな建物とピカピカに磨き込まれた床が印象的でした。宿泊者には登山者向けのおにぎり弁当なども用意してくれるので、遠方からの聖地巡礼の際に立ち寄ってみてはいかがでしょう。
スノーシューのススメ
今回あおいたちが体験したスノーシューは、登山初心者の冬の楽しみにもおすすめ。アイゼン・ピッケルなどの本格的な装備とそれを扱う技術が必要な雪山登山と違い、防寒・防水を考慮したウェア・手袋・帽子・靴があれば楽しむことが可能です。アップダウンが少なく汗冷えする心配がないコースであれば、スキー・スノボウェアでもOK。
スノーシュー自体は高価でかさばるため即購入はためらうかも知れませんが、レンタルサービスやさらにガイドが同行して解説もしてくれるツアーも各地で実施されています。
スノーシューの大きな魅力は、冬しか歩けない場所にも行けること。4人が歩いたような凍った湖沼の上だけでなく、夏はヤブに覆われて立ち入ることのできない森の中も自由に歩くことが可能です。周囲の木々のかわいらしい冬芽や、雪面に続く野生動物の足跡など、心温まる発見があるかも知れません。
安全な斜面であれば、スノーシューを履いた足を大きく上げてお尻で滑降する“滑り台”体験も可能。どちらかというとストイックな側面が強い雪山登山に比べて楽しく遊べる要素が大きく、『ヤマノススメ』の登場キャラクターより年少の子どもと一緒でも、素敵な冬山の1日を過ごすことができるアイテムです。
2022年〜2023年シーズンの冬はラニーニャ現象の影響で、例年よりも雪が多い予想です。スノーシューを履いて冬ならではの雪景色も楽しみながら、聖地巡礼に出かけてみてはいかがでしょう。
それではまた次回、第9話もお見逃しなく!
山を歩くなら、登山地図GPSアプリYAMAP
YAMAPは電波が届かない山の中でも、自分の現在地とルートがわかる登山GPS地図アプリ。登りたい山を見つけたり、山の友だちをつくったり、初心者から上級者まで楽しめるコンテンツを楽しんだり、山歩きに関するあらゆることが詰まっている、日本最大の登山・アウトドアプラットフォームです。(2022年11月時点で340万ダウンロード)
YAMAPの「ヤマノススメ巡礼マップ」も活用を!
YAMAPでは、過去のアニメ(サードシーズン)に登場した山をアニメのストーリーに沿って歩ける「ヤマノススメ巡礼マップ」もリリースしています。楽しく安全な聖地巡礼登山のパートナーとして、ぜひ活用してください。
ヤマノススメ巡礼マップ(筑波山)
ヤマノススメ巡礼マップ(天覚山・大高山・子の権現)
ヤマノススメ巡礼マップ(赤城山・地蔵岳)
ヤマノススメ巡礼マップ(瑞牆山・金峰山)
『ヤマノススメ Next Summit』放送・配信情報
TOKYO MX:毎週火曜日24:30~
MBS:毎週火曜日26:30~
BS11:毎週火曜日24:30~
ABEMA:毎週火曜日24:00~
ほか、各種配信サービスにて順次配信中
©しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ Next Summit』製作委員会
山岳ライター・登山ガイド
鷲尾 太輔
登山の総合プロダクション・Allein Adler代表。山岳ライターとして、様々なメディアでルートガイドやギアレビューから山登り初心者向けのノウハウ記事まで様々なトピックを発信中。登山ガイドとしては、読図・応急手当・ロープワークなどの「安全登山」から、写真撮影・山岳信仰・アウトドアクッキングなど「登山+αの楽しみ」まで、幅広いテーマの講習会を開催しています。とはいえ登山以外では根っからのインドア派…普段は音楽・アニメ・映画鑑賞や、読書・料理・ギター演奏などに没頭しています。
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