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山岳写真の世界へようこそ#01|スマホでキレイな写真を撮ってみよう

登山愛好家の方々、こんにちは。山岳写真家の山写です。

海外で山岳写真ばかり撮影していて少し前に日本に帰って来ました。
それからもやっぱり日本で山の写真を撮り続けています。

最近はスマートフォンの普及により登山をしながら写真を撮る人が増えてきたように思います。
YAMAPの活動日記に写真を載せるため、興味を持ち始めた人も多いかもしれませんね。

山と写真が身近になったこともありYAMAP MAGAZINEの中でみなさんに山岳写真の世界を知ってもらう連載をすることになりました。

たくさんの人が山で得た感動を表現できるように、順序立てて色々なノウハウをご提供する予定です。

今回は初めて山岳写真に触れる人も多いと思いますので、スマートフォンのカメラでキレイに山の風景をまとめるテクニックと、山で写真を撮る上での注意点をご紹介します。

山写

山岳写真家

INDEX

作例写真はすべて未加工ですので同じスマートフォンであるならばカメラアプリでボタンを押すだけで同じような写真が撮れます。

舞台は昼から日没にかけての霧ヶ峰。
この時間帯の光と山の美しさこそが、私が山岳写真を始めたきっかけでもあり、今も追い続けている山の姿です。

みなさんにもこの時間帯の山を見て欲しいという思いから、初心者でも登りやすく日が暮れても装備があれば難易度も高くないこの山を選びました。

使用したスマートフォン

使用したスマートフォンはiPhone 11 Proです。

最近のスマートフォンはカメラ性能が進化していて複数のレンズがついているものが増えてきました。
今までは1つのレンズで拡大をデジタルズームで行っていたのに対し、レンズを切り替えるシステムにしたことでより高画質になっています。

iPhone 11 Proは広角・標準・望遠と3つのレンズがついているものがあります。

重たいカメラを持って山に挑む前に練習をすることができますし、SNSやWEBがメインの場合はスマートフォンの方が使いやすいという人も多いかと思います。

自分の立っている位置を意識してみる

山が見えたら思わずそこにスマートフォンのカメラを向けていまう! という方も多いかと思います。これもシンプルに山を写す手法の1つですが、山の大きさなどを表現するには少しパーツが足りません。

自分の立っている位置を示すパーツを写真に追加します。作例だと笹になります。
目を惹いた山と、自分の立っている場所の2つで写真を作ると距離感や大きさを表現することができます。

遠近感を出すために座ってみる

登山道や稜線を歩いていると、その広大な雰囲気や登山道を構図の中に入れて切り取りたくなります。
けれども写真にしたら奥行き感がイマイチで見た風景よりも狭く感じてしまうことが多いのではないでしょうか。

これは立った状態でスマホを上から下に傾けて撮影しているのが原因の1つです。

そんなときは立ったまま撮影するのではなく、片膝をついて目線を下げて写真を撮ってみましょう。

空間に広がりが出ているのが分かると思います。また右の木もしっかり立っているように感じられます。

これはしゃがんだ低い目線で、カメラを水平にして撮影した効果です。そしてもう1つ大事な要素があります。それがラインです。

2枚の写真で大きく異なる点がこのラインの違いです。
中学校の美術の授業で習う遠近法の基礎で、消失点から伸びるラインが広がっていくと遠近感を感じるようになります。

この効果を意識して写真に落とし込むと広がりがある写真になります。

自分の立ち位置と遠近感を組み合わせよう

立ち位置を意識して、撮りたい山を撮って見ましょう。作例ではシンプルに2層で考えています。

この2つを意識するだけで山では様々な表現ができるようになります。

美しいと感じたものを追求してみよう

山岳写真は稜線や山頂を撮るというイメージが強いですが、それだけではありません。私達が行動できる範囲だけでも登山口から山頂まですべてが山です。樹林帯も岩場もすべてが山です。

常識や多くの山岳写真の作品に囚われず、心のままに美しいと思った景色を追求していくのが写真の楽しみ方です。

そんな写真の撮り方の1例をご紹介します。

上から光が注ぐ昼に比べ、日が傾き始めると山を彩る様々な木や草、岩に凹凸や陰影が生まれます。

例えばこの写真は木々に西日が当たり美しい色彩とディテールが生まれています。

稜線から眺めて写真を撮るだけではなく、それが登山道の中になるなら直接行ってみることです。そうすることで新しい発見がたくさんあります。

近づいて初めて木々の1本1本に至るまで光が入り、美しい造形を作っているのがわかります。

木々の中に入ったらどんな美しい光があるのだろうか。それは自分の考えている通りのものなのか、それ以上に美しいものなのか。期待に胸踊らせながら歩みを進めます。スマートフォン1つというフットワークの軽さが行動力に繋がります。

林の中に入ってみると木の1本1本にハイライトとシャドウが存在し、立体感と木皮のディテールが強調されているのがわかります。

光が差し込んでいる木と、影になっている笹薮を1つの写真に組み込むことでより木々が際立って見えます。

色の対比を楽しむ

太陽は西に沈みます。よって夕方の始まりの時間、西はオレンジに染まるけれども東は青が残ります。

西日を受け止める木々がオレンジ色に染まっているのとは対照的に、東の空は澄み渡る青色になっています。この色の差(色相対比といいます)が美しい空間を作り上げています。

振り返ると沈む夕日が直接見える逆光になります。

先程までの木々の繊細なディテールは消えて太陽の明るさとシャドウが際立つ世界になり、今の時刻が夕方であることを強く印象づけます。

最初はただ「光が当たっていて美しいな」と漠然と思うような景色であっても、中に入ってみると思いもよらない美しい景色が現れることがあります。

夕方の山は昼とは別世界です。

この世界では草、木、岩すべてが複雑な光を纏います。例えば上の写真ではススキが光り輝いており、山岳写真のテクニックでご紹介した「自分の立ち位置」と「遠近感」を構成するパーツとして十二分に機能します。

思い切ってススキに寄り切って撮影しても、手前のススキ、中間のボケたススキ、奥の稜線と奥行き感が自然と生まれます。

昼間であれば背景すべてが同化してしまう構図でも、夕方の日の光は角度がついているため、あらゆるもの光と影を強く強調します。

これを紐解くのはとても難解なのですが、まずはすべてのものが美しく撮れるボーナスタイムだと思ってください。

私もこのような景色に圧倒され山岳写真の世界に飛び込みました。

スマートフォンのカメラで撮影しただけでこのような景色を切り取ることができます。撮影技術も難しい理論は使っていません。

この景色をより深く鮮やかに、葉の1つ1つまで描写することができる一眼レフやミラーレス一眼で撮ったらどんな写真が撮れるのか…ワクワクしませんか。

山で写真を撮影するために必要な装備

基本的には登山の基本装備と変わりませんが、使用するケースと心構えに違いがあります。今回は夏から秋の始まりにかけて必要な装備をご紹介します。

finetrack エバーブレスフォトンジャケット / エバーブレスフォトンパンツ

まずは上下のレインウェア。

写真撮影をメインにすると常に歩き続けるということはありません。ザックを背負って歩き、停滞し、また歩き始める。その繰り返しです。

それが日中の樹林帯などであれば必要がないことも多いのですが、気温が下がり始めた稜線で風に晒され続けると身体が冷えて低体温症を誘発します。重度になると行動不能になり遭難に至りますし、身体の芯が冷えると翌日の体調不良に繋がります。

そうならないために少しでも風による冷えを感じたら撮影を一旦中止して、レインウェアを着て行動しましょう。レインウェアは雨を防ぐだけでなく、風も遮断して体温の低下を防ぐ機能があります。

特に夕方の時間帯は刻々と景色が移り変わって行くので写真撮影に夢中になり、まだ大丈夫と思っているうちに事故のリスクが高まります。登山であれば当たり前のようにできるリスクマネジメントが山岳写真になった瞬間にできなくなってしまうことがあります。

たとえ美しい景色を目の前にしても、まずは自身の安全を確保してください。

finetrack ポリゴンバリアフーディ

次に防寒具です。こちらも登山なら必ず持っていく装備ですが稜線で停滞するようなことを想定しているのでしたら、シーズンに合わせたものよりもワンランク温かいものを持っていった方が安全です。

状況に合わせてレインウェアだけを着るか、防寒着で過ごすかの選択があります。そこは天候を見ながらの判断になります。

気温が低い中での強風で写真を撮影するのであればレインウェアの中に防寒着を着ると雨風をシャットアウトしながら保温力を高めることができます。

状況に合わせていくつかのパターンを決めておくと写真撮影に集中できます。

グローブ

Mammut Shelter Glove

登山で転倒してしまうと手の平の擦過傷で楽しい登山が台無しになってしまいますので、どんな季節のどんな山であってもグローブを推奨しています。

それとは別に撮影用に保温力の高いグローブを携行します。夏山であっても風があると指先がかじかみ指をポケットに指を隠さないと我慢できなくなるくらい冷えます。

これでは撮影どころではなく、なによりその状態で歩くのは危険です。

私が愛用しているのはミトン式で指を出すことができるグローブ。撮影時は直にスマホやカメラを指で操作して行動中は隠して保護する使い方をしています。厳冬期ではこの下に薄手にグローブを付け、オーバーグローブも着用することで保温力を高めています。

THERMOS 山専ボトル

写真撮影は運動量の低い時間が出てきてしまうので、状況が悪いとウェアを着込んでも体温を維持するのが難しくなります。現場で簡単にできる対策はお湯を摂取することです。

長時間停滞するのであれば定期的にお湯を摂取して身体をあたためましょう。

ヘッドライトは必ず持っていく

山で写真を撮るということは、それだけでタイムスケジュール通りに歩くことができなくなるということです。

どんな山にもヘッドライトを持っていくのが前提ですが、写真撮影をするとその出番は多くなります。

山岳写真は大きく分けると朝、昼、夜の撮影に別れ、朝と夜の写真を撮ろうとすると夜間の行動を避けることができなくなります。

秋になれば夕方の5時を過ぎたら足元をヘッドライトで照らさないと歩行が不安になります。

将来的にそのような写真を目指したい方は最初から標高差のある山に挑戦するのではなく、霧ヶ峰のような起伏の少ない山でトレーニングをしてみるのも良いと思います。

電子機器である以上頼り切ることはできませんが、スマホでYAMAPのようなGPS連動の地図アプリを使用することで現在や目的場所までの距離を確認できるため不安を解消できます。

より楽しく、より安全な山岳写真を楽しもう

今回は登山に携行しても負担のないスマートフォンを使用した山岳写真のテクニックのご紹介でした。

「山岳写真」がテーマであることから、写真の基本にして本質である「光」の美しさと組み合わせて山の美しさをスマートフォンで撮影しています。

この考え方はスマホでもミラーレス一眼であっても変わりません。

これを機に、より豊かな表現が可能なもう少し本格的なカメラに興味を持ってもらえると山岳写真家としては嬉しい限りです。

しかし、1つだけ覚えておいてほしいことがあります。それは山岳写真の99%は登山であることです。

しかもカメラなどの撮影機材を背負って登山をすることから登山以上にリスクがある上に、写真撮影がタイムスケジュールを圧迫し、強風の稜線で停滞したりと通常の登山では考えられないような行動を取る危険なアクティビティです。

登山の知識や経験が不足している段階で大量の撮影機材を山に持ち込むことは非常に危険です。

スマートフォンや地図アプリの登場などテクノロジーの進化により特別な技術がなくても道迷いを避ける手段は生まれてきましたが、厳しい自然から身を守るのはやはり登山の知識です。

状況の予測ができれば事前に準備をすることができ、現場でパニックになることもありません。

そういった経緯から日本のアウトドアメーカーfinetrackさんと山岳写真を撮るための登山技術のセミナーなどを年に数回開催する草の根活動をしてきました。

その流れからしても山岳写真のスタートをスマートフォンにするというのは登山の経験と写真の経験を安全に積むことができる良い組み合わせだと思います。

今回YAMAP MAGAZINEさんで連載を持つ機会をいただきましたので、長年の山岳写真撮影の経験を元に多くの人がより安全に、楽しく山に登り写真を撮るためのお話ができればと考えています。

ご意見ご感想などをTwitterWEBサイトブログからいただければ次回以降の記事に組み込こもうと思います。

山写

山岳写真家

山写

山岳写真家

山岳写真専門のネイチャーフォトグラファー。 ヒマラヤ、ヨーロッパアルプスなどに登り山岳写真に没頭。 現在は日本の北アルプスと八ヶ岳で活動しつつ自然の魅力を発信したい地方自治体の支援を写真で行う。 WEB:http://photographmt.com/ ブログ:https://yamasha.net/ Twitter:https://twitter.com/Photograph_mt Instag ...(続きを読む

山岳写真専門のネイチャーフォトグラファー。
ヒマラヤ、ヨーロッパアルプスなどに登り山岳写真に没頭。
現在は日本の北アルプスと八ヶ岳で活動しつつ自然の魅力を発信したい地方自治体の支援を写真で行う。

WEB:http://photographmt.com/
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