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登山観が変わるかも。YAMAP代表が選ぶ今読みたい山の本3冊
「山好きたちの山の本」と題し、登山業界内外の山好きたちに”推しの一冊を聞く”当コーナー。記念すべき第一回目を担当いただくのは、YAMAP代表の春山慶彦さん。自然観や山との向き合い方を教えてくれる名著を教えていただきました。
山好きたちの山の本 #01/連載一覧はこちら
目次
おすすめの山の本、教えてください! 今回の山好きさんは?
春山慶彦(はるやま・よしひこ)
株式会社ヤマップ代表取締役。1980年生まれ、福岡県出身。同志社大学卒業後、アラスカ大学野生動物管理学部へ進み、帰国後には知る人ぞ知るグラフィック誌『風の旅人』編集部に勤務。2013年、日本の自然・風土の豊かさを再発見する”仕組み”をテクノロジーでつくりたいという思いから、故郷の福岡でヤマップを創業。
運命の人・星野道夫
ー春山さんが”推しの一冊”として挙げたのは、星野道夫さんの『旅をする木』。星野さんがアラスカで生活する中で、出逢った人々や自然、風景を、やさしく深い眼差しで綴ったエッセイです。
星野道夫『旅をする木』
春山:私の自然観は、たぶんに星野道夫さんの影響を受けています。山や自然に目覚めた二十歳の頃、山の師匠から勧められて道夫さんの遺作『森と氷河と鯨』を読みました。衝撃でした。それ以降、とりつかれたように道夫さんの著書を読み漁りました。
道夫さんの著作に出逢ってから一年後には、アラスカ行きを決めていました。これほどまでに自分の命が震えるような経験ははじめてでした。自分の眼と身体で、アラスカを経験しなければ次に進めない、人生に悔いを残すと感じたんです。
このコーナーは本の紹介になるので詳細は割愛しますが、YAMAPの着想の原点は、イヌイットの方たちと一緒に行ったアザラシ猟の体験です。道夫さんの著作に出逢ってなければ、私がアラスカへ行くことはなかっただろうし、アラスカへ行ってなければYAMAPも生まれなかった。いろんなご縁をいただくきっかけになった”出発の本”が、道夫さんの本でした。
『旅をする木』には三十三編の話が収録されています。山が好きな人、これから山をはじめる人、自然が好きな人に読んでほしい未来の古典です。
自然について考えるとき、示唆に富む本
ー「こちらもおすすめです」と教えてくれたのが、小説と作品集の二冊。毛色は異なりますが、自然とどう向き合うかを考える上で、春山さんの中では共通しているようです。
池澤夏樹『真昼のプリニウス』
春山:この本は、人によっていろんな読み方ができますが、私にとっては、山を含めた世界(自然)との向き合い方を教えてくれた大切な本です。
物語の中で、天明三年(西暦1783年)浅間山大噴火を経験した女性・ハツ女さんの体験記が紹介されています。当時の人々が山をどう見ていたのか、山はどういう存在だったのか、またこの時の浅間山の噴火がいかに大規模であったかを知ることができます。火山の噴火という人間にはコントロールできない自然の営みに翻弄されながら、いかに命をつないでいくか。読みながら、非常時において「命は紙一重」であることを再認識しました。
山と感染症。領域は違うけれど、新型コロナウイルスという”目に見えない自然”の驚異に人類がさらされている今、読むにふさわしい本だと思いピックアップしました。
舟越桂作品集『立ちつくす山』
春山:尊敬する作家のお一人、舟越桂さんの作品集です。この作品集の下記の一節が印象に残っています。
あの山は、私の中に入る。そう思った日があった。
人は山ほどに大きな存在なのだという思いが、突然にやって来た。
山を把握する人たちがいるのだろう。
砂漠を捉える人や、水中を任された人もいる。
スピードや42.195kmという距離、重さや傾斜、
それらを把握するとは、人間とはなんと大きいのだろう。
人は、少なくとも人の想像力とは、無限に拡がっているように思う。
私は、山として人間を作ろうと思った。
人は見たものや感じたもの、想像できたものを包むほどに広く大きい。この一節に出逢ってから、「山を歩くことは山の存在とつながることなんだ」という実感を強く持つようになりました。
「あの山は、私の中に入る」
「人は山ほどに大きな存在なのだ」
何度読んでもいい言葉です。作家の想像力はひとつの世界をつくる。感服です。
春山慶彦おすすめの山の本
1. 『旅をする木』(星野道夫著、文春文庫)
2. 『真昼のプリニウス』(池澤夏樹著、中公文庫)
3. 『立ちつくす山 ー舟越桂作品集』(舟越桂著、求竜堂グラフィックス)
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。
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