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山道具お手入れの基本とポイント。登山靴、ザック、雨具などアイテム別に伝授
登山に使うウェア&ギア、定期的にお手入れしていますか? 正しくお手入れすることで山道具は長持ちします。登山靴、バックパック(ザック)、レインウェア(雨具)。山登りの必須アイテム「三種の神器」は、どんな点に注意してお手入れするのが正解なのでしょうか。登山ガイドの岩田京子さんに山道具のアイテム別メンテナンス術をお聞きしました。
山道具の教科書|登山初心者必見の「服装&持ち物」完全マニュアル #08/連載一覧はこちら
目次
山道具お手入れの基本は「汚れ落とし」と「乾燥」にあり!
普段、街で着ている洋服は毎日洗濯して乾かすのが当たり前ですよね。山道具のお手入れも考え方は同じです。登山靴もバックパック(ザック)もレインウェア(雨具)も、使ったら都度、汚れを落とし、しっかりと乾燥させる。これがメンテナンスの基本となります。
山道具のメンテナンスは「登山技術のひとつ」と言ってもいいと思います。正しくお手入れすることで性能を保ちながら長く使い続けることができますし、メンテナンスを通じて道具への理解を深めたり、お手入れと同時に破損や不具合がないかを確認することで、次回の登山準備も兼ねることができるのです。
登山靴のお手入れ方法
登山靴の汚れは泥だけではない
山行後の登山靴は、泥だけでなく汗でも汚れています。汗をかくのは体だけではありません。靴を脱いだときに湯気が出ることもあるくらい、足の裏もしっかりと汗をかいているのです。たとえ靴下が乾いていたとしても、靴の中には湿気が多く残っていることもあるでしょう。登山靴の中の湿気に気づかず放置してしまうと、カビや臭いの原因となりますから軽視は禁物です。
湿気は大敵!「脱いだら乾燥させる」が基本です
登山靴のメンテナンスは、とにもかくにも「乾燥」が大事! 自宅でも山小屋でも、靴を脱いだらインソールを外して靴の中を乾燥させることです。これだけでも靴の中の匂いがかなり軽減されますよ。
汚れ放置も機能低下の原因に…
湿気の他に登山靴の大敵となるのが「汚れ」です。泥は見た目にもわかりやすいのですが、砂埃などの細かい汚れは見落としがち。こういった汚れが残った状態のままだと、劣化が早まり、防水機能などにも影響が出てきます。汚れを長いこと放置すると、それだけ落とすのが大変になるので、下山後はできるだけ早めのメンテナンスを心がけましょう。
外側の汚れは布でふき取ります。汚れを落としにくい場合は、柔らかめのブラシを使用しましょう。靴の中は乾燥させるのみで、水を入れて洗ったりはしません。
保管場所や「劣化の兆し」にも気をつける
汚れを取り除いた後は水分を拭いてしっかり乾燥させます。しばらく使わない場合は、できるだけ風通しの良い環境をつくった上で下駄箱などに入れて保管しておきましょう。大事に箱に収納して押し入れの奥底などにしまいこんでいようものなら、湿気が溜まって劣化を招いてしまいます。
ちなみに登山靴は購入してからではなく、製造してから3年後くらいから劣化が始まり、寿命は4~5年程度と言われています。使う頻度にもよりますが、メンテナンスの際にはソールの剥がれやすり減りがないかなど「劣化の兆し」がないかも合わせて確認しておくといいでしょう。山行中、登山靴にトラブルがあっては大変ですからね!
バックパック(ザック)のお手入れ方法
汚れと湿気をしっかり除去!
休憩など地面に置くこともままあるバックパックは思いの外、汚れています。砂埃や雨、汗などによる様々な汚れに加え、湿気がこもっていることも。
バックパックについた汚れは、目立つところから濡れた布などで拭き取っていきます。硬いブラシで擦ってしまうと生地を傷める原因になるので気をつけましょう。
背面部分やウェストベルト、ショルダ-ベルトなどクッション(パッド)がある場所は、汗がしみて匂いを発していることもありますから、除菌効果のあるスプレーをかけて、日陰で乾燥させるとよいでしょう。
しつこい臭いには丸洗いも有効
バックパックの中が汚れていたり、数カ所ではなく全体的に汚れが気になる場合は、風呂場や洗面所で丸洗いしてしまうのも手です。これ、私も行う方法なのですが、汚れも汗も一気に落とせるのでおすすめです。注意点としては、丸洗いの後でしっかりと乾燥させること。これをおろそかにするとカビが生えたり、生地が傷みやすくなります。
ザックカバーも同じ要領で
ザックカバーも、バックパック同様、汚れ落としと乾燥を心がけましょう。撥水加工が弱まっている状態ではバックパックの生地に雨が染みたり、カバーの下部に雨水がたまりやすくなるため、乾燥させた後は撥水スプレーで保護しておくことをおすすめします。撥水機能の回復に加えて、汚れも付きにくくなります。
レインウェア(雨具)のお手入れ方法
洗わないのはNG! 見えない汚れを放置すると機能が低下…
私が担当する登山ツアーでも、特に雨天時の帰り道によく聞かれるのが、「レインウェアは洗ってもいいものですか?」という質問ですが…
もちろん答えは「ぜひ洗いましょう!」です。
登山中に着用したレインウェアは汗や皮脂、泥や雨、埃などで汚れています。これらは見た目にはわかりにくいのですが、汚れを取り除かないまま使い続けると、防水や撥水機能が充分に発揮されなくなってしまいます。
レインウェア、汚れ落としのコツと注意点
① 「ブラシで汚れ落とし」は洗濯前のエチケット
まず、特に目立つ汚れがある場合は濡らした布などで拭きとります。ズボン(トレッキングパンツ)の裾などに見られる土埃や泥の頑固な汚れは、柔らかめの歯ブラシに洗剤をつけて軽く擦るといいでしょう。泡が茶色くなるほど汚れがとれますよ。この方が、いきなり洗濯機に入れるより効果的です。
② 洗濯ネットに入れる
汚れを落としたら、手洗いもしくはネットに入れて洗濯機で洗いましょう。その際、必ずファスナーを締めておくこと。また、ネットに入れずに洗濯機を回すとレインウェアに絡まった水分がもとになり、強い遠心力が生れ、洗濯機が壊れてしまうこともあるので注意しましょう。
③ 柔軟剤はNG!
洗剤は雨具専用の洗剤や柔軟剤が入っていない中性洗剤を使うのがおすすめです。登山ウェアのメンテナンス項目でも後述しますが、柔軟剤はレインウェアに限らず機能低下を招きますので、気をつけてください。
洗濯を終えた後はよくすすぎ、脱水はかけずに水分をタオルなどでふき取り、日陰の風通しの良い場所で乾燥させます。
洗濯後は「熱」を加えて、撥水機能を回復!
汚れを落として洗濯したらレインウェアのメンテナンスはおしまい、と言いたいところですが、じつはこの後の「熱を加える」という作業がとっても重要! 具体的には、乾燥機を使う、あて布をしてアイロンをするなどの方法で熱を加えて仕上げます。
この加熱作業をやるとやらないとでは撥水機能の回復具合いが全然違ってきます。というのも、熱を加えると、登山中の使用や洗濯によってペタッと寝てしまった生地表面の繊維が再び起毛し、水滴をしっかり弾くようになるのです。つまり熱を加えるというのは、撥水機能の回復を促すための作業なのです。
生地表面の撥水機能を失うと水の膜に覆われて水蒸気を通さなくなり、内側では蒸れが発生してしまいますから、レインウェアにおける撥水機能の回復は死活問題とも言えます。一連の作業が終わったら撥水スプレーを吹き掛ければレインウェアのメンテナンスは完璧です。
「折りたたんだまま保管」はイケてない収納方法
なお、レインウェアを山行中に一度も使用しなかったとしても、自宅に戻ったら必ず乾燥作業をしましょう。バックパックに入れて持ち運んでいるうちに思いのほか湿気を含んでいるためです。収納袋から出してハンガーにかけて、乾燥させるだけ。乾燥させた後もしばらく使わない時は畳んだままにせず、ハンガーなどにかけて保管をし、生地を休ませてあげるのも大事です。折り畳んだままにしていると折れている部分が痛んでしまうことも多いので保管にも気を配りたいですね。
登山ウェアのお手入れ方法
レインウェア同様「〇〇洗剤」を使うのはNG行為です
登山ウェアの洗濯には、おしゃれ着洗いなどによく使われている「中性洗剤」や、一部メーカーから販売されている「登山ウェア専用洗剤」の使用をおすすめします。なぜなら、登山用ウェアは吸水速乾性機能を備えたタイプが一般的です。普段着を洗濯するときのように柔軟剤を使うと、この吸水速乾性機能にダメージを与えてしまうため、柔軟剤は使わない方が安心です。レインウェア同様、登山ウェアの洗濯に柔軟剤を使うのはやめましょう。
洗い方は手洗いでも、洗濯機でもOK。フロントやポケット部分のジッパーはしっかりと閉めた状態で洗いましょう。
「洗っても乾くと臭う…」臭い戻りを解決するには?
それからもう一つ。日帰り登山など使ってからすぐに洗うことのできる場合は問題ないのですが、中長期山行をするとなると、何日間も汗を吸ったウェアを持ち歩き、下山後にまとめて洗濯することになります。乾燥していると気づきにくいのですが、汗を吸ったまま保管していたウェアには雑菌が繁殖しています。また、一度洗濯して汚れは落ちているように見えても、乾くとまた臭いが戻ってしまうこともあります。
そんなしつこい「臭い戻り」には「つけ置き洗い」がおすすめです。私が使っているのは「オスバン」という殺菌消毒剤。薬局で購入できるもので、病院で雑菌消毒に使われているそうです。洗っているのになんだか臭いが気になる、というときにはぜひ試してみてくださいね。
正しくこまめなメンテナンスで山道具を愛用しよう
登山靴、登山用ウェア、レインウェア、バックパック…。これらのメンテナンスすべてに言えることですが、「汚れ落とし」と「乾燥」がとにかく大事です。ぜひこの2つのワードは覚えておいて、正しいお手入れで山道具を長く大切に愛用してくださいね。
なお、メンテナンスの方法はそれぞれ道具によっても違いますので、それぞれ取り扱い説明書や洗濯表示などを確認してください。正しいやり方をしなければ機能性が失われてしまうこともあるのでご注意を。
登山ガイド
岩田 京子
1976年、横浜市生まれ。日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド。 MTB、スノーボード、キャンプ、フィッシング、マラソン、野外フェスなど、さまざまなアウトドアイベントの制作に携わり、外あそびの楽しさを広めてきた実績を持つ。現在はフリーランスで、国内では山のガイド、海外ではツアー登山やトレッキングの添乗をしている。海外添乗の仕事では高所登山にも携わり、キリマンジャロ、エルブルース、チンボラソなど。プライベートでは8000m峰のチョーオユー、マナスル、エベレスト、ローツェと4座の登頂。
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