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山でバテないためのコツ | 山登り基本のキ #04
人気登山ガイドの菅野由起子さんが教える「山登り基本のキ」。登山初心者だけでなく山に慣れたかな、という方も改めて確認しておきたい基礎知識を紹介します。連載第4回は「山でバテないためのコツ」。登山でいつもバテてしまう方、登山前と登山中に、いつもより少し気をつけるだけで、みなさんの山登りがずっと楽になるそうです。
山登り基本のキ|登山初心者におすすめ!これだけは押さえたい登山の基本 #04/連載一覧はこちら
目次
なぜ山でバテるのか? まずは自分の体力を把握してみよう
登山は、ほかのスポーツに比べて行動時間が圧倒的に長いのが特徴です。また、背中には重い荷物も背負っています。山で自分がどれだけ歩けるのか、普段の生活からその体力度合いを想像するのはなかなか難しいと思います。まずは一般的な指標を目安に、自分の体力度を把握してみることをオススメします。一般的な指標としては、登山地図帳やガイドブック、YAMAPなどの登山用地図アプリに表記されている標準的なコースタイムを利用するといいでしょう。日帰り装備の荷物を背負い、できれば登り2時間以上のコースを息が切れない程度の速度で登ってみてください。目安としては、仲間と会話が楽しめるくらいのペースが理想です。その時、実際にかかった行動時間と、標準的なコースタイムの差を把握しておくことで、次に登山計画を立てる際、自分自身のコースタイムの指標となります。個々人の体力にはかなり差がありますので、まずはご自身の体力度を把握しておくことが大切です。
自分の体力に見合った登山コースを選択できたら、そのコースでバテずに山登りを楽しむためのポイントを、山行前の準備段階から順を追ってみていきましょう。
登山前の準備が大切
栄養補給
登山のエネルギー源としては、登り始めは主に、筋肉内に蓄えられている糖質(筋グリコーゲン)が使われます。そして酸素を取り込みながら運動を継続していくと脂肪が分解され、エネルギーとして利用できるようになります。脂肪は体内に蓄積しやすいのですが、糖質はあまりたくさん蓄えておくことができません。山行の数日前からご飯などの炭水化物を積極的に摂り、糖質を体内に貯めておくとよいでしょう。
普段、糖質OFFの食生活をされている方は、山行前には一時お休みするといいと思います。
パッキングのコツ
日帰り登山であれば、それほど重い装備を背負うことはありませんが、ザックの外にいろいろと物をぶら下げたり、ザックの横のポケットに片方だけ重い水筒を入れていると、身体のバランスが片寄ってしまい疲労の原因にもなります。なるべく左右均等な重さになるようにして、ザックの中で荷物が動かないようにパッキングするとよいでしょう。水などの重量のあるものは、ザックの上の方の背中に近いところに入れると、ザックが下方や後方に引かれるような感じがなくなって、安定します。
歩くペースや水分補給など山行時の注意点
登山のペース配分と休憩はバテないためにも重要
登り始めは特に、意識的にゆっくりしたペースを心がけます。まずは20〜30分、様子を見ながら登っていきましょう。そこで最初の休憩タイム。身体が温まり、ウエアの調節をする頃合いにもなっているでしょう。靴紐の結びがキツすぎたりゆるすぎたりといった微妙な不具合も、長時間行動の登山では疲労につながりますので、このタイミングで調整しましょう。
その後も息が切れない程度のペースで登っていきましょう。周りを見るだけのゆとりがないというのは、ペースとしては速すぎです。それ以降の休憩を取るタイミングですが、おおよそ50分から1時間間隔くらいが目安になります。安全で他の登山者の迷惑にならない場所で5分から10分、水分とカロリー補給をしながらリラックスしましょう。長時間行動になると足も疲れてきます。落石等の危険性がない場所であれば座って足を休ませたり、軽くストレッチをするとより効果的です。
水分補給
身体の約6割を占める水分は、暑さ寒さなど外気温の変化に対応するための体温調整機能に欠かせない重要な役割を果たしています。汗をいっぱいかく夏の暑い時期などは休憩ごとの補給だけでは不足してしまうこともあり、できればこまめに補給するのが理想です。また、休憩時に一気にガブガブと飲んでも身体が吸収できる量には限りがあるため、逆に無駄に排出することになってしまいます。少量ずつ、不足した分だけ補給するほうが効率的な水分補給ができるので、トイレの回数も減り、熱中症や低体温症の予防にもなります。水筒にチューブがついたハイドレーションシステムは、ザックを下ろさずに歩きながら水分補給ができるので効率的です。
ちょっと寒くなってきたり、夏場でも標高の高い山に行くときは、保温ポットに温かい飲み物をいれていくのもいいですね。「野外でトイレ施設がないとどうしても水分補給を控えてしまうという」という声を特に女性から多く聞きますが、じつはこまめな水分補給が理にかなっているのです。
カロリー補給
行動食は、休憩時の2回に1回は口にするようにします。水分補給と同じくカロリー補給も、一気にたくさんよりは少しずつ小分けにしたほうが胃腸への負担を減らすことできます。食べると消化・吸収するために、胃腸や肝臓などが活発に動き始めます。胃腸などの臓器の働きにも、そして歩くための筋肉の動きにも血液が必要なので、双方でひっぱりだこ状態になってしまいます。お腹いっぱいになるとボーッとして、すぐに運動する気にならないですよね。だからこまめなカロリー補給が大切なのです。その際、糖質やタンパク質、汗で失われる塩分を意識的に摂るとよいでしょう。
無積雪期の日帰りの登山の場合、私はおにぎりを持っていくことが多いのですが、一回の休憩では半分、また次の休憩で半分という風に食べています。タンパク質補給としてはプロテインを強化したシリアルバーなどもありますし、夏の暑い時期は塩タブレットなども有効です。
山登りでバテないためのコツのまとめ
登山でバテないためのコツとしては、
1、今の自分の体力を把握した上で登山を計画すること
2、登山前から栄養補給と体調管理をすること
3、登山当日は適切なペース配分を保つことと、動くことで消費・不足した栄養素をできるだけ過不足なく補ってあげること
がポイントになると思います。
なお、下山後には登山中に補いきれなかった水分やカロリーをしっかり摂って、ストレッチや温泉入浴などで血行促進をして、身体を労わることも大切ですよ。
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イラスト:神田めぐみ
登山ガイド
菅野 由起子
シュラフに寝てみたくて20歳の時に社会人山岳会に入会。ハイキングに始まり夏山縦走、沢登り、岩登り、雪山登山、海外遠征とさまざまなジャンルを経験。そのまま山好きが高じて山岳雑誌出版社、登山用品店勤務を経て、2007年より登山ガイド業をスタートする。現在、新潟県の上越妙高をベースに活動する。登山ガイド事務所・カンスケヤマガイズ主宰、妙高マウンテンスクール所属。公益社団法人日本山岳ガイド協会認定・登山ガイド。
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