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比良山地の北部、リトル比良へ JR近江高島駅からJR北小松駅 | 深掘り登山ガイド 比良山地 #04

琵琶湖の西に広がる比良山地。京阪神からのアクセスの良さもあり四季を通じて多くの登山者を集めます。
その比良山地北部、琵琶湖からせりあがる山塊をリトル比良と呼びます。戦国武将・明智光秀ゆかりの城下町から信仰の山、岳山へのひと登り。さらには小さなピークをつないでのミニ縦走やオウム岩などの奇岩も見逃せない人気の山を、関西在住のベテラン山岳ライター加藤芳樹さんが紹介します。

2020.01.10

加藤芳樹

ライター/編集者

INDEX

コンパクトながら多くの魅力があるリトル比良

比良山地は、最高峰・武奈ヶ岳付近を中心にY字を形作っている。武奈ヶ岳の北稜、つまり、Y字の西側(左側)は蛇谷ヶ峰(じゃだにがみね)へと続く。東側は釈迦岳、ヤケ山と続き、徐々に標高を落としてゆく。そのヤケ山から北側、正確には寒風峠の先、岩阿沙利山(いわじゃりやま・586m)を最高峰とする稜線をリトル比良と呼んでいる。
このリトル比良、最高峰は岩阿沙利山だが、北端にある岳山(だけやま)は古くからの信仰の山で、中腹には岳観音堂があり、夏には岳登り(千日会)という風習があった。20年ほど前はまだ広場になっていて、建物の廃材も残っていたように記憶するが、今もう、草に埋もれ、礎石などを残すのみとなっている。それだけに、前半は、登りはじめから岳山までの古い登拝路が見所で、後半はオウム岩などの花崗岩の風景、ラストには比良の名瀑のひとつ楊梅の滝が控えている。

登り始めは明智光秀ゆかりの城下町

JR湖西線近江高島駅を降りると、ロータリーでは、大きなガリバー像が迎えてくれる。

「ガリバー旅行記」をテーマにした市内のキャンプ場にちなんで建てられた

登山の前に、近江高島の市街をぜひ覗いてほしい。戦国期に、織田信長が造らせた大溝城の城下町が元となった町並みがある。城の設計は明智光秀だそうだ。城下町は、道の真ん中に水路が設けられているのが特徴的で、情緒たっぷりだ。町家はカフェやパン屋などとして利用されているが、登山前ならば、朝の7時からセントラルベーカリーという美味しいパン屋が開いているので利用したい。

趣のあるかつての参詣道

さて、登山口は音羽という集落で、山裾まで来ると、登山道の道標がある。
案内に従って山の手に進もう。小ぢんまりとした長谷寺と大炊神社があり、その先に林道が続いている。しばらくすると、左手に登山道が分岐する。現在は登山道だが、もともとは岳観音堂への参詣道だから、距離を示す丁石や古い石仏が点在している。地蔵の安置された祠があるところが賽の河原。

みーちしおんさんの活動日記から/賽の河原周辺は開けている

路傍のお地蔵さんも趣深い

その先で、周囲が開けてくると、燈篭が立っている。少し進んでぜひ振り返ってみてほしい。好みはあるだろうが、琵琶湖を借景にたたずむ燈篭は、まるで広大な日本庭園のようで、私のお気に入りの風景だ。

さらに進むと、右手に真っ白な斜面が見えてくる。白坂と呼ばれている斜面だ。

Yottieさんの活動日記から/白坂は安易に取り付かないようにしたい

何とも興味をそそり、登れないこともないのだが、登ってからがヤブ漕ぎなど苦労するので、ここは素直に登山道を進んだ方が良いだろう。岳観音堂跡は、草木に埋もれ、昔日の面影はない。もうひと踏ん張りすると、石祠に観音像が収められている岳山山頂に立つ。昔はこのあたりに観音堂があったということだ。
信仰の香りがするのはここまで。尾根伝いに進んで、次のポイントは、オウム岩。展望は西側、つまり、鴨川を挟んだ比良北部のY字の左側の山並みが見える。その先、鳥越峰で、登山道は90度右に方向転換する。近年、ルートが短くなるからか、ここを左にとって見張山方面に進む人が多いようだが、一般ルートとはいいがたく、おすすめはできない。

滋賀県で一番大きい、楊梅の滝を目指して下山

最高峰の岩阿沙利山の山頂は、縦走路から右に少し外れる。その先にも仏岩と呼ばれる巨岩がある。縦走路に戻り、鵜川越と呼ばれる峠で林道に降り立ち横断して登り返していく。登り始めの急坂をこなせば、あとは寒風峠まで快適な道が続く。

みーちしおんさんの活動日記から/寒風峠付近の美しい苔

寒風峠を左にとると、オトシと呼ばれる湿地を通る。涼峠で焼山からくる道と合流してからは、急坂になる。足元に注意して下っていこう。下り坂の途中に楊梅の滝(ようばいのたき)を展望できる箇所がある。楊梅の滝は落差76m。3段分かれているが、その上段の雄滝(40m)が見える。下り着くと、楊梅の滝の最下段の雌滝(15m)の下を横切る。横切る手前、雄滝に通じる登山道があり、雄滝の下まで長い梯子などを通じて登ることができるのだが、足元には十分気を付けてほしい。なお「楊梅」とはヤマモモの木のこと。山中を流れる滝の姿がヤマモモの木に似ていることから名付けられたとも言われる。

あとは、JR湖西線北小松駅に向かって道路を下っていくだけだ。途中に野外活動施設の比良げんき村がある。キャンプ場や高さ15mのクライミングウォールなどがあるが、施設は予約が必要だ。注意点というほどのことではないが、行程は約6時間、真夏にリトル比良を歩いた折に、あまりに暑くて飲料水が足りなくなり、元気村の自動販売機で2本ほどスポーツ飲料をがぶ飲みしたことがある。低山と侮らず、いや、低山だからこそ、準備はしっかりとしておきたいものだ。

トップ画像:Yottieさんの活動日記から

下山後の山麓観光は白鬚神社がオススメ

セントラルベーカリー


築280年の歴史ある旧商家「びれっじ2号館」で営業しているパン屋さん。伝統的手法と現代の手法を融合させ、添加物はできるだけおさえた体にやさしいパンを提供。朝7時から開店しているのも登山者には嬉しい。
住所:滋賀県高島市勝野1320 びれっじ2号館
TEL:0740-36-0545
定休:火曜日・第1月曜日

白鬚神社


琵琶湖の湖中に立つ朱塗りの大鳥居が名高い近江の厳島とも呼ばれる近江最古の大社。祭神は猿田彦命(さるたひこのみこと)で延命長寿・長生きの神様として知られています。
住所:滋賀県高島市鵜川215 JR近江高島駅から約3km
TEL:0740-36-155

加藤芳樹

ライター/編集者

加藤芳樹

ライター/編集者

山と溪谷社大阪支局山岳部門編集長を経て、フリーの編集者・ライターに。特に雑誌「関西ハイキング」(現在休刊)を長年責任編集し、関西の山に精通。現在、「岳人」の編集部に所属しながらも、「山と溪谷」など山岳誌を中心に活躍。主な著書に『関西周辺 週末の山登り120』『兵庫県の山』(山と溪谷社)。