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山で位置を知る方法 〜スマホアプリを活用した登山について〜

スマホひとつで地図や現在地の確認ができる、登山地図アプリ。近年は技術向上によりGPSの精度やバッテリー持続時間が格段に上がり、使う人も増えてきました。しかしその一方で、「精度が上がったとはいえ、いまいち信頼できない」「本当に山で使えるの?」といった懐疑的な意見があるのも事実です。フリーライターの森山憲一さんとYAMAP代表・春山さんへのインタビューを通して、登山地図アプリの活用法や山岳遭難との関わり、登山のこれからについて考えます。

YAMAP MAGAZINE 編集部

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80年代に山に入ってる奴は「変態」扱いだった

ーお二人が登山を始めたのはいつですか?

森山:僕は大学の時です。1987年に大学入学、探検部に入ってそこで初めて登山をやったので、32年前になりますね。

春山:32年前、ですか! だいぶ前ですね。

森山:ほんと、嫌になっちゃいますね。春山さんはいつから登山を?

春山:僕も大学のときです。2000年頃ですね。ボランティアサークルに所属していたんですが、顧問の先生が山をゴリゴリやる方で、いろんな山へ連れて行ってもらいました。ボランティア半分、山半分、学校にはほぼ行かず…という4年間を過ごしましたね。森山さんはもともと登山や探検に興味があったのですか?

森山:いえ、たまたまです。別にアウトドアの経験もありませんでしたし、登山というより海外に興味があって、最初は世界旅行研究会というサークルに入ろうかと思ったんです。でも見学してみたら、ただみんなで海外に行くだけの活動内容だったので、それもつまらないかなと。サークル勧誘のチラシを眺めていたら、世界旅行研究会の横にたまたま「探検部」って載ってて、こっちだったら面白いかなと思ったんですね。

左から:森山憲一、春山慶彦

春山:僕も山岳部やワンゲル部への入部を考えましたが、当時は部員も少なくあまり盛り上がっていないような印象でした。80年代は盛り上がってましたか?

森山:まあ、盛り上がってなかったですよね。まったく。僕のいた探検部はこのころたまたま部員数が多かったですが、山岳部は部員数ずっとひとケタでしたし。そもそもその頃って、山で若い人を見ることはなかったですよね。僕はバブル世代に当たるんですけど、この世代って、一番山をやってない気がします。自然より六本木っていう時代だったので。探検部の連中なんてむしろ変態扱いでしたよ。

ーお二人から見て、登山シーンや登ってる人たちの層はどう変わったと思われますか?

森山:僕は、大きく変わったのは1回だけかなと思っています。2008年〜2009年にかけては転換期で、そのときを境に若い人が山に来るようになったという実感があります。それ以外の大きな変化ってなかったと思うんですよ。登山業界は良くも悪くも変化がない世界。

春山:確かに2008〜2009年あたりを境にウェアがきらびやかになりましたよね。僕が登山を始めた2000年頃でさえ、若い女性が一人でテン泊なんて考えられなかったですけど、今は普通に山でちらほら見かけますもんね。

森山:今は若い人が「趣味は登山です」と堂々と言える。変態扱いされていた自分の青春時代を比べると、いい時代になったなとすごく思います。

森山憲一

ーどうしてそういう風潮になったと思います?

森山:いろいろと複合的な要素が絡んだ結果だと思いますが、その中でも人々の自然志向的なものが影響している部分はあるんだろうなと思います。都会生活、都会の楽しみに飽きてきているというか、やり尽くして面白くなくなってきたという感覚が、自然へと足を向けるひとつのきっかけになっているのかなと。
あとは、お金がかからないイメージがあるのかもしれませんね。実際にはそんなこともないんですけど、とりあえず山に入場料があるわけでもないですからね。

春山:マイナーで「変態」扱いされていた部分が、今だと少し「かっこいい」とか「イケてる」ものとして認知され、登山に対する捉え方がプラスになってきているというのも、一つの変化ですよね。

春山慶彦

森山:すごく大きな変化だと思いますよ。個人的にはどん底イメージの頃から始めた人間なんで(笑)。僕がずっと山岳雑誌をやってきたのは、若い頃、登山をやっていて変態扱いされてきたことへの恨みを晴らすためだったのかなと思ったりしますね。「なんとか山登りをかっこいいものにしたい」「若い人が普通にやれる趣味にしたい」…。後付けの理由なんですけど、振り返ると確かにそういう想いはあったなと。

春山:「ヤマケイ(山と溪谷)」や「PEAKS」、「ランドネ」といった雑誌の人たちがずっと培ってきた文化づくりというか、メディアの力も登山イメージ向上の大きな要因ですよね。

森山:2009〜2010年あたりは多少あったかもしれませんね。「ランドネ」も「PEAKS」も2009年創刊なんです。特に「ランドネ」の初期の爆発力はだいぶ影響はあったんじゃないかなとは思います。「PEAKS」の方も最初から対象読者層を30代にしようと話していました。年配の方は「ヤマケイ」を読んでいるからもっと下の世代を狙おう、という消去法だったんですが、結果的に若い世代を対象にした雑誌づくりを意識してしていたので、その辺の影響も多少はあったのかなと思います。

春山:雑誌ならではの積み重ねで、今の登山文化が花開いたんですね。あの雑誌不況と言われた時代に雑誌を立ち上げるなんて、めちゃくちゃ大変でしたよね。情熱を感じます。

登山における道具、テクノロジーの役割

ー登山が多様化するのと並行して、近年は通信技術が向上。GPSの機能を用いた登山地図アプリサービスが複数誕生するなど、登山における道具も発展してきました。こうした登山におけるテクノロジーの変化についてはどう思われますか?

森山:迎合するわけではないんですが、僕個人としては「新しいもの好き」なので、登山に機械やITを活用するのはいいことだと思っています。登山業界は新しいものに対して割と抵抗を感じる人が多いので、なんの注釈もなしに「使いましょう」と書くと怒られることがよくある世界なんですけど、僕はもっと単純な人間なんでしょうね。役に立つならいいじゃない、というスタンスです。

春山:僕が通信デバイスに一番凄さを実感したのは、2004〜2005年頃、アラスカの極北の村を訪れたときのことです。イヌイットの人たちは伝統的な知恵だけでなく、最新のGPSを使いこなしていたんです。しかも、使っているのが初老のおじいちゃんだったりするから衝撃で。

森山:え、まだ地図表示とかない時代ですよね?

春山:はい、ほぼない時代です。主にアザラシ猟で使われていたんですけど、べーリング海の上にぽちっと点が表示されるくらいで。でも、実際に天候悪化で辺り一面が真っ白になったときは、GPSがあったことでちゃんと家に帰ることができたんです。その瞬間、GPSは命を守る道具になりうると実感しました。

森山:その経験がYAMAPの着想に?

春山:はい。YAMAPのサービスを思いついたのは2011年5月、リリースしたのは2013年3月ですけど、着想の根本にはアラスカでの経験がありました。

森山:その頃、競合サービスはすでにあった?

春山:2011年5月時点で登山アプリがあったのは、iOSでは「ジオクラフィカ」の前身である「DIYGPS」と、アンドロイドだと「山旅ロガー」ですね。YAMAPリリースの直前、2013年1月には山と高原地図さんからも登山地図アプリが出ました。というように競合サービスもちらほら生まれてはいたのですが、実際に使ってみて、どのサービスもツールだけに閉じてしまっていることに気がついたんです。本来、登山・アウトドアが持っている価値をもっと世の中に広げる方法があるんじゃないか。自分はそこにトライする意義があるんじゃないかと思って、これまで走ってきたという感じです。

競合と言われるサービスも、広い意味では全然ライバルとは思っていません。本当のライバルはゲームなどの家に閉じこもるサービス。週末の余暇の選択肢に自然と登山が入るような世界を目指して、docomo,au,softbankのケータイ3社のように共に業界を盛り上げていける関係性でありたいと思っています。

ーリリースから6年、登山地図アプリをめぐる状況は変わりましたか?

春山:サービスを出して実感として思うのは、2013年にリリースした当時は本当に叩かれるというか、「役に立つはずないじゃん」と完全否定されることも多かったんですけど、毎年夏山フェスタなどのイベントに出展していると、一年経つごとにスマホを山で使うことの価値が向上している気がします。リリース当初よりは、サービスもそうですけど、スマホがGPSとして使えることも自体もだいぶ認知されたように感じます。
とはいえ、まだまだとは思うんですけど。登山届けの提出に、モバイルバッテリーの携行、地図とコンパスも合わせて持っていくこととか、もっとトータルな案内をすることでスマホアプリを推奨するというのはやってもいいんじゃないかなという気がしてます。そういう機運がようやく生まれ始めてきたかなと。

森山:それはここ3〜4年ですか? すごく変わってきたなと感じるのは。

春山:1〜2年くらいですかね。

森山:僕が「スマホ地図ありだな」と思ったのは、2年くらい前ですね。自分自身の感覚もそうだし、自分の周りで使っている人を見ても、「変わったな」「あ、もうスマホ地図でいいのかもしれない」みたいな感覚がありました。

春山:それはどういったところから? 利用者数が増えたとか、精度が上がったというなことでしょうか?

森山:データというよりは、まず自分自身が使ってみて「使えるな」と実感したのが一番ですね。あとは周りでも使っている人が目に見えて増えたという感覚もあります。それまではどこかで「山で使うならガーミンじゃないとダメだろ」みたいな意識がなんとなくあったんですけど。スマホ自体が機械としてもすごく発展して、実用になるものになってきたので、そういうタイミングに当たったのかなと。

登山地図アプリを使い始めたきっかけは、僕の場合は山と高原地図だったんです。僕はフリーランスでやっているので、これをスマホに入れておけば、どこの編集部に行っても「あの地図見たい」と思ったときにすぐに見られるじゃないですか。で、ある時それに現在地を示す機能があることに気がついて(笑)。

ーええー! むしろそれがメインの機能です(笑)。

森山:そうなんですよ。最初はただ、地図を見るためだけに入れたんです。で、現在地を示す機能があるとを知ってからは、山でもガンガン使うようになりました。今はむしろメインで使ってますよ。

道迷い遭難は、いずれなくなる?

ー「スマホアプリの台頭」や「GPS精度の向上」など安全登山につながる便利な機能、ツールが普及する一方で、ここ数年、毎年遭難者数が増えている現実があります。原因と対策についてはどうお考えですか?

森山:どうしたら減らせるか、というより、今がピークなのではないかと思ってます。基本的にはこれから減っていくんじゃないかな、と。カーナビって今は大体の車についているし、カーナビに従ってみんな運転してるんじゃないかと思いますけど、そんな感じで広まれば、どうしたって道迷いが減るのは間違いないんじゃないかと思いますね。

ーとはいえ「これだけに頼るのはどうなの?」という意見もあると思います。「精度が不十分なのでは?」「バッテリーの持ちが悪そう」といった声もありますし。

森山:すごく極端な、挑発的な言い方をすれば、僕は「スマホだけでいい」と思ってます。わざと挑発的な言い方をすれば、ですけど。どうしてかというと、地図読みってすごく難しいじゃないですか。なかなか身につかない。もちろん地図が読めるに越したことはないんですけど、それを全員に求めるのは現実的じゃないですよね。僕自身は地図読みは好きだし得意な方なので、面白さや価値はわかっているつもりです。ただ、これまで登山業界・山岳専門誌の世界で ”伝える仕事” をずっとやってきて思うのは、「これは伝わらないよなあ」ってことなんですよね。

春山:なるほど、説得力があります。たしかに毎年どこかの雑誌で読図読み特集やってますもんね。

森山:よく売れるんですよ。だから、みんな知りたいと思ってるはずなんですけど、読んだだけではなかなか身につかないものなんです。webや雑誌では限界があるのも確かで、伝えるとしたら「マンツーマン」、「現場で実地」しかないんですよね。

春山:リアルで学べる場所の必要性は、僕も強く感じます。遭難者が増えている原因の一つは、山岳部や山岳団体が高齢化、弱体化していて、それらに代わる「山をやりたい」という若者の受け皿がないことじゃないかと思うんです。地図読や山のマナーといった僕が山をやり始めたときに当然教えられたことが、今は人から人へ情報伝達する場がない。登山を楽しむ舞台は自然だから、伝えられることってネットとか文章では限界があると思うんです。僕自身、登山を始めたばかりの頃に大学の先生と一緒に山へ行くことで、自分にはない自然観に触れることでいろんな自然の見方が何層も溜まっていく感覚がありました。そういう感覚の積み重ねが自然との向き合い方、リスク回避、山の楽しみ方を教えてくれるんじゃないかと。やっぱり、人から人への情報伝達の場が大事なんだと思います。僕らもアプリやネットで何か完結できるとは思ってなくて、リアルでの場づくりをしっかりしていって、山岳部、山岳団体がもともと担っていたものを今の時代にマッチするように各地方で実現することができれば、楽しみ方も広がるし、リスクも減る。リアルの居場所、コミュニティをYAMAPに限らずどんどん作っていけたらいいなと。

森山:地図読みもリアルでやれば伝わるし、覚えられると思います。僕が最初に山登りをしたのは大学山岳部時代の合宿でやった、神津島のオリエンテーリングがきっかけです。あれで僕はもうめちゃくちゃ山にハマったんです。最高に面白いんですよ。神津島の山の中に10箇所くらい適当に地図上にポイントをつけられていて、2日以内にこれ全部回ってこいと言われるんです。どういくかは自分で決めろ、寝る場所も全部自分でどうにかせいと。ポイントは全部道の上にあるとは限らなくて林の中にぽんとあったりするわけです。でも地図読みなんて当時は全然知らないので、現場に行ってわからないなりに地図を見て「これはー」とか言いながら探し出していく。これがものすごく面白くて、どんどん山登りにのめり込んでいきましたね。これをやれば読図技術も身につくし、地図持って山を歩くことの楽しみも伝わると思うんですよね。

春山:紙の地図でもスマホでもGPSでもなんでもいいんですけど、宇宙の視点を持って生きるのと、平面の視点だけで生きるのとでは世界観が全然違うと思ってて。山へ行くとか地図読みができるということは少なくとも俯瞰の視点を手に入れることになると思うので、人間の世界観とか生きる力においてはすごく大事な気がします。地図読みだとかGPSで位置を読むほんとの根源って、もちろん道に迷わないってこともあるんですけど、神様の視点というよりは、それくらい大きい世界、自然の中で自分たちの命があるということを意識的にも無意識的にも自覚できることかなと。

森山:なるほど、興味深い話ですね。たしかに空間把握は人によって視点が違うみたいで、僕は割と俯瞰で自分の立ち位置を見てるんですよ。僕の妻は逆に目の前の風景という感じで空間を意識しているようなんですね。自分の現在地で話していると、なんか食い違うなと感じていて。世界の見方っていうと大げさですけど、それは人によって違うようですね。

春山:僕は事業の置き方も山から学んだと思ってます。大きい視点でtodoを置かないと近視眼的になってしまって、振り返ったらただ疲れてるだけという状況になりかねない。特に今は答えのない時代なので、自然から学ぶ、環境の変化に対して自分で考えて答えを出すみたいな生き方って、より大事になってきてると思うんです。例えば自然教育という形で、自然との触れ合いや登山がもっと見直されてもいいんじゃないかなと。すべてが山の中、自然の中にあって、僕らにとってのより良い生き方に繋がっていくー。その真理を社会にもっと広めて行くにはどうしたらいいのかというのが、大きなテーマです。

登山地図アプリのこれから

森山:登山界では登山地図アプリに対してまだまだ懐疑的な論調が多い傾向にありますし、登山に限らず、例えばクライミングでも画期的な新しいものが出てくると必ず批判する人が出てきますけど、時代の変化やテクノロジーの進化とともに我々登山者の意識もプラスに変わっていく必要があるということですかね。僕もずっと山をやってきた人間なので、批判する人の気持ちはわかる方だと思います。わかるんですけど、ちゃんと分けて考えなければいけないとも思っていて。

春山:分けて考える?

森山:地図アプリであれば、読図スキルを持っている人が使っても確かにメリットは少ないと思います。だから地図が読める人を念頭に置いて「地図アプリは役に立たない」と否定するのは間違ってないんですが、全員が完璧な読図スキルを持ち合わせているわけじゃないですよね。登山人口全体を俯瞰して見ると、大半の人はおそらく読図スキルに不安があるか、そもそもやり方を知らない人のはずです。ここにねじれがあるわけです。地図アプリのような「新しい道具」の必要性を語るときに、対象者をごっちゃにして考えてしまうのは、個人的にはすごく違和感を感じます。

春山:まったく仰る通りだと思います。スマホがGPSとしても活用できるようになったことで生まれた利便性を必要とするのは、山を始めて間もない人や、これから始めようとしている人。図式化すると下層レイヤーの人たちなんですよね。彼らはまだ技術レベルが未熟な場合が多いので、「使える道具はなんでも使って安全に登山を楽しむ」くらいの視点で道具と付き合うのがいいんじゃないかな、と。

春山:逆に登山技術が上がっていけば、道具は自分のスタイルに合わせて取捨選択していっていいものだと思うんです。技術レベルが向上することで、必要な道具はどんどん研ぎ澄まされて減っていく傾向にある。先日、角幡唯介さんの講演会で「地図を持たずに北海道の山を旅した」という話を聴いて、彼こそその典型だと感じました。

ーというのは?

春山:地図を持って行っていないので、目の前を流れている滝がなんの名前かもわからないし、「滝を超えたらその先の道はないんじゃないか」という気持ちになったりする。その代わり、その目の前の滝が圧倒的な存在感を持って自分に差し迫ってきたと言うんです。地図があったら名前がわかるし、その先の地形やルートもわかるけれど、あえてそれを手放すことで自然の存在感が際立つんですね。すごくいいエピソードだと思いました。

ただしそれはできるのは技術と経験のある人だけです。GPSがなくても自分の位置がわかって安全管理ができるのであれば、モノはどんどんなくしていけばいい。けれど経験のある人たちと始めて間もない人たちを一緒くたにしたり、経験のある人が「いや、そんなの邪道だ」と落としたりするのは噛み合ってないなと。YAMAPの事業を通じて、道具の使い方と初心者・上級者のレイヤーにおいて絡まった糸をなんとか解きほぐせたらいいなとも思います。

ーヤマップとしては紙地図の有用性も理解した上で、うまく併用してもらいたいと考えていますが、「紙の地図はほぼ使わない」「使うのは地図アプリだ」という人も少なからずいると思います。弊害はあると思いますか?

森山:そうですね。実際問題、アプリの狭い画面では場所を広く見られないですよね。つまり、広いエリアでの概念把握ができないわけです。僕もコースを考える時は紙地図じゃないとやりにくい。視野が狭くなるというのは感じます。

ーどうしたらいいでしょうか?

森山:やはり併用、ですよね。僕なんかは、家で計画を考えるときは紙地図で、山行時はアプリを使うことが多いです。概念は頭に入っているから、行くときは紙は家に置いていくこともあります。

ー春山さんは普段どんなふうに紙とアプリを使い分けていますか?

春山:アルプスに行くときは必ず両方持っていくし、長期縦走するときはモバイルバッテリーを持っていきます。今はもうモバイルバッテリー持ってったり山小屋でも電源解放してくれてたりするのでそんなに困ることはないですけど、2013年のヤマップリリースして間もなかった頃は、モバイルバッテリーも大きかったり、長期縦走をずっと使うってのは難しかったので基本は紙の地図を使って、天候が悪化した際に自分の現在地を紙とアプリの両方で確かめるというときだけYAMAP立ち上げて、という使い方をしてました。今は技術が進化して、ずっとオンにしてログをとっても消耗はさほど気にならなくなったので、逆になっちゃいましたね。YAMAPで位置を確認してログもとって、紙はスマホが壊れたときなどもしものときのためにザックの中に持っておくことが多いです。

ーなるほど。お二人とも効果的に両者を使い分けていらっしゃるのですね。最後に、登山アプリをもっと使ってもらうには、どんなふうに説明すれば効果的だと思いますか?

森山:僕がよくこの手のことを説明するのに使うのは、ヘッドランプなんです。

春山:ヘッドランプ?

森山:ええ。ヘッドランプも機械じゃないですか、電気で動く機械。そう考えると、紙の地図がアプリの地図に変わることも概念的にはそう変わらないんですよね。登山地図アプリに対して抵抗感が生まれる理由って、まず第一に新しいものに対する拒否感、その次に来るのが、機械に頼ることによって今まで人力でできてた技術がマイナスになることへの危機感だと思うんです。でも、「ヘッドランプなんかに頼ってたら登山者としてダメだ」「ランプがなくたって見えるように視力を鍛えろ」なんて言う人はいないわけです。いるとしたら服部文祥さんくらい(笑)。

春山:たしかに!

森山:こういう話をすると、よくバッテリー切れの指摘がありますね。「バッテリー切れたらどうすんの?」って。

春山:どう説明するんですか?

森山:同じことを言います。「ヘッドランプでバッテリー切れたらどうすんの?」って。「予備電池を持っていって切らさないようにするでしょ。それと同じことをスマホでもやればいいだけだ」という具合に説明すると、大概は納得してくれますね。ヘッドランプで良しとされてるのにスマホで良しとされないのは、僕自身、整合性がとれてない感じがして単純に好きじゃない。

春山:ヘッドランプもスマホアプリ。確かにどちらも同じ道具で電気を使ったものなのに、こっちはいいとされてこっちはいいとされない…。先入観みたいなものですかね。

森山:今、ヘッドランプなんかどんどん高機能化してますよね。自動調光機能もあるし、あれはもう、ITですよ(笑)。あとは、使い始めて初めて気がついたんですけど、スマホアプリは老眼にすばらしく良いです。

ー老眼、ですか?

森山:ええ、僕も2〜3年前から老眼が進んできて25,000分の1地形図とか、細かい等高線が見にくくなってきたんですね。特に暗めの樹林帯とかだと厳しくて、地図で地形読んでやっていく登山は引退しなきゃいけないのかなとちょっと悲しく思ってたんですど、スマホアプリは拡大が自由で、しかもバックライトで照らしてるので、非常に見やすいんです。

春山:なるほど、初めて聞く視点です。

森山:かなり見逃せないポイントだと思います。本当になってみないとわからない話なのであまり言われないですけど、じつはすごく大きなメリットなんじゃないかなと。年配の人で「地図を読めない」と思っている人は絶対いるはずです。地図って表記が細かいんですよ。これは老眼になった経験がないとわからないと思います。僕の周りなんて47〜48歳からたいがい、早い人だと40代前半から老眼になってますね。年配の登山者にこそ、スマホアプリをうまく取り入れたら、もっと安全で快適な登山を楽しめるんじゃないかと思います。

森山憲一
森山憲一(もりやま・けんいち)
山岳ライター、編集者
1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山とクライミングをメインテーマに様々なアウトドア系雑誌などに寄稿し、写真撮影も手がける。ブログ「森山編集所」(moriyamakenichi.com)には根強い読者がいる。

春山慶彦
春山慶彦(はるやま・よしひこ)
株式会社ヤマップ代表
1980年生まれ、福岡県春日市出身。同志社大学卒業、アラスカ大学中退。ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部に勤務後、2010年に福岡へ帰郷。2013年にITやスマートフォンを活用して、日本の自然・風土の豊かさを再発見する”仕組み”をつくりたいと登山アプリYAMAP(ヤマップ)をリリース。アプリは、2019年3月時点で120万DL。国内最大の登山・アウトドアプラットフォームとなっている。

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINEの編集部です。