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深掘り登山ガイド 阿蘇 #01 | 雄大な大地の鼓動、火山の力を体感するカルデラ登山

想像を絶する大規模な火山活動が作り出した雄大な景観。阿蘇登山の魅力は、その雄大な風景の中を実際に歩き、大地の息遣いを感じることができる点です。今後、全10回にわたって阿蘇の深堀り記事をお届けしますが、第1回目となる今回は、「阿蘇五岳」「カルデラ」「外輪山」「草原」。阿蘇を楽しみ尽くすために知っておきたい4つのキーワードをご紹介します。

米村奈穂

フリーライター

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南外輪山縦走路から阿蘇五岳を望む

阿蘇山という山はない

阿蘇登山の魅力はなんといっても、火山がつくりだした大自然のとてつもないスケールを自分の足で歩いて確かめることだ。そうやって辿り着いた山頂から、今度はその不思議な大地の成り立ちを観察する。各国から観光客が訪れる世界有数の火山だが、山に登ってみて初めて少しだけその偉大さを理解できた気になれる。そして、登るうちに、火山と人々の暮らしが深く結びついていることが見えてくるだろう。

ざっくりと阿蘇山域の説明をすると、巨大な桶(カルデラ)の中にいくつも火山があり、桶の縁が外輪山と呼ばれる部分にあたる。阿蘇山という山はない。阿蘇山とは単体の山の名前ではなく、カルデラの中央に連なる火山群の総称である。火山群は阿蘇五岳と呼ばれ、東から順に根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、杵島岳を指す。その稜線がお釈迦様の寝姿に見えることから「涅槃像(ねはんぞう)」に例えられる。


大観峰から象ケ鼻を望む

私の阿蘇五岳を登ろう。

阿蘇山といえば、モクモクと噴煙を上げる山の姿を連想するが、それは現在も活発に活動を続ける中岳である。以前はロープウエイで山上まで上がり火口見学ができたが、2016年に熊本地震の被害を受け、現在は運休中。再開するまではシャトルバスが運行している(シャトルバスも火山の状況によって運休するため、事前の確認が必要)。その横には最高峰の高岳が並び、高岳の北東の稜線には、九州でも有数のクライミングスポットである鷲ヶ峰がそびえる。5月下旬から6月上旬頃にはミヤマキリシマが咲き誇る。高岳の標高は1592,3m。「ひごくに」と語呂合わせで「肥後の国熊本」にあてて覚えられる。少し離れた東の端には紅葉のメッカであるギザギザとした山容の根子岳が、西側には草千里ケ浜と呼ばれる草原を挟んで南北に烏帽子岳、杵島岳が対をなす。

今回紹介する山は、阿蘇五岳のうちの根子岳、烏帽子岳、杵島岳と、南外輪山の俵山と冠ケ岳。火口周辺の中岳、高岳は、中岳火口噴火警戒レベル2が発令中で立ち入りが禁止されているためやむなく外した。(2019年10月末現在)

根子岳は南山麓の大戸尾根から登る。山頂からは突起した尖塔「天狗岩」を望める。凹凸が特徴的な稜線は「涅槃像」の顔の部分にあたる。烏帽子岳と杵島岳は草千里ケ浜から登るルート。烏帽子岳は春にはミヤマキリシマのピンク色に染まる。杵島岳の稜線からは、阿蘇富士と呼ばれる山容の美しい米塚を真上から望める。俵山は日の出スポットとして人気の俵山展望所から日の出とともに登る。冠ケ岳へは、今回紹介する中で唯一カルデラの外側から登るため、他とはまた違った景観を楽しめる。


冠ケ岳に向かう道中、一ノ峯の手前から南外輪山の稜線を望む

五岳を眺め、外輪山に登り、カルデラへ下り、草原を知る

阿蘇登山で抑えておきたいキーワードは4つ。阿蘇五岳、カルデラ、外輪山、草原だ。

阿蘇五岳とは前述の通りだが、五岳の並びと山容を覚えておくと、山頂からの山座同定が面白い。地図と照らし合わせながら阿蘇五岳を見つけてみよう。

カルデラとは、火山によってできた巨大なくぼみのこと。様々な種類があるが、阿蘇カルデラは噴火によって大量のマグマが地中から噴出することで起こった陥没によりできたものと考えられている。その規模は、東西約18km、南北約25km、面積は350㎢と世界的に見ても最大級である。またそのカルデラの中では、はるか昔から田を耕し、村を作り、鉄道を走らせたりと、大自然と共に生きる人々の暮らしがあったということも注目すべき点である。火山活動が落ち着いた後、かつては巨大な湖となっていたようであるが、度重なる地震や浸食作用により、カルデラの唯一の切れ目である立野火口瀬から決壊し水が外へ流れ出たと考えられている。阿蘇の祭神、健磐龍命(たけいわたつのみこと)が人々のために田畑を作ろうとして蹴破ったという神話も残る。

外輪山とは巨大なカルデラを囲む壁の縁のこと。この壁に囲まれていると阿蘇にいる感じがする。地元の方が遠出をして阿蘇の自宅に戻る際、外輪山の唯一の切れ目である立野から外輪山の中へ入ると、帰ってきた~!という感じがしてホッとすると言っていた。山の上から見るとよく分かるが、なだらかな北外輪山の稜線にくらべ、南外輪山は凹凸が激しい。これは、もともと南側の斜面が険しかったため、噴火の際に火砕流が止まらずに流れ落ちたことによる。南外輪山には全長約30,4kmの縦走路が走っている。

最後は草原。阿蘇の草原は平安時代から1000年を越え人の手により維持されてきた。放っておけば森林になってしまう草原が、野焼きや、放牧、刈り取りなど大変な労力を持って保たれている。阿蘇の山々では、気持ちいい草原を歩いたり、放牧された牛に出会ったりすることがある。古くから続く自然と人の営みのつながりを、登山を通して感じられるのも阿蘇を登る魅力である。


冠ケ岳からの下山路

最後に、阿蘇の山を登るうえで注意したいのが、火山活動の最新情報を確認することと、震災後に立ち入り禁止となった場所へ不用意に立ち入らないこと。これらの登山情報は下記の熊本県県北広域本部にて確認できる。登山前に必ずチェックしよう。
https://www.pref.kumamoto.jp/kenhoku/kiji_28732.html

道路やトンネルの開通で復興の雰囲気をあちこちで感じられる阿蘇だが、山の中ではまだまだ震災の傷跡を目にする。自然の中で遊ばせてもらう登山者として、ただ登って帰るだけでなく、宿に泊まったり、温泉に入ったり、食事をしたり、お土産をたくさん買ったりと、微々たるものでも、自分にできることで少しでも復興の手伝いができればと思う。


崩落している杵島岳の南斜面


根子岳の東峰から天狗岩へのルートは通行止め

※現在(2019年10月)、火口周辺規制の発令によりシャトルバスは運休中。訪れる際は必ず最新情報の確認を。https://www.kyusanko.co.jp/aso/

米村奈穂

フリーライター

米村奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。