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登山装備の選び方(日帰り編) |山登り基本のキ #02
人気登山ガイドの菅野由起子さんが教える「山登り基本のキ」。登山初心者だけでなく山に慣れたかな、という方も改めて確認しておきたい基礎知識を紹介します。第2回は山の初心者がどれを選んで良いか悩みがちの「登山装備の選び方」を教えてもらいます。
山登り基本のキ|登山初心者におすすめ!これだけは押さえたい登山の基本 #02/連載一覧はこちら
目次
日帰り登山で必要な装備とは
山を歩いていると、大きなザックを背負った人もいれば、コンパクトなデイパックを背負った人にも出会います。
その背中のザックの中には、それぞれの山登りに必要な装備が詰まっています。それでは無積雪期の日帰り登山にはどのような装備が必要なのでしょうか?
私が日帰り登山に行く際に、どのような装備を選んで使っているのか紹介したいと思います。
まず、登山の技術書などで「日帰り登山で必要」と紹介されている装備の一例です。
山で身に付けるもの
登山靴
足首までしっかり覆ったトレッキングシューズ
ザック
持っていく荷物を収納できるサイズのザック
容量の目安は15〜30リットル
レインウエア
ジャケットとパンツに分かれたセパレートタイプ
ウエア類
汗などで濡れても乾きやすい下着、Tシャツ・長袖シャツ、ズボン、靴下、気候に合わせて保温着も
手袋
手の保護や防寒用として。雨で濡れることもあるので、替えを持っていくと安心。
帽子
暑い時期は日よけ、寒い時期は保温性のある帽子がいいです。
サングラス
UVカット効果のあるもの
登山中に使うために持って行くもの
地図
コースタイムなどの情報が記載された登山地図や、1/25000の地形図などの紙地図がベース。地図アプリも併用するとより有効
コンパス
地図とセットで使用。
登山では透明のプレートに方位磁石が付いた「ベースプレートコンパス」を使います。まずは方位を確認するところから始めてみましょう。
腕時計
高度計やコンパス機能の付いたアウトドア用の時計もあります。
ロールペーパー
登山口などのトイレが紙切れであったり野外で用を足す時に必要。私は、使用済みのペーパーを持ち帰るためのゴミ袋とセットで持っていっています。
水筒
気温に合わせて保温ポットも活用。寒い時は温かいものを、暑い時は冷たいものを入れておくと、低体温症や熱中症予防にもつながります。
行動食
登山中に食べる食糧のこと。短時間の休憩でも食べやすいもの。
安全登山のために必要なもの
登山計画書
登る山を管轄する警察と、自分の身近な人=緊急連絡先に提出し、登山中も持ち歩いて進行状況を確認します。
携帯電話
緊急時の通信用に。山間部は圏外のことも多いので、機内モードにするか電源を切っておきます。無事に下山したら緊急連絡先へ一報を入れるのも忘れずに。
モバイルバッテリー
YAMAPなどの地図アプリを使う際、心配なのが電池切れ。そのため日帰り登山でも持っていくと安心です。
医薬品類
持病薬やケガ対策の外用薬を中心に。新しい登山靴は靴擦れを起こしやすいので、早めに保護パットを貼って対応しましょう。
健康保険証
怪我をしたときなど、麓の病院で受診する際に必要です。
ヘッドランプ
頭に装着するライト。登山道に電灯はないので、必需品です。電池切れになっては役に立たないので注意が必要です。
ツエルト
万が一トラブルに遭遇して山中で泊まる=ビバークすることになってしまった場合に役立つ軽量簡易テント
または、
エマージェンシーシート(アルミニウムを蒸着した保温シート。最近は災害時用にも販売されています)
重要な装備についてより詳しく説明します
次に、上の説明だけではちょっと分かりにくい装備や、登山において重要な装備について補足していきます。
登山靴
不整地で活動する登山では、捻挫予防の面でも足首までしっかりカバーしたトレッキングシューズがオススメです。靴底の溝が深くてクッション性も高いので、スリップを防ぎつつデコボコした岩の上を歩いても足裏が痛くなりにくく、足回りの疲労防止につながります。
ザック
登山で使う装備を入れます。ザックの大きさは、「リットル」という単位で表します。15リットル前後くらいから100リットルを超える大型ザックもあります。日帰り登山では、15〜30リットルを目安に選ぶと良いでしょう。
行動中、暑くて脱いだウエアを入れることもあるので、あまり小さすぎると苦労します。また、30リットルくらいの大きさがあれば、無積雪期の山小屋泊まりでも使えます。
レインウエア
標高が高くて地形が複雑な山の上は、雨雲が湧きやすく、街場よりも早くから雨雲がかかり、さらに雲が残りやすいところです。風に吹かれて肌寒い時には、レインウエアのジャケットを羽織るだけで防風対策になります。
ウエアの上から着用するので、普段着ているウエアのワンサイズ上を目安に試着してみるといいでしょう。試着したら手をあげたりしゃがんだりして、動きを妨げたり、下に着ているウエアがはみ出さないかをチェックします。
また、天候不良時はフードを被ります。フードに隙間があると雨風が吹き込んでしまうので、頭や顔まわりのフードをコードなどで細かく調整できるかどうかも選ぶ際のポイントです。
ウエア類
汗などで濡れても乾きやすく、動きやすいウエアを選びましょう。濡れたウエアは不快なだけでなく乾く時に体温を奪っていくので、低体温症などを引き起こす要因にもなります。コットンは汗をよく吸ってくれますが乾くのが遅いので、山登りではNGです。
ヘッドランプ
暗くなった時に足元など周囲を照らすために頭につけるライトです。「暗くなる前に下山するから」といっても何かトラブルが発生して下山が予想外に遅くなってしまうことがあります。どんな山行でも必ず持っていきましょう。
地図
YAMAPなどスマートフォンの「登山アプリ」が登場して、登山中にGPSを利用する人も増えてきました。現在地を画面上に示してくれる登山アプリは、カーナビと同じく便利です。
しかし、自動車本体から電気を供給できるカーナビと違って、気をつけなくてはいけないのが電池切れ。登山中は紙地図を基本に、現在地を確認したい時に登山アプリを起動するといった使い分けが大切です。
登山中に広げるのが面倒で、「持って来たけど結局一度も見なかったよ」とならないよう、必要なエリアをコピーして、透明のフィルムケースなどコンパクトな容器に入れて持っていっています。
また、登山計画を立てる際も、まずは行きたい山とその周辺を俯瞰できる広域の登山地図で把握することで、コースの全体像をつかみやすくなります。
行動食
長時間行動の登山では、休憩中にちょっとずつカロリー補給をしていきます。そうすることで「シャリバテ」と呼ばれるエネルギー切れを防ぐとともに、胃腸への負担を減らすことにもつながります。10分間ほどの休憩で、ときには立ったまま口にするので、個別包装になったものが便利です。
市販のおにぎりならば休憩毎に半分ずつ食べることもあります。行動時間にゆとりがあれば山頂でお弁当を食べたり、山小屋や茶屋などでお昼ご飯を食べることもできます。
ロールペーパー&ゴミ袋
登山口や途中のトイレがトイレットペーパー切れという事態に遭遇することもあるし、また、山中で急遽トイレに行きたくなることもあります。ちなみに野外でトイレに行くことを、その姿勢が似ていることから男性は「キジ撃ち」、女性は「お花摘み」と呼んだりもします。
緊急事態の場合、安全面にも配慮をしつつ環境面にも考慮が必要です。使用済みのトイレットペーパーは、ゴミ袋に入れて必ず持ち帰るようにしましょう。
ツエルト・エマージェンシーシート
日帰りで行ってくるはずだった山登り。途中で道に迷ってしまった、怪我をして動けなくなってしまった、バテてしまってもうこれ以上歩けなくなってしまった……などなど。
どんなに事前に準備をしていても、自然相手の山登り。予想外のトラブルに遭遇する可能性はあります。携帯電話が通じて救助を依頼できたとしても、救助隊が到着するまで山中で夜を明かさなくてはならないこともあるでしょうし、疲労だけならば一晩休んで自力下山できる場合もあります。
雨風や気温低下などから身を守る避難所(シェルター)となるのがツエルトです。2〜3時間のハイキングだから……ということならば、災害時用品にもなっているエマージェンシーシートを携行しましょう。
私の山装備に関する失敗談
登山靴
靴のサイズが同じというだけで、友人から貰い受けた登山靴。最初は調子が良かったのですが、途中から足の指が痛くて痛くて泣きが入る始末で……。厳密にいえば足型が合っていなかったのでしょう。結局、足の爪を剥がしました。
長時間歩き続ける登山では、靴はとても重要です。私が登山靴を購入するときは試しばきをさせてもらうのはもちろん、他の買い物をしながら店内をしばらく歩かせてもらっています。すると、履いてすぐには気にならなかった違和感(足が靴にあたる、カカトが浮くなど)を感じることがあります。
少しでも気になることがあったらその旨をお店の人に伝えて、別の靴を試すということを繰り返し、自分にあった登山靴を選んでいます。
ヘッドランプ
すっかりバテてしまって歩くスピードが上がらなくなってしまい、山中で日暮れを迎えてしまったことがありました。ヘッドランプは持っていたのですが、なんと途中で電池が切れてしまい……。仲間のライトの明かりで照らしてもらいながら降りてことなきを得たのですが、すーっと明かりが消えていくときの不安な気持ちといったら。軽量なライトもあるので、ザックの取り出しやすいところに入れておきましょう。
最後に、一口に「無積雪期の日帰り登山」といっても、登る山によって持っていく装備の調整をしています。行動時間や登山道の険しさ(難易度、標高差、エスケープルートの有無など)の山の要素はもちろん、気温や降雨など季節や天候的な要素によっても基本の装備リストから削ったり、逆に付け加えたりもしています。
「体力に自信がない(=マイナス)。だから装備を削ろう(=マイナス)」ではなくて、「体力に自信がないので、コースタイムが短くて標高差の少ないルートにしよう」など、体力や技術面でゆとり(=プラス)を加えた登山計画を立てるようにしています。
最初は、この「さじ加減」がよく分からないと思いますが、そこは登山だけでなくそれこそ料理でも同じ。山登りを継続していれば間違いなく体力は付きますし、徐々に経験や判断力もついてきますよ。
関連記事:登山計画の立て方 | 山登り基本のキ #01
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イラスト:神田めぐみ
登山ガイド
菅野 由起子
シュラフに寝てみたくて20歳の時に社会人山岳会に入会。ハイキングに始まり夏山縦走、沢登り、岩登り、雪山登山、海外遠征とさまざまなジャンルを経験。そのまま山好きが高じて山岳雑誌出版社、登山用品店勤務を経て、2007年より登山ガイド業をスタートする。現在、新潟県の上越妙高をベースに活動する。登山ガイド事務所・カンスケヤマガイズ主宰、妙高マウンテンスクール所属。公益社団法人日本山岳ガイド協会認定・登山ガイド。
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