投稿日 2019.12.26 更新日 2023.05.23

楽しむ

#02 本沢温泉(長野県・八ヶ岳) | 下山風呂 温泉ヘッズ井出辰之助が語る山と温泉 〜湯口は宇宙〜

下山風呂・・・。それは登山の緊張をほぐし、汗を流し、今日の山行を振り返る至福の時間。そんな登山と温泉の幸福な関係を追い求めてきたイベントプロデューサーの井出辰之助さんによる、ややマニアックな登山&温泉レポートの連載第2回。今回は白濁りと茶濁りの2つの源泉が一度に楽しめる八ヶ岳の極上温泉・本沢温泉を紹介します。

目次

 

温泉:八ヶ岳 湯本 本沢温泉
□野天風呂(雲上の湯)
泉質:酸性-含硫黄-カルシウム・マグネシウム-硫酸塩泉(硫化水素型)
温度:40.8℃
□内湯&石楠花風呂
泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉
温度:53.1℃
場所:長野県南佐久郡南牧村海尻 国定公園内
値段:野天風呂600円
内湯800円
石楠花風呂700円
時間:要問合せ
評価:★★★★☆(4.5点)  ※5点満点

源泉掛け流し原理主義宣言

山登りには登山道を登る一般登山から、道無き道を行くバリエーション登山、岩壁をよじ登るロッククライミング、沢や滝をひたすら登るエキスパート御用達の沢登りなど、それぞれのスタイルやポリシーがあります。そして温泉巡りもまた、様々なスタイルやポリシーが存在するのです。
私は源泉掛け流し(以下源掛けと呼びます!)の温泉に徹底的に拘り、加温や加水までは良しとしますが、お湯を循環していたり、塩素消毒をしている温泉には入りません。

はっきり言いましょう、私は源掛け原理主義なのです!(笑)

そんな自分にとって温泉の醍醐味は、地球から生み出されるピュアな源泉をありのままの姿で体感し、体や心を癒しつつ、その土地の自然や風情、文化や歴史を肌で感じながら温泉に浸かること。だから湯船からプールの消毒の匂いがすると現実の世界に引き戻され、興醒めしてしまいます(笑)
人それぞれの楽しみ方なので、源掛け以外は温泉じゃない!とは言いません。しかし温泉を五感で体感するには可能な限り人の手が加わっていない、混ざり物なしの鮮度の良い源泉掛け流しの湯に浸かることをお勧めします。では循環はしていなくて、塩素消毒を匂いがしないレベルでしている温泉はどうなんだ、と言われれば、自分の場合はNOですが、源掛けの定義も人それぞれ。基本的にはそれぞれの楽しみ方で温泉に浸かればいいというのが正解だと思っています。ただ、100%源泉掛け流しを大々的に謳っているのに、加温・加水どころか循環・塩素消毒をしている施設はさすがにどうかと(笑)

全国約2万軒以上あるとされる温泉施設の約10%しか本物の源掛け温泉がないとされる現状の中、このコラムではその10%の温泉をご紹介していきます!

本沢温泉は、日本一高い場所にある秘湯

今回ご紹介する山と温泉は、日本百名山・八ヶ岳連峰の1つ「硫黄岳」と、標高2150mに位置する、日本一高い場所にある秘湯「本沢(ほんざわ)温泉」です。

登山歴5年の自分にとって縦走と日帰りで幾度も登ったことがある、云わば自分のホームグラウンド的存在で、8つに連なる峰もそれぞれ何度も登頂したことがある大のお気に入りの山です。硫黄岳の山頂直下にある本沢温泉は日本秘湯の会に加盟している、通年営業の温泉山小屋。“歩いてしか行けない秘湯”の王道的存在として多くの登山と温泉の愛好家たちに愛されています。何と言っても白濁りの酸性泉が自然自噴している野天風呂「雲上の湯」が注目されがちな本沢温泉。しかし内湯にも茶色に濁る、野天風呂の泉質と全く異なる別の源泉がドバドバと掛け流されていて、白濁りと茶濁りの2つの源泉が一度に楽しめるという極上な環境がディープな温泉フリークたちをも唸らせます。

今回の取材山行は、紅葉のピークが過ぎ、初雪が降ったばかりの10月下旬に本沢温泉でテン泊し、翌朝硫黄岳山頂を目指す登山行程を組んでみました。
八ケ岳は東京からアクセスが良く、中央道の渋滞をかわせば3時間も掛からず着いてしまうので、日帰り登山が十分可能です。朝溜まった仕事をやっつけ、少しのんびりして東京を11時頃出発。登山口から本沢温泉まで徒歩約2時間の道のり。4WDであれば先の駐車場まで進むことができ1時間位、短縮できますが、新車に変えたばかりということで(笑)。今回は無理せず登山口からスタートです。
すでに時計は14時を回っていましたが、ブナやカラマツの原生林の中を突き抜けるほぼ1本道の登山道を迷うことなく進み、野辺山や秩父連山を一望できる見晴しを楽しみつつ、あっと言う間に本沢温泉に無事到着。
テント設営を早々に終え、まずは日本一高い野天風呂へいざ出陣です!

山小屋から歩くこと10分。
まず目に飛び込んでくるのはダイナミックかつワイルドなロケーション!
爆裂火口の湯川の谷間に位置する野天風呂は、展望はあまりないものの、背後に硫黄岳がそびえ立ち、そのシルエットがダイナミックで、「ここは火星?」と思わせるくらい異空間な雰囲気を醸し出していて、視覚的にぶっ飛ばされます。湯小屋も脱衣所もない、ただむき出しの小さな露天風呂がポツンと1つ。
壁や柵もなく、360度どこから見ても丸見えなので、女性は水着を着ないと入れないくらいハードル高めですが、このワイルドさがここの醍醐味。自然との一体感を堪能でき、非日常的な開放感を味わうことができます。紅葉が終わったタイミングが絶妙だったのか、いつもの週末は人で溢れる野天風呂を完全貸切。
強烈な硫化水素臭が辺り一面に立ち込める中、周りを気にすることなくスッポンポンになってザブンと入湯。
ん~~~、最高!!

加水、加温なしの自然噴出で湧き出る源泉掛け流しのお湯は、灰白色に濁り、白い粒子状の湯の花が大量に漂い、酸性泉特有のヒリヒリ感とスベスベとした浴感が長湯を誘います。外気の影響で湯加減は適温で、爆裂火口の絶景を見ながら浸かっているとあっという間に時間が過ぎ、気付いた時には体がお湯に浸かった部分だけ真っ赤っ赤に(笑)
体や服にまとわり付いた強烈な硫化水素臭に包まれながら過ごすテント泊は、体の芯から温まった自分をまたしても即爆睡へといざないました。

本沢温泉から登る硫黄岳

朝、気がつくと結局9時間も爆睡!(笑)
朝焼けを見ながら硫黄岳を登る計画は崩れましたが、本沢温泉から硫黄岳山頂は3時間半で往復ピストンが可能なお手頃の初級者向けコースです。
天気は引き続き良好で、風もさほど無かったので、予定より4時間遅い9時からの出発となりました。

木陰には霜柱が立ち、数日前に降った残雪が所々にありますが、とても快適な登山道をひたすら駆け登ります。順調に夏沢峠を通過し、樹林帯を越えたところからご褒美の絶景オンパレード。目の前に広がる硫黄岳の頂上へと向かう緩やかな稜線が鮮やかで、振り返れば天狗岳の両峰も顔を出します。

最後の急登を登り切ると、だだっ広い山頂が特徴の硫黄岳の奥に予想通り主峰赤岳を中心に横岳、阿弥陀岳と南八ケ岳の岩稜が連なる絶景が待っていました。雪を少しだけ被った南八ケ岳は、どことなく威厳のある表情を見せてくれました。

風景を堪能した後は、本沢温泉へ早々と下山し、実は個人的に野天風呂より楽しみにしていたもう1つの源泉が堪能できる内湯へ急行。山小屋の奥へ奥へと進むと秘湯感溢れる男女別々の2つの浴室に辿り着きます。
浴槽は湯温を保つため木板の蓋がされていて、開けてみると茶色く濁った鮮度の良い熱めのお湯が豪快に掛け流されており、湯面は白い湯膜が一面に浮かんでいます。
これはすごい!

湯膜は湯の華と同じ温泉成分の結晶みたいなもので、成分が空気に触れたり、温度の変化で凝固したものが湯面に浮かび膜のように見える、温泉マニアの心を踊らせる貴重な自然現象です。新鮮な金気臭味ベースに芒硝薬臭を感じるお湯で、キシキシ感とスベスベ感が交じり合った浴感がとにかく体を芯まで温めます。

窓から光が射し込む神秘的な雰囲気の浴室で、この極上の温泉で登山の疲れを癒す一時に酔いしれ過ぎた自分は完全に時を忘れ、登山口に止めてあった車に戻った頃はすっかり辺りが真っ暗になっていました(笑)

登山好きなら誰もがあこがれる名峰そろいの八ケ岳。
硫黄岳山頂直下の爆裂火口の山間に湧くこの極上の2湯をじっくりご堪能ください!

本沢温泉への行き方と関連する活動日記をチェック!

本沢温泉へのアクセス

電車利用:JR小海線小海駅下車。タクシーで30〜40分
車利用:上信越佐久IC→R141、小海駅→松原湖入口/中央道須玉IC→R141、野辺山→松原湖入口
松原湖入口から松原湖経由→本沢林道入口(冬期は4WD車もここまで)→本沢林道、約3Km→本沢温泉入口(夏期でも一般車はここまで)→湯川渓谷遊歩道、約3Km→ゲート(4WD車もここまで)→徒歩約1時間で本沢温泉
駐車場:本沢温泉入口:20台/ゲート付近8台

詳しい情報は本沢温泉公式HPをチェック

本沢温泉に関連する活動日記



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