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登山計画の立て方 | 山登り基本のキ #01
人気登山ガイドの菅野由起子さんが教える「山登り基本のキ」。登山初心者だけでなく山に慣れたかな、という方もあらためて確認しておきたい基礎知識を紹介します。第1回は「登山計画の立て方」。計画をきちんと立てるかどうかで登山の安全性や楽しさは大きく違ってくるようです。
「旅は自由に、行き当たりばったりがいいよね」という人もいるでしょう。でも、山登りでそれはどうでしょう? 登山計画書は、山登りを安全に楽しむために欠かせない設計図です。テレビで観て、山岳雑誌で読んで、SNSの投稿で知って。「あの山に登りたい!」という目標が決まったら、そのための設計図を作っていきましょう。
山登り基本のキ|登山初心者におすすめ!これだけは押さえたい登山の基本 #01/連載一覧はこちら
目次
STEP1:登山コースの選定と情報収集
まずは情報収集から。
・どのルートから登るのか?(同じコースを往復するのか、それとも縦走するのか)
・技術や体力の困難度はどうか?
といったことに加え、
・季節的な要素の確認(例えば残雪の有無)
・登山口までの交通手段
なども登山計画を立てる際の重要なポイントになります。
そして、ある程度コースの大枠が決まったら、登山道の情報を集めましょう。ガイドブックや登山地図から得られる情報をベースに最新情報を収集して肉付けを。山小屋が発信するブログやホームページ、SNS、そしてYAMAPの活動日記などからも最新情報を得ることができますよ。
STEP2:山行の大まかな行程を考える
歩くコースが決まったら、以下のチェックポイントに沿って大まかな行程を考えていきます。
トータルの行動時間はどのくらい?
ガイドブックや登山地図に記載されているコースタイムには、休憩時間が含まれていません。そのため、登山計画を立てるときには、休憩時間を含めた総行動時間を割り出す必要があります。私の場合、休憩はおおよそ50分に1回、5分から10分ほどの休憩をとるとして算出しています。
何時に登山口をスタートしすべき? 下山時刻は遅すぎない?
いま考えているアクセス方法を利用した場合、何時に登山口へ到着して歩き始められるのかを調べます。公共交通機関利用の場合は登山口によっては本数が少なかったり、週末だけや季節運行だったりするところもあるのでご注意を。トータルの行動時間と下山時刻のタイムリミット(最終運行時間や日の入り時刻など)から考えて、公共交通機関利用では難しいようであれば、自家用車利用で出発時間を早めたり、登山コースの短縮を検討しましょう。出発時間や登山コースの変更が難しい場合は別の山で検討し直したり、日程にゆとりがあれば前日に麓まで移動しておくというのもひとつの方法です。
STEP3:山のトラブルに備える
登山の行程が決まったら、トラブルへの対応策を練ります。
山行内容に適した装備はできているかな?
必要な装備を揃えることは、山のトラブル回避につながります。基本となるのは、無積雪期日帰り登山の基本装備です。これをベースに、季節、天候、気温、そしてコース上の要素を組み合わせて装備を選択していきます。
コース上の要素というのは、例えば「雪渓を通過するポイントがあるからアイゼンが必要」だとか、「岩場があるからヘルメットが必要」というようなことです。他にも、登山地図に”展望良い”と書いてあるところは、「好天なら気持ちが良さそうだけど、悪天時は風の影響をうけるかも」とか、”樹林帯”と記載があれば、「風雨の時は避けられるけど、逆に風が通らないから暑そうだ」などと推測することができます。
無雪期日帰り登山の基本装備については、この連載の2回目で紹介していますので、参考にしてください。
エスケープルートを調べる
エスケープルートというのは、「天気が急変した」「体調が悪くなってしまった」「思ったよりペースが上がらなかった」など、何かトラブルが発生して計画通りに登山が続けられなくなった場合に、当初の予定を変更して下山するための退避ルートのこと。エスケープルートがあるか、その道の状況(安全なのか)を調べておくと、いざという時に安心です。また、道中のポイントでタイムリミットを決めておき、その時間までに辿り着けなかったら引き返すというのもエスケープルートのひとつです。
STEP4:登山計画書を作成・提出する
ここまで決まったら、いよいよ登山計画書の出番。あらためて形にすることで、不備・不足に気づくこともあります。山に入る前の最終確認としてしっかり行いましょう。
登山計画書の作り方
登山計画書は、必要な項目を満たしていれば自前で作ってもいいですし、その山域を管轄する警察のホームページから書式をダウンロードすることもできます。また、最近はインターネットやアプリを使って手軽に作成できるようになりました。自分に合った方法で作成すればOKです。
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登山計画書を共有するのはどうして? どう役立つの?
作った登山計画書は、作って終わりではありません。自分と、登る山を管轄する警察、緊急連絡先(家族や職場の人など自分の普段の生活において一番身近にある人)との間でそれぞれ共有してこそ。登山前に指定の場所に提出するとともに、家族など身近な人にも共有しておくのがおすすめです。
○自分自身としては
登山計画書の装備表は、ザックに荷物を詰める際に忘れ物がないかのチェックに使えます。また、行動中は「自分が立てた行程通り順調に進んでいるかな?」「エスケープルートを使って行動予定を変更した方がいいかな?」など、落ち着いて判断するための行程書としても役立ちます。
○警察としては
遭難などのトラブルが発生した場合に、自分がいる可能性のエリアをおおよそ特定して迅速に捜索してもらうためには、登山計画書からの情報がとても重要になります。
○緊急連絡先としては
緊急連絡先とは、家族や職場の人など自分の普段の生活において一番身近にある人です。怪我や道迷いなどトラブルが発生した場合、携帯電話が通じれば自分で警察にSOSを発信できますが、山中だと圏外の可能性も十分考えられます。本人が警察に連絡できない場合、代わりに救助を要請してくれるのが緊急連絡先を引き受けてくれる人になります。警察は「救助要請」を受けてから捜索をスタートするので、迅速な救助に繋がるためにも、緊急連絡先の人に登山計画を伝えておきましょう。
以上、STEP1〜STEP4まで、登山計画の立て方について順を追ってお伝えしました。ぜひ心に留めていただき、安心安全に登山を楽しんでくださいね。
関連記事:登山装備の選び方(無積雪期・日帰り編) |山登り基本のキ #02
イラストレーション:神田めぐみ
トップ画像:dashさんの活動日記より
登山ガイド
菅野 由起子
シュラフに寝てみたくて20歳の時に社会人山岳会に入会。ハイキングに始まり夏山縦走、沢登り、岩登り、雪山登山、海外遠征とさまざまなジャンルを経験。そのまま山好きが高じて山岳雑誌出版社、登山用品店勤務を経て、2007年より登山ガイド業をスタートする。現在、新潟県の上越妙高をベースに活動する。登山ガイド事務所・カンスケヤマガイズ主宰、妙高マウンテンスクール所属。公益社団法人日本山岳ガイド協会認定・登山ガイド。
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