投稿日 2020.01.15 更新日 2023.05.23

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登山用バックパック、正しい選び方と「軽くなる」背負い方

登山ガイドの岩田京子先生による「山道具の教科書」。第3回目のテーマは、バックパックについて。「ザック」とも呼ばれるアレです。バックパックは登山靴、レインウェアと並び「三種の神器」と称される、登山に欠かせないアイテムのひとつ。ここでは、登山用バックパックとタウン用リュックサックの違いや、用途に合った選び方、正しいフィッティングの仕方をお伝えします。

山道具の教科書|登山初心者必見の「服装&持ち物」完全マニュアル #03連載一覧はこちら

目次

登山用バックパックは背負いやすく疲れにくい

登山ガイドという仕事をしていると、登山初心者の方から、「登山用のバックパックって、よくわからない紐がたくさんついていて混乱するんです」「普通のリュックサックじゃダメですか?」といった声を耳にすることがあります。

そんなとき、私は3つのポイントをお伝えしています。

① 登山にはやっぱり登山用バックパックがおすすめ

ちょっとしたハイキングならタウン用のリュックサックで代用できないことはないのですが、長時間山道を歩く場合や、これから本格的に登山にチャレンジしたいという場合は、やはり登山用バックパックを持っておくのがおすすめです。

理由は明快。登山用バックパックには、山での歩行をラクにしてくれる工夫が随所に施されているからです。具体的に言うと、背負いやすく、疲れにくい。そして、耐久性があること。一般的な登山用バックパックには、この三拍子が揃っています。

② 「よくわからない紐」「ゴツいベルト」こそが長所

なぜ、背負いやすく、疲れにくいのか? その答えは、ヒップベルトやチェストベルト、ショルダーハーネス、ウエストベルトといったパーツにあります。

そう、多くの人が「これ、どうやって使うの?」「何のためについてるんだろう?」と感じる ”よくわからない紐” や “ゴツいベルト” のことですね。

これらはすべて、バックパックを安定させ、重さを分散させるためについています。それぞれの具体的な使い方は「バックパックの正しい背負い方」で後述しますが、紐やベルトがあるおかげで、「背負いやすく、疲れにくく」が可能になるのです。

背面パッドは、背中のフィット感を高め、接着面が汗で張り付くのを防いでくれる

③ ガシガシ使える丈夫な素材、登山に特化した便利機能

登山用バックパックには、重い荷物を入れたり、木の枝や岩などに擦れても簡単には破れない頑丈な素材が使われています。山を歩いていると、気づかぬうちに枝や岩に擦ってしまうことが少なくありません。快適な登山には、耐久性も必要なのです。

快適さという意味では、普段使いのリュックにはない「必要なときに必要なものをサッと取り出せる便利機能」が備わっているのもポイントです。

雨蓋やたくさんあるポケットは、その最たる例。使用頻度の高い道具、小物や地図などを入れておくのに便利です。山行中、体温調節や気候の変化に対応するために脱ぎ着を繰り返すような場合には、雨蓋にアウターやシェルを挟み、ザックを開け閉めしなくてもすぐに取り出せるようにすることもできます。中型以上のザックになると、ザックの一番奥の取り出しにくい荷物を簡単に取り出せるよう工夫されているものもあります。

登山用バックパックの選び方「初心者がまず買うべきモデルは?」

登山には登山用のバックパックが必要なのは百も承知。いざ買おうと登山用品店に出かけると、店内には様々なサイズやモデルのバックパックが陳列されていて、どれを選べば良いのか迷ってしまった…なんて経験はありませんか?

日帰り登山か、山小屋泊か。あるいはテント泊で縦走したいのか…。バックパック選びは季節や登る山、登山スタイルによって変わります。ひと口に「登山用バックパック」と言っても、シーンや用途に合わせて必要な容量や機能が異なるため、サイズ違いのバックパックを複数持っている人も多いもの。決して安くはない代物なだけに、最初の一つを選ぶのは悩ましいところですよね。

はじめて買うなら20〜40ℓサイズがおすすめ

登山用バックパックの容量は「リットル」で表します。日帰り登山やハイキングであれば、防寒着やレインウェア、水筒や行動食、昼食などが収まる20〜30ℓ、小屋泊であればさらに着替えや寝袋を入れることのできる30〜40ℓがおすすめです。

30ℓまでに多いタイプとして、ジッパーで開け閉めする「トップローディングタイプ」や、バックパック上部に雨避けの蓋がついている「雨蓋タイプ」があります。

自分の体型に合ったサイズを選ぶコツ

バックパックは、自分の体型に合った正しいサイズを選ぶことが何よりも重要です。フィット感を決めるポイントは「背面の長さ(背面長)」と「ウェスト&ショルダーハーネスのサイズ」。この2つの違いによって、中型〜大型モデルを中心に「S〜L」「1〜3」といったサイズ展開のほか、女性用を示す「W」表記のものが用意されています。

メーカーによって、あるいは同一モデルでもメンズかレディースかで細部のつくりが違ったりすることもあるので、自分の体にフィットするものを選ぶようにしましょう。

① 背面長
背面長とは、背面の長さのこと。第七頸椎(あごを引いたときに首の裏で盛り上がる部分)から腰骨の末端までを基準に選ぶとマル。

② ハーネスサイズ
ショルダーハーネスとバックパックの連結部分が、 肩の頂点から10cmほど下に位置している状態がベスト。

バックパックの背負い方を間違うと疲れる

実際にバックパックを背負って山に行くと「荷物が重く感じる」「肩や腰骨あたりに痛みが出る」といった声を聞きます。結果、登山で疲れてしまうわけです。

「バックパックが合わないので買い直さなくてはダメでしょうか?」という相談を受けることもありますが、たいていは背負い方に問題があるようです。

山で長時間ストレスなく背負って行動するためには、バックパックの機能を理解して基本的な背負い方を知ることが重要です。きちんと背負うことができれば歩きやすさ、重さの負担、バランスなどが大きく変わりますよ。

6つのステップで簡単マスター! バックパックの正しい背負い方

何度も山へ行っているという人でも、正しく背負えていない場合が少なくありません。登山初心者の方もそうでない方も、ぜひ手順を確認しましょう。

① ストラップを締める

背負う前にサイドのコンプレッションストラップなど、すべてのストラップをチェックして、緩みのないように締めておきましょう。緩みがあると中身の荷物がバックパックの中で動いたり、下部に偏り、バランスが悪くなる原因になってしまいます。また、しっかりと留められていない状態では、ストラップが歩いている際、小枝等に引っ掛かってしまうことも。

② 背負う

重量がある場合は、片手で勢いよく持ち上げるのではなく、両手で持ち上げて片膝の上にのせ、身体をねじり、片方の肩からショルダーを背負うようにしましょう。「よいしょ」と勢いよく背負うと腰を痛める原因にもなるので注意!

③ ウエストベルトを装着しフィットさせる

実は、ウエストベルトの場所を間違えている方が多いんです。ウエストのくびれの部分でベルトを調整してしまい、お腹に圧力がかかることで呼吸しにくくなってしまいます。また、腰骨の上部に重量がかかってしまい痛みが出ている方も見かけます。正しい位置はくびれのある部分ではなく腰骨の部分。腰骨を包み込むようにストラップをあてて締め上げましょう。下げ過ぎると歩く際に足を上げにくくなるので注意。

ちなみに、このベルトの部分にバックパックの7~8割の重量がかかるようにするのがベスト。容量が大きくなるにつれ重量も増すため、ウエストベルトのパッドなども厚くなり、強度も大きくなります。

④ ショルダーストラップの調整

肩にバックパックの重さがあまりかからないように、緩んでいる部分をフィットさせるイメージで両脇にあるストラップを引っ張り調節します。引っ張りすぎると③で調整したウエストベルトの位置が上に引っ張られてずれてしまうので注意。ストラップを締める場合は体の斜め後方に引っ張ります。緩める場合はプラスティックの下部の出っ張り部分を上に起こす形に持ち上げてストラップを滑らせて緩めましょう。ほとんど力は使うことなく片手で簡単にできるはずです。

⑤ チェストベルトの調整

ショルダーベルトが肩から滑って動かないようにしてくれる役割の胸元に配置されたベルトです。きつく締める必要はないので、締め過ぎず、ゆる過ぎずの調整がベスト! 締め過ぎるとショルダーストラップが首周りに来てしまい圧迫することもあるので注意。上下の位置も動かせるので、腕の付け根あたりの延長線上で苦しくならない場所が良いでしょう。

⑥ スタビライザーで仕上げ!

ショルダーハーネスの上部(肩の部分)にあるストラップ。行動中にバックパックが左右に横揺れするのを防いでくれます。うまく調整できていないと、身体からバックパックが離れて後ろに引っ張られる感覚になってしまいます。バランスがとても悪くなり、歩くたびに余計なバランス調整が必要となるため、気づかないうちに疲れが出てきてしまいます。

スタビライザーをしっかりと調整することで、肩とリュックの間の空間をなくし、身体にフィットさせることができます。ただし、ただ締めればよいというわけでもなく、うまく調整するとこが大切です。締め過ぎると肩の動きが制限されてしまうこともあるので注意しましょう。

調整の順番も重要となりますので、なぜこの順番なのか、なぜこの調節が必要なのかを理解して、基本に忠実に背負って今までとの違いを感じてみてください!

※デイバックのような形の物で、容量が少ないものや背面部のパッドが弱いものに関しては、ウエストベルトやチェストベルト、スタビライザーが付属されていないものもあります。

1分動画でバックパックの正しいフィッティング方法をチェック!

登山中、バックパックは何度も調整すること!

講習会やツアーの際に、この調整を「山行中、何回も調整してくださいね!」と話すと、皆さん驚かれます。多くの人は、この調整作業が必要だということを知らずにいるようです。なかには「購入して一度調整したあとは調整をし直したことがありません」という方もいて、私の方が逆に驚いてしまうことも…。

私は、歩き始める前に登山口の平らな場所でまず1回目の調整を必ずします。斜度が変わると地面に対して体の位置も変わるので、その後、歩きながら何度も調整しています。肩に重さがかかったり、ウエストベルトが緩んでしまったり、位置がずれてしまったりすることもあるため、面倒くさがらずにその都度調整をすることをおすすめします。都度調整をしておくと、一回きりの調整より、ぐんっとラクに歩けるようになりますよ。

実際、ツアー中、こんなことがありました。急な登りに差し掛かって体の位置が変わった際、参加者のひとりがしんどそうにしていました。バックパックの調整が不十分で、肩に負荷がかかりすぎていたのです。「ショルダーストラップを少し緩めるといいですよと」と声をかけて調整をしてもらったところ、「本当だ! だいぶ楽になりました」と、驚きと喜びの声をいただきました。あらためて調整の大事さを実感したエピソードです。

休憩後などにバックパックをふたたび背負う際は、ショルダーハーネスやヒップベルトのストラップは緩めおきましょう。バックパックを降ろす前にまずストラップを緩める癖をつけておくといいと思います。休憩時に暑くて一枚脱いだり、レインウェアや防寒着を着用したりすると、ストラップの調整も変わってくるはず。バックパックを下ろしたり背負ったりという行動をするたびに、調整も毎回するということを理解しておきましょう。ちょっとしたことですが、そのちょっとをするかしないかで、登山の快適度はかなり違ってきます。バックパックのこまめな調整を習慣づけると、長時間、重たい荷物を背負っての山行でも、きっと楽しめるようになりますよ!

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photo by 小林昂祐

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