投稿日 2019.12.05 更新日 2023.05.23

登る

丹沢登山【塔ノ岳・表尾根】岩場とアップダウンの連続! 旧山岳修行コース

神奈川県の西北部に位置し、静岡県や山梨県へも裾野を広げている丹沢山塊。首都圏からのアクセスもよく、日帰りから本格的な縦走登山まで幅広く楽しめる山域として多くの登山者に愛されています。そんな丹沢の魅力を独自の視点で教えてくれるのは、丹沢・みやま山荘小屋番であり、登山ガイドも務める根本秀嗣さん。自らも丹沢麓の「寄(やどりぎ)」に住み、公私ともに丹沢山塊を歩き尽くした根本さんに、全10回にわたって「これぞ丹沢!」と呼べるおすすめコースを教えていただきます。第2回目は岩場あり、アップダウンありのアドベンチャーコースです。

目次

修験者の気持ちでダイナミックな丹沢を楽しみたい

丹沢 表尾根 核心部

左端の新大日から右端の烏尾山まで。修験者気分も高まる、表尾根の核心部である

今回紹介する表尾根は、岩場やアップダウンがある修験道さながらのやや険しいコース。修験者さながら「ここから山へ入るぞ!」という決意とともに楽しみたい。

丹沢山塊を山岳宗教の地として開山したのは奈良時代の良弁僧正という高僧だといわれている。奈良の大仏造営を指揮した行基と同時代の人だ。良弁が修験の道場を構えたのは丹沢に隣接した阿夫利山(あふりやま)。これは今で言う大山のことである。大山の山頂からは丹沢山塊がよく見えるが、じつは丹沢山塊最高峰の蛭ヶ岳(1,673m)が見えない。蛭ヶ岳隠しの犯人は、手前に聳える不動ノ峰(1,614m)だ。

丹沢表尾根登山の起点となるのはヤビツ峠。ここから連なる尾根筋は、塔ノ岳や丹沢山を経て、最奥の不動ノ峰へと続いている。もしかしたら修験者達もこれを見て、お不動様に向かう道として表尾根を選んだのかもしれない。

スタート時間には要注意

スタート地点のヤビツ峠は標高761mと高い。高い地点から出発できるというのはありがたい。当コースでは表尾根をヤビツ峠から登り、終点を標高1491mの塔ノ岳と設定した(その後はピストン)。休憩を除いて登り4時間少々と、程よいボリュームである。中盤からアップダウンが連続し、岩稜帯も出てくる。山歩き初心者を連れて行ってもいいし、季節を変え、一人で繰り返し訪れてもいい。四季折々の自然の変化にも富んだ、丹沢のマストコースである。

烏尾山 手前

烏尾山(手前)、三ノ塔(奥の左手)。尾根側面はガレて土留めされている

アクセスには小田急線秦野駅北口から出ているバスを用いるのが一般的だ。ただし、便数が限られており始発のバスに乗車しても登山スタートは9時近く(平日の場合、9時半ごろ)。行程と自己の力量を比べて、無理のない時間計画を立てよう。このバスは登山客で賑わう日は増便されることもある。より早めの出発を希望する場合、手前の「蓑毛(みのげ)」行きの便も検討対象となる。そちらだと最速で6時半ごろに登山スタート可能だ。ヤビツ峠1時間手前の蓑毛から歩きはじめ、ヤビツ峠着を7時半にできる。

秦野駅より約50分乗車ののちにバスを降りると、ヤビツ峠。飲み物の自販機や公衆トイレ、20台くらいの無料駐車場がある。「ヤビツ」とは「矢のお櫃」つまり弓の射手が背に負う矢の入れ物のこと。昔の矢櫃が出土したことから、この峠の名が付いたといわれている。バスが停まるヤビツ峠は”新”ヤビツ峠で、昔の人が歩いた本来の峠はこの近辺にあり、また違う場所だ。

2つのピークを越えて

スタート後は20分ほど県道70号線を宮ヶ瀬方面へ下っていく。車両通行の妨げや交通事故に遭わないように、なるべく山側に寄って歩こう。洒落たデザインの公衆トイレと未舗装林道の入口が道の左手に出てきたら、県道から離れる。道標もあって分かりやすい。林道を2〜3分登っていけば、登山道入り口となる。右手、木段で始まる上り坂へ。いよいよ表尾根の登りだ。

最初のピークである二ノ塔(1140m)までは、主に溝の中を行く高度差400mの登り。雨の時は赤土が滑りやすい。春先であれば道の縁あたりに、かわいい春咲きのリンドウが見られる。歩き始めて20分前後で登山道を横切る林道が現れ、そのあと1時間弱の登りでやっと展望がある二ノ塔に到着する。

テーブルがいくつか設けられた小広い頂上から、正面には三ノ塔(1204.8m)が見えている。そちらの頂上には黒っぽい壁の小屋も見えるだろう。二ノ塔・三ノ塔の間は、少し下ってググッと登る。所要15分くらいだ。ここでは、二ノ塔よりももっと居心地のいい三ノ塔まで行ってしまおう。登山道沿いには点々とマメザクラの木。開花期の4月下旬ごろから、下向きに咲く小粒の桜の花が趣を添えてくれることだろう。同じ頃、スズランのような壺状の白花をフサフサと垂らしたアセビの花も愛でられる。

三ノ塔からの展望を堪能する

登りついた三ノ塔はのんびりとした台地状のピークだ。晴れていれば、これから辿る表尾根の姿が素晴らしい。目の前にうねうねと広がった山並みの中央を少しずつ登っていく。一番目立つ、奥の三角形の高まりはコース終点の塔ノ岳。まず、その左肩からゆるやかに高度を下げている大倉尾根を確認。今度は、塔ノ岳の右奥に遠ざかるなだらかな稜線部、丹沢山へと続く主稜線。そして本コース表尾根は、塔ノ岳から右下へと三段ステップで高度を落としつつ徐々にこちらへ近づいてくる。三段の最下部のピークは新大日(1335m)。ここで表尾根は、急角度に左へ下がる。少し行って小さく曲がった箇所には、政次郎ノ頭(1209m)・行者ヶ岳(1180m)などの岩稜を含む痩せ尾根が待っている。更にこちらへ近づいてきてから、再び尾根が逆へ大きく曲がるポイントに丸いピークがある。その、木がほとんど生えていない丸坊主の山は烏尾山(1136m)だ。登山道が明瞭に確認できる一番手前の尾根筋。コースは、ここ三ノ塔直下の山腹をせり上がり、今立っている地点へ繋がっている。こうしてみると、表尾根は無闇にジグザグカーブだ。稲妻のような見た目。だが地図上で再確認すると、実はそれほど曲がってないことがわかる。

烏丹沢 表尾根 尾山から行者ヶ岳間

烏尾山から行者ヶ岳間の表尾根を、三ノ塔付近から望む。その背後に、大倉尾根が青く霞んで見える

二ノ塔から見えた小屋は、2019年に建ったばかりの「三ノ塔休憩所」だ。日差しや雨などから逃れての休憩には好適だ。内部はゆったりとした空間で、カウンター席と広めのガラス窓からの展望が、快適さを保証する。小屋から離れたところに、バイオトイレ棟、自然情報の掲示板(時々更新)などもある。この頂上は、登山者に人気のスポットだ。自分好みの場所を見つけたら、ちょっと休んでいこう。

行者ヶ岳へ向かう

三ノ塔の頂上を後にすると、フラットで歩きやすい道がしばらく続く。マメザクラの花や新緑がみずみずしい時期には、まるで庭園のようである。

ニットの掛けものやキャップを着せられたお地蔵さんがいる地点から、ヤゲン沢乗越という大鞍部めがけて一気に下る。ザレた斜面なので足元注意。クマザサのトンネルのような道を登り返し、三ノ塔より70m低い烏尾山に到着。三角に尖った「烏尾山荘」は、通年で土日祝日のみ素泊まりが可能。ふり返ると、経てきた三ノ塔が立派に見える。あんなに平らだった山頂の下部に、実は岩の崖があったこともわかる。その背後には大山だ。

烏尾山から少し下って、まっすぐな小道を30分ほど。5月中下旬、ここではシロヤシオやトウゴクミツバツツジが紅白の花を見せてくれる。新緑もまだみずみずしい頃だ。

いい感じの味が出た、トタン張りの烏尾山荘

いよいよ表尾根核心部へ

続く、行者ヶ岳~政次郎ノ頭の区間は表尾根の核心部。尾根の幅は狭くなり、岩稜を鎖やハシゴ頼りで越え、何度も登り下りを繰り返すようになる。冬の着雪時には特に注意。スリップしやすいところだ。神経を尖らせていこう。

凸凹した岩がちな小ピークが出てきたら、そこが行者ヶ岳だ。頂上に、不動明王や役小角(えんのおづぬ)の描かれた石碑が立つ。この下から鎖が2列設置された険しい岩場が始まる。人気の高い春秋の週末、ここで渋滞が発生する。長い時は1時間も待たねばならない。それを避けるには、渋滞時間を見越してのオフピーク行動が一番であろう。

9月初旬の岩場周辺では、紫色の艶やかな花ビランジや「丹沢の貴婦人」と称される地域固有種サガミジョウロウホトトギスなどの珍奇な花が見られる。希少種なので大切に鑑賞してほしい。やっとの思いで生き延びている植物達なのだから。

さて、鎖場の後は木製の橋やハシゴなど、アスレチックのような区間が目白押しとなる。政次郎ノ頭は近づいてきたものの、山の侵食の激しさに抵抗した大掛かりな丸太構造の橋を渡っていると、山城の映画セットの中にいるような気さえ起こる。

丹沢 行者ヶ岳付近

行者ヶ岳に近づくと地形に変化が見られ、岩が多くなってくる

ラストは塔ノ岳へ

政次郎ノ頭から新大日へ。左側の展望がいい。足元には、谷筋が漏斗状に口を開いている。秦野市を貫流した後に湘南の海へ出る水無川の源流だ。漏斗地形の内側には何本もの枝沢。個々の沢は沢登りコースとして親しまれている。背後の大山も再度見ておこう。遠ざかったことで独立峰の風格が増してきたように思える。

テーブルがあって展望もいい新大日。もし表尾根を下ってヤビツ峠へ向かう計画なら、ここで分岐する「長尾尾根」に直進しないよう注意してほしい。よく間違えられているポイントである。新大日から塔ノ岳は1時間弱。ゴールは近い。

ブナの枝に発達した霧氷

ブナの枝に発達した霧氷。針状の氷がその特徴である

道中、週末素泊まりのみ可能なランプの宿「木ノ俣小屋」が立っている。端正でかわいい建物である。夏にはかき氷を販売しているので、ラストひと頑張りの前に火照った身体を内側から冷やしていくのもいいだろう。

歩きやすい道を行く。ツツジの時期には紅白やオレンジの花に目を奪われながら。冬場だと、枯れ枝に真っ白な冬ならではの華が咲く。それは花ではなく、夜霧が枝に付く瞬間に氷化し、それが累積的に伸びてできた氷の華「霧氷(むひょう)」と呼ばれるものである。たまに見られる現象で、丹沢の冬の風物詩となっている。

最後のガレ場を一踏ん張り。頭上の台地が塔ノ岳頂上だ。尊仏山荘が台地の右のほうに見え、励みになるだろう。

塔ノ岳頂上に着けば、四方八方の展望が待っている。頂上の広場は中央が盛り上がっており、土留めの木段の緩やかな階段を登ってそこに行ってみよう。山名が書かれた円盤プレートで風景を読み取って楽しむことができるようになっている。塔ノ岳山頂の営業小屋、尊仏山荘は通年で開いている。中に入ってすぐの土間で、登山者同士語らいあうのも楽しい。

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