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深掘り登山ガイド 比良山地 | #2 比良随一のレジャーの山、蓬莱山 坊村から白滝谷を歩く

琵琶湖の西に広がる比良山地。京阪神からのアクセスの良さもあり四季を通じて多くの登山者を集めます。比良山地を代表する第2の高峰が蓬莱山(ほうらいさん・1174m)。下山は山岳リゾート施設、びわ湖バレイのロープウェイを利用して、南から権現岳、ホッケ山経由の琵琶湖を望みながらの縦走、西から比良の谷を楽しむ白滝谷経由の登山を、関西在住のベテラン山岳ライター加藤芳樹さんが紹介します。

加藤芳樹

ライター/編集者

INDEX

浮世絵にも描かれていた蓬莱山

比良山地で武奈ヶ岳に次いで高い蓬莱山。琵琶湖側から見ると一番目立つ。近江八景「比良暮雪」の浮世絵に描かれているのも、山容からすると蓬莱山だと思われる(最高峰の武奈ヶ岳は、琵琶湖側から見えない)。

近江八景之内 比良暮雪

(国立国会図書館デジタルコレクション『近江八景之内 比良暮雪』より引用)

山の四方から登れる蓬莱山

蓬莱山の山頂部から北隣の打見山にかけてはレジャー施設びわ湖バレイがあり、ロープウェイが通じている。昔から冬は京阪神近郊の手軽なスキー場として知られていたが、近年は、ロープウェイ打見山頂駅近くに「びわ湖テラス」という琵琶湖に面した広々としたデッキが話題になり、観光客が押し寄せている。我々登山者からすれば、見える景色は昔から変わらないのだか、面白いものだと思う。
蓬莱山登山は、このびわ湖バレイのロープウェイを下山に利用できるのが利点だが、休日には長い列に並ぶ覚悟が必要になった。
さて、登山道は山の四方から延びている。琵琶湖側(東側)からは、志賀駅から天狗杉・クロトノハゲを経由して打見山に至るキタダカ道が代表的だ。もうひとつ、キンピラ峠を経由する道もあるが、近年の台風の影響で倒木が激しく、通行禁止になっている。
一方の安曇川側(西側)からの登山道もある。ひとつは、平から権現山経由で縦走路を北上していくコースだ。平へは、JR湖西線堅田駅から細川行の江若バスでアプローチする。国道沿いのバス停からいったん平集落に入り、旧道を通るといいだろう。旧道を登り切って国道を横切り、花折峠への道に入る。しばらく歩くと左手にアラキ峠経由で権現山に登る登山口がある。登山道はしばらく植林だが、やがて自然林となる。権現山手前が少し荒れてはいるが、高みを目指せば迷わない。権現岳山頂に出ると、琵琶湖が前面に広がる。

たーしーさんの活動日記より/権現岳山頂から見た琵琶湖

蓬莱山のハイライトは琵琶湖を見ながらの爽快な尾根歩き

ここからは右手に琵琶湖を見下ろしながら爽快な尾根歩きだ。広々とした山頂はホッケ山。比良は古くは比良三千坊といわれるほど山岳宗教が盛んだった山だから、おそらく漢字では法華山と書くのだろう。
緩やかにアップダウンをすると、石地蔵のある丘に出るが、そのすぐ下が小女郎峠(こじょろとうげ)だ。

マルさんの活動日記より/小女郎峠近くの気持ちの良い登山道

左に5分ほどで山上池の小女郎池がある。こういう神秘的な池に付き物の伝説が、ここにもある。麓にお孝という女と九右衛門という夫婦が住んでいた。お考が夜な夜な赤ん坊を残し出掛けていくのを不審に思った九右衛門が、ある晩後をつけていくと、小女郎池にやってきて池の中に入っていった。九右衛門が問いただすと、この池の主である大蛇に見初められてしまったのだという。そして自分の左目を差し出し、「赤ん坊にしゃぶらせてほしい」と言い残し、池の中に消えてしまった。「孝」女郎の池、それがなまり小女郎池となったということだ。

悲しい伝説を持つ小女郎池

さて、ここからひと登りすると、蓬莱山山頂に着く。ここは、スキー場のゲレンデトップでもある。琵琶湖を足下に見下ろせるので、湖を見るなら最高峰の武奈ヶ岳よりも格段にいい。ゲレンデを下って登り返すと打見山山上駅に着く。ここからロープウェイを使えば5分で山麓駅に到着だ。なお、びわ湖バレイロープウェイの最終は17時発なので乗り遅れには注意したい。

沢登りも人気の蓬莱山

尾根道の魅力の他に、谷道も紹介しておきたい。比良山地から流れ出す安曇川の支流は、関西では日帰りができる沢登りの適地として知られる。とりわけ、西麓の坊村に流れ込む明王谷の上流部は人気が高い。そのひとつ、白滝谷は、蓬莱山に突き上げる沢で、広くて明るく、谷沿いに登山道が延びている。比良の谷の美しさを堪能するにはいいコースだ。1時間ほど林道を歩かなければならないのが難点だが、ウォーミングアップのつもりで歩けばいいだろう。
途中には、湧き水や、比叡山回峰行ゆかりの三ノ滝がある。牛コバと呼ばれる広場が、白滝谷コースの登山口となる。登山道は、右岸から一度左岸に渡り、右岸へと渡り返す。飛び石の徒渉となるので、雨後は要注意だ。以後は歩き通す。途中、左から白石谷が流れ込み、布ヶ滝が見える場所が広く開けていて、休憩にいい。
登山道はやがて谷から離れ、山腹を歩くようになる。再び白滝谷と出合ったところは、夫婦滝の上だ。夫婦滝へは平水になった谷を渡り、少し下って見に行くことができるが、道はあまりよくないので、気を付けて観瀑したい。

35mの落差を持つ夫婦滝

白滝谷はここから汁谷と名前を変えて、これまでとは打って変わって穏やかな渓相になる。たどっていくとスキー場の下部に出る。少し左に振って、ゲレンデを登っていくと打見山山上駅に着くが、最後に来てこの登りがややきつい。
ところで、もの足りないという人には、夫婦滝の分岐から西(上流に向かって右)に30〜40分登っていくと、音羽池、長池という山上池を訪ねることができる。森の中の池は神秘的な雰囲気がして魅力的だ。

道がわかりにくいので注意が必要な音羽池

白滝山というピークもある。ただし、地形が複雑で踏み跡もわかりにくいので、道迷い遭難も発生している。十分な登山経験がなければ遠慮しておこう。

加藤芳樹

ライター/編集者

加藤芳樹

ライター/編集者

山と溪谷社大阪支局山岳部門編集長を経て、フリーの編集者・ライターに。特に雑誌「関西ハイキング」(現在休刊)を長年責任編集し、関西の山に精通。現在、「岳人」の編集部に所属しながらも、「山と溪谷」など山岳誌を中心に活躍。主な著書に『関西周辺 週末の山登り120』『兵庫県の山』(山と溪谷社)。